4.婚約者
マナの補充で休憩中のエルザとシュミットの前に、レイアの案内でクルツが現れると、思いがけない再会に、二精霊が驚いた顔を同時に上げた。
「あんた。こんな所まで何しに来たのよ?」
「重病人を診ている医者に頼まれて、薬草の球根を採りに近くまで来たのだ」
エルザが半眼になって、目的を伝えたクルツを見つめる。
「あんたの、そのちっこい目で見つけられたの?」
「当たり前だ。お前より目が良いぞ」
「あら? そうは見えないけど」
「よっぽど目が悪いな。それはそうと、俺は急ぐから、もう帰らないといけないのだが――」
「だったら、こんなところで挨拶なんかしてないで、急ぎなさい」
「白のエルザさん。そうじゃないの。聞いて」
レイアが右手を横に振って、二人の会話に割り込む。
「速く飛べる茶色のクリストフさんに白のクルツさんも乗せてもらって、途中で私と白のクルツさんを降ろして欲しいの」
「何で、あんたまで降りるのよ?」
「重病人って、アメリアさんなの。正確にはもう一人――」
エルザが目を見開いた。
「それを早く言いなさいよ。さあ、みんなで行くわよ」
よいこらしょと立ち上がったエルザは、地面を蹴って飛び立った。関係ないと言われるかと思っていたレイアは、シュミットと顔を見合わせる。
「白のエルザさんが、アメリアさんの事を心配するって、意外ですね」
「単に、やることがないから、付き合っているんじゃないかな?」
シュミットの推測は当たりのような気もするが、心配してくれている事を期待しつつ、レイアはエルザを追いかける。
だが、エルザもシュミットも十分にマナを補充しないまま飛行したため、途中で何度か休憩のために地上へ降りた。
「悪いわね。あんた達、先に行きなさい。ドラゴンがいくら速くても、こうも休憩が入ると、遅くなりそうだから」
「すみません。先に行きます」
「私とこいつは後から行くから。場所はどこ?」
こいつ呼ばわりされたシュミットは、自分の顔を指差して「僕も?」と目を白黒させる。
「プフェルトラ村のアメリアの家だぞ。間違うなよ」
「大丈夫よ。村人を叩き起こして案内させるから」
「おいおい……」
呆れたクルツが目を閉じるので、レイアは苦笑する。
「僕も行くのはいいけど、茶色のクリストフを隠す場所があそこにはないよ」
「それを何とかするのが、あんたの仕事でしょう? それとも、出来ないって言う訳? 大精霊の側近のくせに」
「――――」
冷たく言い放つエルザに、シュミットは開いた口が塞がらなかった。
先を急ぐレイアとクルツは休憩無しで飛行を続け、ローテンベルゲン公国を越えて、さらにグリューンブリュン大公国を越え、シュヴァルツカッツェン辺境伯領に入り、プフェルトラ村に到着したのは、夜の0時を過ぎていた。
クルツとレイアがアメリアの家の前に着地すると、ちょうど父親のゲオルグがランタンを携えて家を出てきた。ゲオルグの話では、アメリアはヘルマンの家に移され、レオと同じ部屋で寝ているので、これから様子を見に行くという。
十分ほど歩いた所にあるヘルマンの家は、近隣のどの家よりも大きく、如何にも豪農という家構えだった。
ゲオルグが扉をノックすると、中からランタンを手にした寝間着姿の美丈夫が現れた。レイアは、一目で、彼がヘルマンだろうと予想が付いた。
金髪碧眼で鼻が高く、背丈は百八十センチメートルを優に超える。三十歳を超えたばかりという感じがするが、それは五歳の子供がいる事からの推測だ。顔の若々しさから、実際は、二十代後半かも知れない。
「球根は手に入ったのかい?」
「当然だ」
ゲオルグの左横で宙に浮いたクルツを見るヘルマンが問いかけると、次期村長への言葉とは思えない言い方でクルツが答えるので、左端に立つレイアは右肘でクルツを押す。
「そちらのお嬢さんは?」
「レイア・マキシマです。精霊です」
「――――」
「どうかしましたか?」
ヘルマンに頭から足の爪先までジロジロと見られるレイアは、もしかして自分の声が聞こえないのかと心配する。でも、準精霊で動物に姿を変えた段階になれば、常人とも会話が出来るようになるから、精霊の自分の声は聞こえているはず。なので、彼の反応を待っていると、
「凄く可愛い子がこんな夜中に現れるから驚いたけど、精霊だったとは二度ビックリだよ」
聞こえていたようで、レイアは安堵の胸を撫で下ろす。
「驚かせてすみません」
「いやー、裸足だったから、三度驚いたけどね」
彼が笑うので、レイアは白いドレスを引っ張って裸足を隠したくなった。
「誰かと契約しているの?」
「いえ、まだです」
「そうか。うちのレオと将来契約してもらいたいな」
「え?」
「息子は精霊使いを目指していてね。アメリアに憧れて、自分もああなりたいと常々言っているんだ」
確か、精霊使いは十五歳からなれる。これではまるで、十年先の予約みたいで、レイアが苦笑すると、
「レイアはアメリアの見舞いに来たのだ。後で、白猫とコボルトがドラゴンに乗って見舞いに来るがいいか?」
会話に割り込んできたクルツに、ヘルマンは目が点になったが、すぐに笑顔になる。
「もちろん、歓迎だよ。ドラゴンだけは勘弁だけど。この家に入らないし」
ランタンを持ちながら肩を竦めるヘルマンは、破顔した。




