1.精霊界へ
レイアがシュミットに大精霊ヒルデガルトから呼び出しがあった事を伝えると、さほど驚いた様子を見せないシュミットは「分かった」と一言で片付ける。さては事前に大精霊と打ち合わせ済みか、と勘ぐるレイアは、あまり彼に「うん」と答えて欲しくない質問をあえてぶつけてみる。
「もしかして、今までの私の行動は、大精霊ヒルデガルト様に筒抜けだったのですか?」
「バレてたか。怒らないで欲しいんだけど、そうだよ」
「はうう……」
前に、エルザが結界を張っていた時はエルザが何をしているのか見えなかったと聞いたので、それ以外は全部見られていたと思った方が良い。
行動が丸見えだったのだ。そう思うと、穴があれば入りたいほど恥ずかしい。
「でも、どうしてですか?」
「それは、大精霊ヒルデガルト様のお考えだから、僕には何とも……」
レイアが立腹したのかと焦るシュミットは、弁解がましい返事をする。質問しておきながらシュミットに訊いても仕方なかったなと考えたレイアは、腕を組んで俯き、大精霊の真意を探る。
そもそも、大精霊は、人間界にあまり関与するなと言っておきながら、妙に人間界の事情に詳しくて、要所要所を押さえている。それが不思議で、前から気になっていた。
本当は、人間界に精通しているのだ。精通するのは精霊以下には無理で、大精霊だから出来るのだと、暗に言いたいのだろうか。
今回の聖遺物の一件もかなり詳しく調べていて、レイアだったらこれをどう解決するのだろうかと試したのかも知れない。試したと表現するより、信頼して任せたと表現する方が、少しは恥ずかしい気持ちを和らげてくれるのだが。
では、試した理由は何か?
それは、おそらく、準精霊にふさわしい行動を取れるのか、精霊に昇格して良いのかを判断するためだろう。
もう精霊になってしまったが、大精霊はその件で、念話ではなく、面と向かって何かを伝えたいから、精霊界へ呼びつけた。
きっと、そうに違いないと思う。
一通り納得したレイアは、エルザの方へ顔を向ける。
「白のエルザさんは、これからどうするの?」
「私? 金庫の中に聖遺物があるかどうかを調べるのが私の目的で、もうとっくの昔に達成しているから、することないわよ」
「でも、ここまで来てくれて――」
「することないから、付き合ってあげただけ。そのお陰で、精霊教会へ聖遺物が返されて、あんたの目的まで達成してしまった訳。感謝しなさい」
暇つぶしにしては大活躍だった気がして、決断が早くて行動力のあるエルザへレイアは羨望の眼差しを向ける。上から目線であるし、言葉に棘があるし、つんつんしているところは怒られているようでイヤな気分になるが、それ以外――決断力と行動力――では見習いたい。
「じゃあ、ここで別行動?」
「レイアは、どうするの?」
「私は、大精霊ヒルデガルト様に呼ばれたので、精霊界へ戻るつもり」
「あら、そうなの? じゃあ、行こうかしら?」
「どうして?」
「だって、清めの泉が気持ちいいから」
そんな理由で精霊界へ行くのかと、自由人と言うか自由精霊のエルザにレイアは苦笑する。
「それじゃ、まずは、この町からどうやって出て行くかを考えないとね」
会話に混じってきたシュミットに、エルザは「飛んでいけば?」と平気な顔で応じる。
「おいおい、冗談だろ?」
「何よ。精霊教会までこの子も飛んでいったのよ。空を飛べることがバレているのだから、今更、こそこそ帰る必要ないんじゃない?」
大胆不敵な行動を真顔で言うエルザは、呆れて立ち尽くすシュミットを置いてきぼりにして、「先に行くわよ」と空高く飛翔する。
「あーあ。騒ぎが起きても知らないよ」
「もう、十分騒ぎを起こしましたから、良いのでは?」
「……君も白のエルザの考え方に染まったみたいだね」
微笑むレイアは、風の魔法で宙に浮き、グングン遠ざかるエルザを追いかける。肩を竦めたシュミットは、球体の結界で包んだフリーダを右肩に乗せて、群衆が空を見上げて騒めく中を、空に向かって矢のように飛んでいった。




