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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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36.羽の正体

 精霊教会が偽物を信者に拝ませていたからといって、聖職者への暴力が容認されることはなく、教会関係者の連絡を受けて駆けつけた五名の警備兵が、司祭をボコボコにした巨漢の信者と、司祭を押さえつけようとした三名の若い信者を捕縛し、()()(うま)を追い払った。


 だが、偽物の聖遺物を破壊したエルザは器物破損で訴えられることはなく、復古派の乱入も排除されなかった。それは、精霊が犯した罪は精霊使い側の責任であるが、エルザの主はおらず、精霊教会の現体制派と復古派のいざこざは警備隊の(あずか)り知らぬ話になったからだ。


 顔が腫れて余計に赤くなった司祭と、彼の応援に駆けつけた聖職者二十名は、クラウス達復古派と言い争って(にら)()い、一触即発の状況まで沸点が上昇する。だが、黒煙の精霊が両者の間に割って入り、彼らを(さと)した。


「なあ、お前ら。精霊教会って名乗っている以上、本物の聖遺物を前にして、お前ら自身は拝むんじゃないのか?」

「「――――」」

「拝むんなら、仲間だろう? いがみ合っている場合じゃないぜ。手を取り合えよ」

「「――――」」

「拝めねえってんなら、ここから出て行きな。それだけの簡単な話だろうが? 何、さっきから、ごちゃごちゃ言い争っているんだよ?」


 黒煙の精霊の言葉に、復古派の全員が一斉に床に(ひざまず)き、胸の前で両手を合わせて祈りを(ささ)げる。一方の司祭と二十名は、お互いに顔を見合わせ、バラバラと床に膝を突いた。


 全員が祈りを捧げているのを見渡した黒煙の精霊は、フッと鼻を鳴らす。


「じゃあ、お前らは仲間って事でいいな?」

「いや! 断じて仲間ではない!」


 そう言って立ち上がったのは、司祭だった。彼は、クラウスを指差して憤怒の表情になる。


「こいつらは敵だ! 今すぐ、ここから追い出すべきだ!」

「何だよ。拝んだのは偽りって事か? なら、追い出すべきは、お前だ」


 と、その時、司祭が宙に浮いて、野次馬が出て行った扉の外へ、見えない手で放り出された。(おそ)れを成した二十名の聖職者達は、悲鳴を上げながら司祭が消えていった扉の外へ我先に逃げていった。


「何だよ。半分以上、(うそ)つきだったのか。……まあ、いい。これで誰がここを治めるべきかは決まったな」

「でも、連中は、トーマス・フランケン司教の()()を得ている。ここを取り戻しに来るのではないだろうか?」


 天使像の上でフワフワと浮いている黒煙の精霊に向かって、クラウスは不安の(まな)()しを向ける。


「何人来ようと、俺が守ってやる」

「大丈夫なのか?」

「精霊を()めるなよ」

「でも、トーマス・フランケン司教との約束があるのではないか?」

「約束? 姿を消して患者を治療することと、『私の名前を口にするな』だけだぞ。あとは、俺が決める話だ。いくら約束した相手でも、約束に関する事以外で俺の決めた事には口を出させないから、安心しろ」

「分かった。ありがとう。恩に着る」


 これで復古派の復帰も安泰に思えたレイアは、クラウス達に別れを告げた。


「レイア。ありがとう」

「あら? お礼は、私に対してじゃないの?」

「そうだった。白猫、ありがとう」

「白のエルザよ。覚えておきなさい。ここに来ることはもうないと思うけど」

「ハハハッ! 恩人として覚えておくよ!」


 苦笑するクラウスが、エルザに向かって右手を振った。



 精霊教会の建物を出ると、門番はシュミットを見て悲鳴を上げて逃げていく。英雄達を出迎える野次馬はなく、通行人は宙に浮くエルザとレイアの()(だし)に目を向けるだけで、町は普段通りの(けん)(そう)(あふ)れていた。


「これであんたの目的は達成ね」


 エルザと同じ目の高さのレイアは、「ううん」と首を横に振る。


「まだよ」

「まだ? あんた、意外に強欲ね」

「だって、まだ解決していないことがあるから」

「何が?」

「クノル銀行にいた商人達が、聖遺物を何に使っていたかがはっきりしていないでしょう?」

「あんたねぇ……」


 半眼になったエルザが、レイアの方にスーッと近づいていく。


「聖遺物は見つかりました。返しました。はい、終わり、よ」

「確かにそうだけど、また悪用されるかも知れないでしょう?」

「そんなの、どうでもいいじゃない?」

「良くない」


 エルザとレイアが睨み合うと、首を横に振るシュミットが肩を(すく)める。


「レイア。君は好奇心が強すぎる。精霊と言うより、ほぼ人間だね」

「そうですか?」

「そうだよ。元は、白のエルザが襲われた所から始まって、なぜ襲われるのか、なぜ精霊界から出て行ったのか、なぜ銀行を監視しているのか、と、ずーっと白のエルザを追いかけていって、聖遺物をこの教会に返還する所まで辿(たど)()いた。それは、精霊には思いもつかないし、やり遂げることが出来ない(すご)い事だ、と僕は認めるけど、もうこれ以上、人間界に首を突っ込まない方が良いと思うんだ」

「どうしてですか?」


 と、その時、頭の中で女性の声が響き渡った。


『レイア』


 大精霊ヒルデガルトの声だ。


 精霊界からこんな遠方まで念話が届くのは驚異的だ。それ以前に、大精霊にずっと監視されていたのではないかと思うと、ゾッとする。


『――は、はい』

『今すぐ、精霊界に戻りなさい』

『でも――』

『これ以上、人間界のいざこざに関与してはなりません』

『あの商人が、おそらく大精霊ヒルデガルト様もご覧になっていたと思いますが、聖遺物を悪用していたと思うのです。彼らがここまで取り戻しにやって来るのではないかと思うと――』

『それは、聖遺物を守るべき人に任せれば良いのです』

『――――』

『今回は、やり過ぎました。国の長を相手に(けん)()を売ったのと同じですよ』


 レイアは身震いがした。やはり、そうだったのだ。聖遺物の持ち出し事件の背後にローテンベルゲン公がいたのを大精霊は知っていたようだ。


『あの商人は、国の長に近い人物に深く関わっています。彼らを(たた)くと、次は黙ってはいないでしょう』

『――――』

『だから、ここは引くのです。そして、復古派でしたか、彼らに運命を委ねるのです』


 レイアは(うな)()れ、悔し涙を堪えて『分かりました』と言葉を返す。


『そうそう。今から話す事は、灰色のシュミットは知っていた事ですが、黙っているように彼に言い聞かせておいたので、彼を恨まないでください』

『何でしょうか?』

『あの羽は、ただの羽ではなく、言葉を発する事も念話も出来ない精霊なのです』

『えええっ!?』

『おかしいと思わなかったのですか? 精霊は、最後は消滅します。いくら大精霊でも、例外ではありません。それなのに、何故(なぜ)、羽が残るのですか?』

『あっ――』


 その事に今まで全く気付かず、レイアは(ほう)けたようにポカンと口を開ける。


『あのような精霊もいるのです。気に入った精霊に触れられると力を与えたり能力を引き上げたりするけれど、気に入らない精霊に触れられると相手を消滅させる。感情が表に出ないので、触れてみないと分からない恐ろしさはありますが』

『――――』

『言葉も感情も外に出さないから、ただの羽にしか見えない。でも、(れつき)とした精霊。驚いたでしょう?』

『そのことをクラウスさん達に伝える必要はありますか?』

『それは、レイア自身が判断することです』


 大精霊にボールを投げられたレイアは、熟考する。


 大昔に大精霊の残した羽と信じられてきたのは、実は嘘で、それ自体が羽の形をした精霊だった。嘘をついたのは、聖者かも知れない。あるいは、聖者にその羽を見せた精霊か。


 誰が嘘つきかはともかく、羽は実は精霊です、とクラウス達に伝えて、何か彼らの利益になることはあるのだろうか。


 今は思い付かない。でも、真実を伝えたところで、羽の価値は下がらないだろうし、希少価値が出るとは考えにくい。


 このまま、ソッとしておこう。


 結論が出たレイアは、大精霊に問いかける。


『大精霊ヒルデガルト様。私は、準精霊から精霊になれたのでしょうか?』

『レイアは、もう精霊です。さあ、精霊界へ帰っていらっしゃい』

『はい!』


 レイアは空を見上げる。すると、ちょうど雲の切れ間から青空が広がった。彼女は、青空の中に大精霊ヒルデガルトの姿を見たような気がした。

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