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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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34.強行突破

 エルザは、大通りの雑踏の中を走って通り抜けるのではなく、歩行者の頭上を()(しよう)する。肝心の聖遺物を抱えて走るレイアを置き去りにして、空身の単独で突っ走るのは、あまりに無謀。


 でも、今に始まったことではない。クノル銀行から逃走した時も、後ろを振り向かずに林まで一直線に飛んでいき、そこで初めて振り返って「あの子、何をやっているのかしら?」と首を(かし)げる始末。


 協調性の(かけ)()もない人造精霊は、やる事なす事、()(ちや)()(ちや)である。


 そんなエルザがグングンと距離を離して大人の頭の間から消えていくのを見ていたレイアは、エルザの無茶苦茶ぶりが伝染したようで、走って追いつこうという気概をかなぐり捨て、容器をしっかり抱えてから風の魔法で飛び立った。どよめく人々の視線にくすぐられる彼女は、身勝手なエルザを猛追しようと速度を増す。


 矢のように白猫が飛び去った後ろから、()(だし)の少女が黒くて細長い物をしっかりと抱きかかえ、ドレスを風に(なび)かせながら矢のように飛んでいく。この不思議な光景に、道行く人々は足を止め、荷車を引く人は立ち止まり、御者まで竜車を()め、白猫と羽のない天使に見える少女を目で追う。


 彼女達の向かう先には、精霊教会がある。人々の視線が、教会の扉に集まった時、両脇に立ってワンドを手にする二人の門番の制止を振り切って、白猫は風の魔法で扉を強引に開いて中へ突入し、飛翔する少女も後に続いた。


 この珍事に、多くの()()(うま)が駆けだして精霊教会の前に集まってきたので、門番がワンドを振り回して遠ざけようと目を三角にする。


 扉の向こうは古城のだだっ広いエントランス・ホールで、おそらく、絵画や彫刻が国賓らを出迎えたのだろうが、今は、壁のあちこちに留め具の穴があり、彫像用の台座が左右にそれぞれ五個ずつ並んでいるだけ。このがらんとした空間の奥には、質素な扉があり、人の声が響いている。そこを目指すエルザに対して、追いついて真後ろに付けたレイアが声をかけた。


「奥から精霊の気配が!」

「分かってるわよ!」

「あれがクラウスさんの言ってた――」

「間違いない!」


 言い終えたと同時に、風の魔法で(ちよう)(つがい)が外れんばかりに乱暴に扉を開いたエルザは、レイアと共に中へ突進した。


 そこは、幅十五メートル、奥行き三十メートルほどの礼拝堂。左右に長椅子が五脚ずつ計十脚あり、白ローブを着た信者と民族衣装を着た人物――おそらく患者が一脚に四人ずつ、合計四十人が奥の方を向いて座っていたが、物音に驚いて全員が振り向いており、誰もが目を丸くしている。


 奥の壁の前には、高さ二メートルの古風な天使の白い石像が台座に置かれていた。()(わい)らしく(ほほ)()む石像は、四百年もの年月を経て、古びた感じを醸し出しているというよりも、手入れをせずに薄汚れてしまっているというのが正しそうだ。


 その足下に、レイアが持っている聖遺物と(うり)(ふた)つの羽が、透明な容器に収められて横向きに置かれ、それに背中を向けた司祭と思われる立派な聖職者の服を着た人物が立っていた。ちょうど、信者に向かって何かを説き聞かせていたのだろう。


 彼の体型はビル樽のようで、丸顔は赤ら顔。さらに、白を基調として金糸をふんだんに使った装飾の服が、()()()く、金満の宗教家でございと自ら主張しているように見える。


 話の腰を折られた司祭は、白猫と少女の(ちん)(にゆう)(しや)(きよう)(がく)の表情を見せてたじろいだ。


「な、何故(なぜ)()()がここへ?」


 そう言った彼は、ハッとして右手で口を(ふさ)ぎ、まずいことを口にしたと後悔する。


 エルザは急に減速して、青い顔をする司祭の二メートル手前で宙に浮いたまま停止する。レイアは、その後ろで一旦停止してから、フワリと通路に着地した。


「あら? 精霊が来ては困ることでもあるのかしら?」

「そ、それは……」

「その羽、精霊が近づくと光るのよね?」


 そう言って、エルザは司祭が手を伸ばすよりも早く容器に近づくと、風の魔法で容器を割り、羽の真ん中を右前足で強く押さえた。すると、ボキッと音がして真ん中から折れてしまった。


「あらら? 光もしないし、折れたわよ。ツルツルしているから、陶器みたいね」


 エルザが、折れた羽を二つとも放り投げると、あろうことか、床に落ちた羽が粉々に割れてしまった。


「ほら、見てみなさいよ。これが、あんた達が拝んでいた有り難い物の正体よ」


 破片を前足で器用に(つか)んで信者達に向かって放り投げたエルザは、これまた器用に前足で腕組みをして、フワリと宙に浮き、破片を(あらた)める信者達の方を向いた。


「みんな。今まで気の毒だったけど、真っ赤な偽物を見せられていた訳。本物は、そこにあるわ。レイア、その布を取りなさい」


 レイアは「はい」と言って、黒い布を取り払う。すると、レイア――精霊――に反応して金色の輝く羽を収めた透明な容器が現れた。前列にいた信者達は(どよ)めき、中列と後列に座っていた信者達は、我先にとレイアの周りに集まってきて、口々に驚きの声を上げた。


「その子は精霊だから、光るの。本物だから当然だけど」


 エルザはご満悦の様子で辺りを見渡す。


「おお! 本当に光っているぞ!」

「これこそが聖遺物だ!」

「今までのは、偽物だったのか!」


 信者達の驚愕の声と怒りの声が礼拝堂の中で渦巻いた。


「あ、あ、あ、なんてことを……」


 目が飛び出んばかりに驚愕する司祭は、腰を抜かして床に尻餅をついた。


「なんてことを? ()()()()()()()()()()()()()()()()()だけよ。何が悪いの? それとも、あんたにとって、都合が悪い事だったの?」


 上から(にら)()けるエルザの近くに、怒りで顔を真っ赤にする信者達が集まってきた。レイアは、「あるべき所~」という自分の言葉を勝手に使われたような気がして、頬を少々膨らませた顔をエルザへ向けた。


 その時、礼拝堂の中にシュミットが入ってきて、手をパンパンと(たた)き、にこやかに笑う。


「門番や手下は粗方片付けたよ。これで邪魔者は、いなくなった」

「いなくなった? まだいるわよ」

「えっ?」

「あんた、鈍いわね」


 首を傾げるシュミットから視線を切ったエルザは、スルスルと天使の石像の裏側に回り込む。


「そこに隠れているのは、分かっているのよ。出てきなさい」

「ちえっ!」


 舌打ちと共に、天使の背中にあったひび割れから、黒い煙が立ち上った。

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