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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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31.精霊教会の暗部

 クラウスは「話が長くなるから」と言って、仲間と精霊達に床へ座るように勧めた。


「精霊は立ちっぱなしでも疲れないわよ――って、あんた達、もう、ちゃっかり座っているし」


 聖遺物を抱えたまま腰を下ろして女の子座りするレイアと、床に胡座(あぐら)()くシュミットを交互に見たエルザは、鼻を鳴らして尻尾巻き座りをした。


 辺りを見渡したクラウスが、言葉を発しようとした時、シュミットの右肩の上で球体の結界に囲まれていたフリーダが、揺れながら提案する。


「師匠。これから秘密の話が始まるのですよね? なら、壁を抜けて誰か入ってこないか、あの階段の所で見張ってていいですか?」

「灰色のシュミットさん。いいですよね?」

「ああ、そうだね」

「じゃあ、しっかり見張っていてね」

「お任せを!」


 シュミットが結界を解除すると、フリーダは扉へ向かってフワフワと飛んでいき、細長い体になって鍵穴をすり抜け、部屋の外へ出て行った。その様子を見ていたクラウス達復古派の面々が目を丸くする。


「よく、あんな所をすり抜けていきますね? あの鍵穴は複雑な構造をしているのですよ」

「ええ。そういうのが得意な微精霊なのです」

「なるほど……。皆さんも、ああやって小さな穴とかを通り抜けられるのですか? 出来るのでしたら、精霊教会への潜入も簡単ですね」

「さすがにそれは……」


 顔を見合わせるレイアとシュミットは、首を横に振り、同時にクラウスの方へ向いた。


「それは残念。教会の宝物庫に入って、取り戻して欲しい物がもう一つあるのですが」

「何でしょう?」

「このくらいの大きさの壺です。それは、後で説明します」


 クラウスは、両手で高さ三十センチメートル程度の壺を上から下まで()でるような格好をした後、腰を下ろして胡座を掻き、過去の経緯を語り始めた。



 □■□◆□■□



 金色の(おお)(わし)の姿をした大精霊が残したとされる一枚の羽の存在が文献に登場したのは、今から(さかのぼ)ること三百年前。各地の超自然的な現象を記録したその文献には、(へん)(さん)された年より百年ほど遡る出来事として、羽にまつわる奇跡が次のように書かれていた。なお、ローテンラントとは、今のローテンベルゲン公国の領地を含む土地である。



 各地を転々としていた聖者が、ある時、金色に輝く羽を透明な容器に入れて抱えている人型精霊と共に、ローテンラントの人々の前に現れた。聖者は羽を指差して、「これは、大鷲の姿をした大精霊が残した羽である」と語った。


 集まってきた人々の中に「それは奇跡を起こすのか?」と問う者がいたので、聖者は精霊に羽で奇跡を起こすように命じた。


 精霊は容器から羽を取り出して、()()をした者の患部に羽を近づけると、たちどころに治癒した。さらに、病気に苦しむ者の胸に羽を近づけると、()ぐさま回復した。この効果に、人々は驚嘆して、奇跡を信じた。


 折しも、ローテンラントでは隣国との大規模な戦争が起きていて、負傷者が続出していたので、人々に請われた聖者と精霊は、治療のために戦地へ(おもむ)いた。


 ところが、兵士達の治療中に、聖者は急襲した数名の敵兵に惨殺された。これに怒った精霊は一瞬で敵兵達を殺し、羽が入った容器と聖者の遺骸を、司令部として使っていた古城に安置した後、「残りの敵を皆殺しにする」と誓って去って行った。


 確かに、敵は一夜にして全員が殺されたが、精霊は二度と姿を見せなかった。



 聖者の死を悲しんだ人々が、遺体が安置された大広間へ祈りを(ささ)げに行くと、天使の石像が立つ台座に置かれていた容器の中で、羽が輝いていない事に気付いた。しかし、負傷者が容器へ近づくと、ジワジワと怪我が治癒していく。この「奇跡を起こす物」の噂は、(たちま)ち、ローテンラント中に広まることとなる。


 噂を聞いた()()(にん)や病人が古城へ赴くようになったが、(へん)()な場所にあるので、交通の便が良い場所へ容器を移そうとしたが、誰も触れることが出来ない。やむなく、この場所にそのまま安置することにし、王の命令もあって、古城を再利用して精霊教会を建てた。


 精霊教会になったため、数人の聖職者が配置された。


 その後、参拝客等を相手にした商売人も集まり、いつしか門前町となって、今の町の原型が出来上がった。



 こうして長い間、奇跡を起こす聖遺物を守る――と言っても、触れられないので見守るしかない――聖職者が何代も続いていたが、半年前に、最高責任者である司祭が何者かの手によって殺害され、ローテンベルゲン公が新たな司祭として精霊使いのゲルトルート・フランケンを遠方の国から招いた。あの、異常なほどの痩身の男であるが、当時は細身の美丈夫であった。


 歴代の聖職者が全てローテンラント出身者である伝統を()(にじ)ったローテンベルゲン公は、国益を優先し、軍事力の増強に重点を置いた政策を進めていて、元々は戦力を期待しての精霊使いとして彼を雇った。だが、どういう訳か、彼を精霊教会の最高責任者に据えてしまう。


 新しい司祭の掲げた精霊教会の使命は、今まで行ってきた人々の救済の枠を越えた「聖遺物の新たな活用方法を模索すること」。時代は新しくなったのだから、それを聖職者全員で考えようとの呼びかけに、皆は賛同した。


 だが、具体的に何をするとも決まらずに時は過ぎ、司祭は徐々に痩せ細っていった。その時、聖職者として赴任したばかりのクラウスが、病気を疑って聖遺物を治療に使う事を提案したところ、何故(なぜ)か拒絶された。



 三ヶ月前のある時、聖職者の一人が、司祭が容器に手を触れて「力が湧いてくる」と悦に入っている現場を目撃する。この目撃情報は、その後も続き、司祭は力が湧く割には恐ろしいほど痩せていく。


 疑念を抱いたクラウス達聖職者は、「まさか、精霊以外は聖遺物を触れられないとは、遠ざけるための嘘か?」と思って、司祭も信者も不在の時にこっそり触れようと打ち合わせる。


 そして、五人が集まり、代表でクラウスが手を伸ばしたが、触れる事が出来なかった。指先に火花が散って、激痛が走るのだ。


 だが、司祭は触れている。これはどう考えてもおかしいと思ったが、司祭が突然姿を見せたので、クラウスは五人が集合した適当な口実を作ってその場を逃れた。



 翌々日、触り方にコツがあるのかと思って、また五人が示し合わせて聖遺物の前に集合し、クラウスが角度を変えて手を伸ばすと、今度は容器に触れる事が出来た。


 互いに顔を見合わせて驚く彼らの前に、突然、黒い煙の塊が現れて、嘲笑しながら種明かしをした。


「そこにあるのは偽物だ。お前達が(あが)める本物は、他に利用するため、すでに別の場所へ保管した後だよ。偽物では患者を治療できないので、俺様が姿を消して、こっそり治療することになったのさ」

「貴様は何者だ!」

「精霊だよ」

「誰に雇われた!?」

「言えないね」

「司祭は、この事をご存じなのか!?」

「昨日、知ったよ。人造精霊を作るために使おうとしていたのに、と悔しがっていたけどな」


 いつの間にか偽物とすり替わっている事に加えて、司祭――ゲルトルート・フランケンの真の目的まで知らされて(きよう)(がく)するクラウス達は、翌日、さらに驚かされる。


 ――司祭が、突如として交代。しかも、ゲルトルート・フランケンは行方不明となったのだ。


 ローテンベルゲン公が任命した新司祭は、ハンス・クレメンス。彼も他国から招かれた精霊使いだが、「信者の寄進を増やすことを考えろ」とクラウス達聖職者に命じた。


「信者に聖遺物の偽物を拝ませて、裏で精霊が治療しているのですよ? このままでいいのですか?」

「治療できるのだろう? 何の問題があると言うのだ?」

「これ以上、人を(だま)す事は出来ません!」


 クラウス達聖職者が憤慨するも、ハンス・クレメンスは一切取り合わない。さらに、隠蔽を良しとしないクラウス達に対して、精霊教会の刷新と称して、自分以外の聖職者全員を追い出した。


 追い出された聖職者は、二十名。ところが、翌日から、一人、また一人と暗殺されていく。口封じのためと考えたクラウス達は、地下に潜り、復古派として結束する。


 そして、現在、十二名が生き延びている。



 三ヶ月近く地下に潜ったクラウス達は、聖遺物がどこに隠されているのかの情報を探し求めたが、なかなか手に入らない。(いら)()つ日々を過ごしていると、ある時、妙な噂を耳にした。


「聞いたか? 軍隊に入隊した精霊使いや魔法使いの人格が、みんな変わるってよ」

「しごかれているからじゃねえのか?」

「そんな事で変わるか?」

(ひど)く痩せる奴もいるってよ」

「ほら、しごきだぜ」

「でもよ。奴ら、()(ちや)()(ちや)力が湧くって言っているらしいぜ」

「しごきのお陰よ」


 クラウス達は、「酷く痩せる」「力が湧く」という言葉から、ゲルトルート・フランケンの事を思い出す。まさか、精霊使いや魔法使いに対して強引に何らかの方法で聖遺物を触れさせて力を与えているのか。


 そして、手がかりが(つか)めないまま、聖遺物が悪用されていないかと、気を()む毎日を過ごしていた。



 □■□◆□■□



「とまあ、以上が経緯です」

「あのー、壺の話がなかったようですが?」


 長話の疲れでフーッと息を吐くクラウスは、レイアの指摘に頭を掻く。


「そうでしたね。羽の話ばかりして、つい忘れてしまいました。壺は、封印に使うのです」

「封印ですか?」

「ええ。偽物の聖遺物の陰で代理を務めている精霊を封じ込めるためにです」

「単に追い出すだけでは、駄目なのですか?」

「駄目です。奴は言っていました。『俺がいる限り、本物を絶対に台座(ここ)には置かせない。俺を追い出せるものなら追い出してみろ』と」


 クラウスは声を思いっきり低くし、眼光を光らせて、精霊の言い方を()()て見せた。真に迫る演技に、レイアはゾッとする。


「壺は、宝物庫にあるのでしたっけ?」

「ええ。本当は別の所にあったのですが、司祭が、壺を厳重に保管するため、宝物庫に入れてしまったのです」

「何故、厳重に?」

「精霊を封印させないためにです」

「――――」

「今の司祭になってから、精霊教会の外観が急に(ごう)(しや)になりました。堂々と偽物を使って、(かね)(もう)けに励んでいる証拠です。いや、本物を別の目的に使って、そちらからも利益を得ているかも知れませんね」

「――――」

「何はともあれ、今の精霊教会に巣くう悪党どもを排除して、元の姿に戻さなければならない。それが、僕ら復古派の、絶対にやり遂げなければいけない使命なのです! 奴らに殺された仲間の死を無駄にしないためにも!」


 クラウスの言葉は徐々に熱を帯び、レイアの心に訴えかけた。


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