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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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30.精霊教会の復古派

 レイアは、周りから祈りを(ささ)げられているような気がして困惑し、一歩下がった。だが、よく考えると、()(とう)の対象は自分ではなく両腕で抱えている聖遺物のはずで、勘違いも甚だしい。早とちりに苦笑する彼女は、青年が口にした「復古派」の言葉に、目の前にいる人々が聖遺物を返還すべき相手だと考え、無心に祈る青年に向かって問いかけた。


「私の持っている物が、皆さんが取り戻したいと思っている物だと、どうして分かるのですか?」


 少女の素朴な質問に、彼は答えない。それは、無視しているからではなく、心の中で唱えている祈祷の言葉を中断したくないからで、全てを唱え終わった彼は、顔を上げて唇を(ほころ)ばせる。


「大きさも形も同じなのは(もち)(ろん)ですが、何よりも、そこから霊的な物を感じるのです。それに――」


 仲間の手前なのか、出会った時よりも丁寧な口調になった青年は、指を(そろ)えた右手で少女を指し示す。


「君――いや、貴方(あなた)のような精霊にしか、そうやって持つ事が出来ないからです」

「そうなのですか?」

「ええ。直接には勿論のこと、たとえそのように布で覆われていても、人間(ヒユーマン)も獣人も触れることすら出来ないのです」

「触れないにしても、近づくことは出来ますよね? 道で私の横を歩いていたくらいですから」

「あの距離が限界ですね。あれ以上近づこうとすると、まるで拒絶の結界でも張られているかのように、弾かれます」

「――――」

「やってみましょうか?」


 不思議そうな顔をする少女に向かって(ほほ)()んだ青年だったが、いざ実演の段になると、緊張の面持ちでゆっくりと立ち上がり、震える右手を伸ばしてソッと近づく。すると、指先が聖遺物の三十センチメートルくらいに近づいたところで、小さな青白い放電現象が発生し、彼は痛みで顔を(ゆが)めて手を引っ込めた。まるで、静電気のショックを受けたかのようだ。この放電現象がなかったら演技ではないかと疑ったかも知れない。


「お分かりいただけましたか? こんな感じです」


 なるほどと(うなず)くレイアだったが、何か心に引っかかりを感じていた。このモヤモヤは何だろうと気にはなったが、まずは話を進めることにした。


「分かりましたが、皆さんとこの聖遺物との関係を、さらに今の精霊教会の状況を、私達に詳しく説明していただけますか?」


 (しび)れる右手を振っていた青年は、レイアの質問に両腕を広げて笑う。


「勿論いいですよ。その前に、自己紹介をさせてください。私は、クラウス・シュネーベルク。貴方は何とお呼びすれば良いのでしょう?」

「レイア・マキシマ。レイアでいいです」

「人間みたいな名前ですね?」


 目を丸くして驚く青年に、エルザが「この子は普通じゃないわよ。()(ちや)()(ちや)強い、規格外の精霊だから」と補足する。いきなり猫が(しやべ)ったので一同がザワつくかと思ったが、精霊である事を知っていたのか、彼らは白猫の言葉に「マキシマと言うだけある」と感心して頷く。


 レイアは、自分の名前に対するこの反応が気になるので、青年に向かって「何故(なぜ)ですか?」と問いかけると、彼が息を吸うタイミングで、正面にいた老人が先に答えた。


最大級(マキシマ)、つまり、これ以上に上がないという意味に(つな)がるのじゃ」


 マキシマムなら分かるが、この異世界ではそう言う意味なのか、と今度はレイア当人が感心した。()()()()()()()()()()()()()()()を抱えた最大級の精霊。


 悦に入るレイアは、この時、頭の中で何かが光ったように感じ、自分以外の誰かがこれを抱えていた光景がありありと目に浮かんできた。急にモヤモヤが晴れた彼女は、クラウスが「では――」と話題をレイアの質問に対する答えに替える言葉を発した時、これを遮った。


「思い出しました。! 人間でこれを抱えていた人がいました!」


 レイアの言葉に(きよう)(がく)して口をあんぐりとさせたクラウスに合わせるように、一同も同様の表情を見せる。静寂が訪れ、彼らが石像のようになる反応を見て、爆弾発言でもしたのかとレイアは()(ろた)える。


「皆さん、どうしました?」

「ど、どこで、そいつと遭遇しましたか!?」


 クラウスのただならぬ動揺が、レイアにまで伝染する。何か、とんでもない人物に遭遇していたのだろうかと、彼女は目を白黒させる。


「アハトブリュッケンの近くにある林の中です」


 心当たりがないという顔をしながら、クラウス達は互いに顔を見合わせて首を横に振る。すると、一人の若い女性がレイアに恐る恐る尋ねる。


「そいつは、もしかして、極端に痩せ細っていませんでしたか?」

「ええ。頬がこけて目が飛び出ていて、まるで骸骨が黒ローブを着ているかのようでした」

「やっぱり。そいつは、ゲルトルート・フランケンよ。聖遺物の容器を抱えられるのは、その男しかいないから」


 ゲルトルート・フランケンの名前が地下室に響いてから、一気に室内は騒めきに満たされた。


 ――こうまで彼らを興奮させるのは何故か。


「その人は、精霊なのですか?」

「人間よ。いや、半人間、半精霊と言った方がいいかも」


 そんな事はあり得るのだろうか? 何かの間違いだと思いたい。


「なら、人造精霊でしょうか?」

「違うわ。元人間。それが、聖遺物と深く関わっているうちに、おかしくなっていったの」

「おかしく?」

「徐々に精霊化していった――」


 恐怖に怯えるような顔をする女性に向かって、眉をハの字にするクラウスが言葉を挟んだ。


「生きた人間が、精霊化するはずがないよ」

「でも、あの格好はどう見ても人間じゃないわ」

「異常なほどの痩せ過ぎは否定しないけど、奴が聖遺物を手に出来るのは、何かの魔法を会得したと考える方が腑に落ちるけどね」


 納得のいかない様子の女性だったが、クラウスに反論出来ず、目を落とす。



 これまでの情報を整理したレイアは、あの男が聖遺物を持ち出した犯人ではないかと推理し、自分の考えを披露しようとしたが、クラウスがこちらを見て「まずは――」と言ったので、彼の次の言葉を待つ。


「こちらの事情を伝えるより先に、レイアがどうやってそれを手に入れたかを教えてもらえますか?」

「ええ、いいですよ」


 語り出すととんでもなく長くなりそうなので、どこから話を始めようかと迷ったが、エルザが精霊使いのキルヒアイスの指示で、聖遺物をアハトブリュッケンのクノル銀行に隠しているのではないかと監視していたところから語り始めた。


 所々に訂正の言葉を投げ込むエルザだったが、結局、クノル銀行の金庫から聖遺物を奪回する事に成功し、林の中まで逃げて、痩身の男――ゲルトルート・フランケンに遭遇して奪われそうになり、ここまで逃げた、で話を終えた。


「ありがとうございます。危ない目に遭いながらも、ここまで返しに来てくれたことに大変感謝いたします」

「いえいえ」

「奴は隠していた場所の近くに潜んでいたのですね。精霊教会へ聖遺物を納める時に、妨害しに来るかも知れませんから、そちらも見張りましょう」

「その方がいいですね」


 微笑むクラウスは、軽く(せき)(ばら)いをした。


「では、レイアの質問に答えましょう。何故、精霊教会の中に我々のような復古派がいて、聖遺物を取り戻そうとしているのかを」

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