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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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29.地下の隠し部屋

 フードを目深に被り直した青年は、目的地へ急ぐと思いきや、他の通行人と同じような歩調で足を進める。こうしていると、似たような灰色のローブを着た人が何人もいるので、特に目立つこともなく雑踏の中に溶け込んで見える。


 彼の後ろに付いていって良いか迷ったレイアだが、「あっちに足を向けて寝ている」「その大事そうに持っている物が、何だか知っている」という彼の言葉と、クノル銀行で禿(とく)(とう)の大男が白ローブを着て聖遺物を抱える少女を見て「お前は精霊教会でその羽を取り戻す一派だろ?」と言っていたことを総合すると、彼とその仲間が聖遺物の返還相手かも知れないと考えて、足を踏み出した。


『そいつを信じていいの?』


 背後にいるエルザが念話で話しかけてきた。当然の疑問だろう。レイアは、歩きながら振り返って質問者を見下ろす。


『賭けてみる。いざとなったら、加勢して』

『――調子のいいこと』


 彼女は、半眼になったエルザから青年の背中へ視線を移して、歩を進める。



 しばらく歩いていると、レイアは先ほどから周りにいる通行人の視線が自分の足の方に向いて、それから顔へ移ることに気付いた。彼らに見習って、ソッと下を向くと、自分が()(だし)である事に今更ながら気付かされて納得した。


 彼らの視点に立って想像すると、靴を無くした少女が、大事そうに黒くて細長い何かを抱えているのだから、確かに気になるだろう。証言者がどんどん増えていくので、早く赤猫亭の中に入りたいと思っていると、青年が()()()く店に入るような素振りで右側の建物の中へ消えた。


 店の黒い看板を見上げると、猫がお澄ましして座っている姿の透かし彫りがあって、その上に金文字で何か書いてある。レイアは異世界の文字が読めないので、曲線と直線の組み合わせの装飾程度にしか見えなかったが、これが青年の言う赤猫亭なのだろうと思って、足に視線が刺さるむず(がゆ)さから逃れるため、足早に彼の動きに従った。


 レイアが慌ただしく店へ入ると、広い店内には(あか)りがなく、通りに面した小さな窓から差し込む光のみで薄暗かったが、いくつもの椅子が逆さに置かれた丸テーブルがたくさんあるのが見え、奥にはバーのカウンターみたいなものや酒瓶が並んだ棚があるので、一見して居酒屋だと分かった。


 テーブルの間を縫うように、猫人族の三人の女性がモップを持って掃除をしている。質素な服を着た彼女達は、カチューシャを付け、丈の長いスカートにエプロン姿なので、ウエイトレスらしい。尻尾を揺らす三人は、開店前に現れた少女が視界に入ると、顔を上げて目を丸くし、尻尾の動きが止まる。


 (どう)(もく)する彼女達に迎えられて戸惑ったレイアだが、六つの目が自分の顔ではなく、抱える物に集まっている事に気付いて、今度は両腕がむず痒くなる。


 聖遺物を布で隠しているのに何故(なぜ)こんなに注目を集めるのか分からないレイアだが、振り向かずに(ちゆう)(ぼう)への出入り口へ大股で入っていく青年の背中を追い、三人の熱い視線を振り切る。


 厨房へ入ると、背後の光が唯一の光で、手探りでしか歩けない闇が広がっていた。だが、暗い場所でも見えるレイアには何ら支障はない。固く閉ざされた窓が闇を作り、整理された調理器具、棚に所狭しと並ぶ食器類やジョッキ等が調理人を待っているのが見えている。


 青年の方へ目を向けると、彼は厨房の奥でしゃがみ込んで(うつむ)き、床に右手を当てて何やらブツブツ言っている。この不思議な行動に、レイアはまたも戸惑う。


 何をしているのか。それより、こんな暗いところでよく見えるものだ。彼は普通の人間(ヒユーマン)ではないのか、などと思っていると、彼の右手に当てられた床に、薄青の魔方陣が出現して輝き始めた。


 地下へ(つな)がる隠し扉を開こうとしているのだろうと思っていると、魔方陣の輝きが消え、立ち上がった青年はレイア達の方へ振り返った。厨房には何も変化がなく、ますます青年の行動が不審に思えてくると、


「さあ、この奥だよ」


 そう言って、彼は正面にある縦長の大きな食器棚へ右手を伸ばし、またもや薄青の魔方陣を出現させると、ゴトゴトと音を立てながら食器棚が床下へ沈み込んでいく。


 この大仕掛けに驚くレイアの前に現れたのは、穴ではなくただの壁。拍子抜けする彼女が青年の背中を見つめて「ややっ! 失敗したぁ!」と頭でも()くのかと思っていると、彼はもう一度振り向いて、


「僕の真似をして入ってきて。ただし、下に向かっての階段だから気をつけて」


 そう言い残して、壁に向かって平然と歩み出す。


「ちょっと――」


 言いかけた彼女は「待って」の言葉を飲み込み、瞠目する。青年が、壁に吸い込まれて姿を消したからだ。


「それ、壁があるように見せているだけだよ」

「そうなのですか?」


 シュミットの声に振り向いて問いかけると、


「うん。僕でも出来る魔法さ」


 フフンと鼻で笑うシュミットはレイアを追い越し、「先に行くよ」と右手をヒラヒラさせながら壁抜けをする。


「何、ボーッと突っ立ているのよ。行くわよ」


 しなやかに走って壁を抜けるエルザに置いてきぼりを食らったレイアは、目をつぶって急いで壁へ突進する。だが、「下に向かっての階段」という青年の言葉を思い出し、壁の直前で立ち止まって目を開け、ゆっくりと踏み出した。


 確かに、壁は穴を隠すために魔法で視覚を(だま)していただけのようで、何の抵抗もなくすり抜け、人一人が通れて下へ向かう石の階段が現れた。地下への通路に灯りはなく、ひんやりとする石の壁に囲まれていて、階下から青年の靴音が響いている。背後でゴトゴトと音がするので、おそらく、食器棚が独りでにせり上がっているのだろう。


 感覚的に地下二階分を下るように思っていると、扉が開く音がして、進行方向から灯りが漏れ、シュミットとエルザの姿が浮かび上がった。奥の部屋から(きぬ)()れの音と、青年の声や(ささや)き声が聞こえてくる。シュミットとエルザが室内へ入ると、それらが一瞬にして消え、音は自分のペタペタという足音しかしなくなる。レイアは緊張に包まれて、一段一段をゆっくりと下りていった。


 下る度に見えてくる室内の様子。シュミットとエルザの後ろ姿。青年の着る灰色のローブ。その奥には、複数の白いローブの一部。


「さあ、中に入って」


 待ちきれない様子の青年が、部屋を出て、小声で少女を手招きする。大声を出すと、通路に反響するのだ。


 階段を下りきったレイアは、(しよく)(だい)の光に映し出された、ざっと十人ほどの白いローブ姿を確認した。


 全員がフードを被っていた。男も女もいる。若者も老人もいる。皆は、レイアの持つ黒くて細長い物に熱い視線を送る。


 レイアが四十畳ほどの部屋に入ると、青年はすぐに扉を閉めて、少女が大事に抱える物に目をやってから、白ローブ姿の全員を見渡した。


「我々、復古派は、今日、ついに取り戻しました」


 すると、青年を含めて全員が次々と石の床に(ひざまず)き、胸の前で両手を合わせて(こうべ)を垂れた。

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