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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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28.謎の青年

 旅客竜車が城郭都市の門の前に辿(たど)()くと、軽装の(よろい)を着用した守備隊の二人が近づいてきて、客車の窓から四人の乗客が提示する通行許可証を確認し、御者にも許可証の提示を求めた。(きよ)()(こわ)(もて)の二人なので、さぞ厳重な検査でも始めるのかと思いきや、彼らによる荷物の改めのようなものはなく、屋根の上までよじ登って来ることもなかった。


 レイアが『もうこれで発車出来るのかしら?』と期待した瞬間、御者に許可証を返した男が、竜を見た後で客車の上に向かって鋭い視線を注いだ。射すくめられるような(まな)()しにビクッとした彼女は、姿を消している精霊が見えているはずはないと思ってみたものの、不安に駆られて気配まで消してみた。シュミットも、男の動きに警戒して気配を消したが、香箱座りしているエルザはそのままだ。


 あのように背を低くしていては位置的に見えにくいからかも知れないので、レイアはエルザに念話で注意する。


『こっちを見たわ。気配を消した方がいいわよ』

『あいつら、精霊使いじゃないわよ』


 エルザの言葉は正しかったようで、彼は(いち)(べつ)しただけで終わり、そのまま背中を向けた。


 だからと言って、安心は出来ない。町の中に精霊使いがいるかも知れない。それに、屋根の上に()(ぞう)()に置かれている黒くて細長い不審物は、不可視に出来ないので、見つかったら最後。今度は、御者が振り向きやしないかと、レイアは気が気でない。そんな彼女は、急に動き出した客車の揺れで、危うく背中から地面へ転げそうになって、慌てて屋根に両手を突く。


 こうして無賃乗車の精霊達と共に門を潜る竜車は、町の(けん)(そう)に出迎えられた。


 レイアとシュミットは、気配を消したまま活気に包まれる。エルザからこの町の名前を聞きそびれたが、アハトブリュッケンの町によく似ていて、竜車が通る大通りの両脇には木造二階建ての建物が軒を連ねる。時々、石造りの三階建てがあるが、クノル銀行と違い、他の建物と同じく各階に大きな窓がある。どの窓も、(ひやつ)()(りよう)(らん)の如く、花が咲き乱れている。プランターのような物を窓辺に置いているのだろう。


 それらの窓から、誰かが竜車を見下ろして、黒くて細長い物を不審がっていないかとレイアは気を()むが、幸い、今のところ人影は見当たらない。仮に誰かがこっちを見ていたとしても、荷物が屋根の上に置かれているのだろうと解釈してくれることに期待するしかないのだが、ナーバスになっているレイアは、窓一つ一つに目を配る。


『見えてきたわよ。前の大きな建物がそう』


 エルザが念話で伝達してきたが、言われなくても、進行方向に体を向けているレイアにはすでに建物が視界に入っていて、あれが精霊教会だろうと推測していた。


 竜車が向かう道の正面に、まるでこの町を守護するかの如く、異様な高さの(せん)(とう)を持つ石造りの城が鎮座している。古城を再利用、あるいは改築して、精霊教会の建物にしたのだろうか。


 さて、目的地に近づいた。しかし、左右に人通りが多い。しかも、正面に見える精霊教会の正門の両脇に、白ローブを(まと)った背の高い人物が、自分の背丈ほどのワンドを手にし、まるで槍を持つ番兵のように立っている。門番なのだろう。


 どうやって周囲の目を()()()して、聖遺物を屋根から降ろそうか。今の状況では、誰にも気付かれないで事を済ませるのは不可能である。窓から見下ろす誰かの警戒に時間を割いていたレイアは、何も考えておらず、問題先送りにした罰が下ったようなもの。


 レイアは、もう窓から誰が見ていようとどうでもよくなり、刻一刻と迫る精霊教会から目が離せず、決断が付かないで(しよう)()する。グズグズするレイアを乗せたまま、竜車が精霊教会を左に見ながら丁字路を右折した時、二人の門番が大股で近づいてきた。


 ――気付かれた。


 エルザが気配を消していないからだ。だが、もう遅い。


「ちょっと、そこの車、止まれ!」


 左側の男が発するドスの利いた声に、御者が竜の()(づな)を引き、竜車を減速させる。一方の右側の男は、駆け足で大胆にも竜の前で通せんぼをし、竜の鼻先へワンドを突きつける。


「貴様は、屋根の上に精霊を乗せて何をしている?」

「へえ? 精霊ですかい?」


 背後を振り返った御者が、屋根の上に置いてある黒くて細長い物を見つけて目を丸くし、それが男の言う精霊であると勘違いしたらしく、首を横に振り()(いき)を吐く。


「あんな精霊、見たことないですぜ。きっと、どこかで勝手に乗ったんでさあ」

「本当に知らないのだな?」

「もちろんですぜ」

「なら、追い払うから、そこをどけ」

「追い払う? どけるなら、わしにも出来ますぜ」

「どける? ほう、貴様には精霊(そいつ)が見えるのか?」

「見えるも何も、そこにゴロンと転がってますぜ」


 男には、御者が精霊だと思っている物――屋根に乗っている黒くて細長い物は見えていない。話がかみ合わずに眉を寄せる男が首を(かし)げたとき、不意にエルザが姿を現した。仰天する御者を置き去りにして、エルザが抗議の声を上げる。


「追い払うですって? 精霊を(あが)める精霊教会が、何で精霊を追い払うのよ!?」

「やっ! 貴様、人造精霊だな!?」

「みんなそう言うけど、私は精霊よ」

(まが)(もの)のくせに」

「いきなり(ひど)いことを言うわね」

「誰の差し金だ?」

「さしがねって何よ?」

「ええい! お前を操る精霊使いの名前を言え!」


 このままでは争いになり、エルザが相手を攻撃しかねない。焦ったレイアは姿を現し、シュミットも彼女に続いた。


「ややっ! 他に二匹も精霊が!」


 コボルトと一緒に二匹と数えられて、その失礼な言い方に腹が立ったレイアは、足を開いて腰に手を当て、(まえ)(かが)みになって男を見下ろし抗議する。


「精霊を崇める精霊教会が、精霊に対してなんて言い方をするの?」

「――――」


 少女を見上げる男は、言葉が出ない。人造精霊に対しては強い態度に出たものの、後から姿を見せた精霊達の魔力の強さに()()づいたのか。


「私達は、この精霊教会に用があります。中に入れてください」

「それは出来ん」

何故(なぜ)ですか?」

「精霊は絶対に入れてはならぬ、と上から厳命されているからだ」

「何故入れてはいけないのですか?」

「知らん」

「知らない? 貴方(あなた)は、本当にその理由を知らないのですか?」


 精霊と門番の言い争いに聞き耳を立てていた通行人達が、ゾロゾロと旅客竜車の周りに集まってきた。人間(ヒユーマン)もいる。獣人もエルフもいる。多種多様の人種が次々と人垣を作っていく。


「とにかく、精霊はここに入ることも近づくことも出来ないのだ! 実力を行使される前に、さっさと立ち去れ!」


 ワンドを突きつけ、こめかみに青筋を立てて唾を飛ばす男は、魔法を行使しかねない勢いだ。レイアはシュミットに目配せして、この場を引くことを決意する。ちょうど聖遺物を屋根から降ろすタイミングが(つか)めたのは収穫で、彼女は、黒い布に包まれた容器を抱えて、石畳の上にフワリと着地した。


「その大事そうに持っている物は何だ?」

「中に入れてくれるなら言います」

「言え!」

「だから、中に入れてくれるなら言います!」


 興奮状態だからか、脅しに対しても負けていない。こんな恐ろしい番人相手に強気で渡り合って我ながら驚くレイアは、内心はヒヤヒヤだ。


 レイアの取り引きに舌打ちする男は、「行け」と言って、竜車が来た道の反対方向を顎で指す。シュミットも飛び降りて、エルザも着地すると、四人の客は突然降ってきた屋根の上の同乗者に目を丸くし、御者は(あき)れて天を仰ぐ。


『とにかく、ここは一旦出直しましょう。少し歩いてから、どこかに隠れるから付いてきて』


 容器を左に傾けて斜めに抱えるレイアは、念話でエルザとシュミットに順番に伝え、竜車が来た道を引き返し、右側の歩道の雑踏に紛れ込む。追いかけるシュミットとエルザは、時々門番の方を振り返り、彼らが配置について石像のように動かなくなるのを見ていた。


『精霊が入ってはいけない理由は、中にある聖遺物の模造品が光らないからよ』

『僕もそう思う。一発で偽物だとバレるからね。で、君はこれからどうする?』

『うーん……』


 通行人にぶつからないように歩きながら考えるレイアは、灰色のローブを着てフードを目深に被る男が、いつの間にか右を並んで歩いていることに気付いた。こちらが足を速めると追いつこうと歩き、ゆっくり歩くと同じように速度を落とす。尾行するにしては、真横にいるとは大胆だ。


 深呼吸して立ち止まったレイアは、男の方へ振り向いた。


「何か用ですか?」

「お、気付いていたんだね」


 爽やかな青年の声がして、フードが持ち上げられ、(まぶ)しい笑顔が現れた。金髪緑眼で鼻が高く、二十代前半に見える若々しさだ。


「気付くも何も、真横にいたら、気付いてくれと言っているようなものです」

「ハハハッ! そりゃそうだね」


 尾行の下手な青年は、愉快そうに笑う。


「さっきの番兵とのやり取りは痛快だったよ。この町の連中は、あの番兵に対して(たて)()く奴なんか一人もいないから」

「そうですか?」

「さすが、精霊だね」

「ありがとうございます。でも、私の答えになっていませんが」

「何だっけ?」

「何か用ですかって」

「ごめん。答えていなかったね。その前に――僕は、こういう者だよ」


 青年は、顎の下にある布を手で下に引っ張り、中に着ている服をチラッと見せて、すぐに隠す。白い物が見えた。どうやら、中に白いローブを着ているらしい。


「どういう意味ですか?」


 彼は、少し声を低くて彼女の問いに答える。


教会(あつち)()()()()()()()()()男ってこと」

「――――」

「そして、その大事そうに持っている物が、何だか知っている男でもある」

「――――!」


 青年は再びフードを被り、辺りを(うかが)ってから、さらに声を低くした。竜車や荷車の車輪の音や、通行人の話し声、店の呼び込みの声に消えそうな小声だったが、レイアは確かにこう聞こえた。


「赤猫亭で仲間が待っている。案内するよ。付いてきて」

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