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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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27.精霊教会へ

 白のエルザの行動は、気まぐれ、かつ唐突で、意図が分からない。とにかく、見失わないように、レイアとシュミットは白い姿を追いかける。()(かい)する手間を省くためか、葉が生い茂る低木の中を分け入るので、それを()()し、倒木の上を飛び越えるので、こちらもジャンプする。


 ほぼ直進で一分間ほど走ると、周囲の樹木と比べて異様に大きな木が見えてきた。左右に伸びる太い枝が腕のようで、まるで、千手観音に見える。林の主とも言える存在だ。


 その巨木には(うろ)がある。レイアでも立ったまま入り込める大きさだ。そこへ、白い光の帯を描いてエルザが飛び込む。


「何しに行ったのかしら?」

「さあね」


 受け流すシュミットにふくれっ面を見せるレイアは、後ろから男が追って来ないか気になって仕方なく、聖遺物の入った容器を抱えて時折後方を確認しながら足踏みする。気を()むレイアには長く感じる一分間が過ぎ、エルザは黒い布を口にくわえて穴から出てきた。


「これで、その目立つ聖遺物を隠しなさい」


 精霊に反応して光り輝く聖遺物がやたらと人目を奪うので、これから向かう精霊教会への道すがら余計なことに巻き込まれないようにとの配慮なのだろう。エルザの気遣いにレイアが感謝して、布を受け取って容器に(かぶ)せる。(たる)んだ部分を縛って折り曲げ、何とか容器を隠すことに成功したが、少女が黒くて長い不審物を持っている怪しさは残ったままだ。


「ねえ、白のエルザさん。あの穴の中に何があるの?」

「あそこは、ご主人様の隠れ家。中を見たい?」

「いえ、遠慮します」


 そろそろ男の意識が戻って、追ってくる頃だろう。気が気ではない様子のレイアを見上げて、エルザは「じゃあ、行くわよ」と言って空を飛んだ。


「君はその格好で飛んだら目立つから、鳥に擬態したら?」

「はい。シュミットさんも、それは目立ちますよ」

「そうだね。今まで十分目立っていたから、今度は鳥になるよ」


 そう言ってシュミットが光に包まれ、体長一メートルの黒褐色の(おお)(わし)に擬態すると、結界に包まれたフリーダを背中へ移動させ、羽を大きく羽ばたかせて舞い上がる。レイアは容器を地面の上に置くと、これを(つか)んで飛ぶことを想定してシュミットよりは一回り大きな大鷲に擬態する。


 こうして、(どん)(てん)の下をグングン上昇する白猫と、それを追いかける大鷲の親子が林を後にした。



 □■□◆□■□



 本物の聖遺物を手に入れたのはいいが、それをどうやって精霊教会へ返還するかは三精霊ともノープランであった。エルザは精霊教会へ案内することしか考えていない。シュミットは完全にレイア任せだ。


「重いのかい?」

「あ、いえ。考え事をしていて」


 徐々に高度が下がるレイアにシュミットが声をかけると、考えがまとまらないレイアは、(いら)()ちの力も借りて強く羽ばたき、高度を元に戻す。


「どうやって返すか、いい考えはないでしょうか?」

「うーん……。行ってみてから考えたら」


 思考を放棄しているのが明らかなシュミットに嘆息するレイアは、エルザに聞いても同じ反応を示すだろうと諦観する。


 精霊教会へ行く。神父さんみたいな人が出て来る。これが本物です、取り返してきましたと説明して渡す。


 頭の中でそんな概略は描けても、その人が奪還派ではない人だったらどうしようという不安がつきまとう。今、教会に鎮座している物が本物だと思い込んでいる人だったら、偽物扱いされるだろう。その程度ならまだいい。偽物を信者に見せて(だま)している悪者だったら「お前はどこからこれを持ってきた?」と問い詰められ、幽閉されるかも知れない。


 (せつ)(かく)取り戻したのはいいが、そこから先の計画が思いつかない。自分の無計画ぶりにつくづく嘆くレイアは、また高度が下がり、シュミットに先を越された。



 堂々巡りの考えで結論が出ないまま三十分ほど飛行していると、城郭都市が見えてきた。中央付近に一際高い(せん)(とう)が見えるので、あれが精霊教会なのだろう。


 ぐんぐん近づいてくる教会の偉容を見て、これは大事になりそうだと不安に駆られるレイアは、急に引き返したくなった。ここはエルザに大役を務めてもらおうかと、直前での任務放棄まで真剣に考え始めた。


 そんな気持ちで先を行くエルザの姿を見ていると、エルザが急に降下を開始した。向かっている先を目で追うと、城郭都市へ続く街道の近くにある林だ。ちょうど町へ向かう四人乗りの旅客竜車が街道を走っているのが見える。まさか、あの車の屋根に透明になって乗るのかと嫌な予感がするレイアは、林の中へ降りて元の姿に戻り、地面に置いた容器を拾い上げて抱え、エルザへ念のため確認する。


「これを持ってどうやって乗るの? 隠せないわよ」

「屋根の上にそれごと乗ればいいじゃない」


 レイアは、平然と言ってのけるエルザの言葉に呆れ、同じく元の姿に戻ってフリーダを結界ごと右肩へ乗せるシュミットと顔を見合わせる。


 まあ、あの高さなら、車に入らない荷物だなと門番も不審に思わないだろう。問題は、屋根へ乗せる時に、黒い布で包まれた容器が、たまたま外の景色を見ていた客の目に入らないかだ。姿を消したエルザとシュミットに続いて、またも面倒な役割を押しつけられたレイアは、吐息を漏らして透明になった。


 容器を横にして腰を落とし、街道まで生い茂っている丈の長い草に容器を隠しながら走る。すでにエルザとシュミットの気配が御者の後ろにあるので焦燥感が募り、変な格好で走っているため腰が痛くなり、足も絡みそうになる。


 車窓から見ると、風が吹いていないのに草が部分的に(なび)き、さては草に隠れて小さな獣が走ってこちらに近づいているのかと見えているはずだが、そんな事は構っていられない。レイアは、後続の竜車や荷車がないことを確認し、竜車の後方へ回り込むと、容器を抱えて跳躍し、屋根の上へ飛び移った。弾みで客車全体が揺れたが、十分な舗装がされていない街道では当たり前のような揺れだったので、御者も前を向いたままだ。


 (あん)()の胸を()()ろすレイアは、エルザとシュミットの気配の方向へ(にら)()けて、容器を屋根の中央に、音を立てないように置いた。睨み付けても自分も透明なので相手には顔が見えないのだが、そうでもしないと気が済まない。


 クノル銀行への潜入を思い出したレイアは、徐々に近づいてくる城郭を眺め、今回も無事通過するだろうと軽く考え、精霊教会でどう立ち振る舞おうかと思いを巡らす。と、その時、急に、この潜入作戦で何かが抜けている気がしてきて、心の中がザワつき始めた。


「あ――」


 思わず声に出てしまったレイアは両手で口を押さえる。幸い、御者の耳には届かなかったようで、彼は竜車の揺れに身を任せている。


『この聖遺物、いつ、どうやって屋根から降ろすの?』

『そんな事くらい、自分で考えなさいよ』


 聞いた相手が悪かった。念話の質問に答えるエルザは、いつものように()()()()()を貫いた。


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