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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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26.奪回

 ――人間(ヒユーマン)の形をした人造精霊。


 異常なほど痩身の男が口にした言葉でレイアが真っ先に思い浮かべたのは、白いドレスを着た()(だし)の幼女カルラ・ユングだった。レイアはカルラが持つ瓶の中にいてはっきりとは覚えていないが、カルラはその瓶を持ったまま城の窓から飛び降り、三階建ての家の高さを落下してバルコニーに着地し、さらに五階建ての家の高さを落下して岩肌の斜面に着地するとそのまま裸足で駆け下りた。さらに、魔法で(しやく)(ねつ)の光を放つと、照らされた物は(かい)(じん)に帰した。これは恐るべき能力だ。


 レイアは、何かのラノベで、魔法を使うホムンクルスが登場するのを思い出した。男が作ろうとしている人造精霊は、魔法を操り、超越した力を持つホムンクルスみたいなものなのかもしれない。その目的は何なのか。


 彼からもっと情報を引き出したいレイアは、少し考えて、いいことを思いついた。質問を一回しかさせない相手だから、問いかけにならない形で発言すると、同意なり反論なりして何かを(しやべ)ってくれるのではないか。彼女は、早速実践に移してみる。


「人間の形をした人造精霊を作ろうとしている人は、あちこちいるのね」

「あちこち? お前は他に作っている奴を知っているのか?」


 釣り糸を垂らした直後に魚が食いついたのと同じ感触を得て、レイアは『かかった』と心の中でほくそ笑む。後は、誘導するだけだ。


「知っているわ」

「そいつの名は?」

「クーノ」


 男の眉が動いて、みるみる不快感を(あら)わにする。


「お前は精霊のはず。精霊が何故(なぜ)そいつの名前を知っている? まさか、クーノが作った人造精霊――という訳でもなさそうだが」

「私はこの格好になる前に、クーノに捕まって、人造精霊を作っているところを見たから」

「どんな大きさをしていた? 大人か、子供か?」

「子供よ。こんなちっちゃい子だけど」


 (ひと)(だま)の時に会っていたレイアは実際のカルラの身長を知らないので、右掌を地面に向けて適当な高さに手を持ち上げる。これに対して、男は感嘆した様子で(うなず)いた。


「奴はそこまで完成させたのか。最初に会った時は、『あと一歩で出来そうなのだが、どうしても失敗するので、そっちの作り方を教えてくれ』と懇願されて、こっちもまだ完全には出来ていなかったので(てい)よく断ったのだが……。先を越されたか」

「その子は、強力な魔法を操っていたわ。貴方(あなた)もそのような人造精霊を作って、戦場に送り込もうとしているのでしょうけど、人造精霊もいい迷惑よ」


 想像を(たくま)しくして相手の意図をぶつけてみる。違っていたら反論するだろうし、合っていたら(もう)けものだ。


「国の政策だから仕方あるまい」


 男のさりげない一言が核心に触れた。思わぬ収穫だ。レイアは、何か言いたそうな相手の次の言葉を待つ。


「減少する精霊使いへの対策と、魔法使いの強化は、この国の軍事力の課題でね。私にはどうでもいい事だが、金になるから――」


 急に口をつぐんだ男は、少女を見つめて、薄気味悪く笑った。


「おっと。お前の探りにすっかり乗せられたな。お喋りはここまでだ」


 残念無念。気付かれてしまった。落胆するレイアへ、シュミットが念話で語りかけてきた。


『あいつの気を()きつけて』

『はい』


 男が少しずつ後退を開始すると、レイアは(あき)(がお)で嘆息する。


「何か崇高な目的で、その聖遺物を利用すると思ったら、結局、私利私欲なのね」

「精霊のくせに偉そうなことを口にする」

「その羽が泣いているわ」

「馬鹿な。羽に心があるものか」


 男はレイアを(にら)()けて立ち止まった。彼の意識はコボルトから()れた。それを確信したシュミットが、突然、男へ飛びかかった。この展開を予想していなかった男は、コボルトの体当たりをまともに受け、短い悲鳴を上げて(あお)()けに倒れ込む。その弾みで容器は、堆積する落ち葉の上に落下した。


 体が小さいシュミットだが、相手の男は痩せすぎて力が入らないのか、簡単に組み伏せられた。手足をばたつかせる男は、まるで子供が抵抗するかのように頼りない。見ている方からは、体格が逆転しているだけに、不思議な光景である。


 その隙にレイアは容器を手に取ろうと駆け寄ると、コボルトに組み伏せられている男は、少女に取らせまいと風の魔法で容器を吹き飛ばす。だが、これが強すぎた。宙を飛ぶ容器は木の幹に激突して、ガラスが割れる音が悲鳴のように響き、破片が散乱し、羽も根元に落下した。


「羽を女に渡すな!」


 男の命令で先に動いたのは、黒のエルザ。少し遅れて、白のエルザも走る。黒のエルザは、口を大きく開けて羽目がけて飛びつく。歯で羽を()んで持ち逃げする魂胆だ。


「駄目よ!!」


 下手すると羽に触れた精霊は消滅するかも知れない。焦るレイアの叫びは、黒のエルザには羽を奪う事への禁止に取られ、それは聞けないと、勢いよく羽に噛みついた。その瞬間――、


「何!?」


 黒のエルザの全身が太陽のように光を放ち、(きよう)(がく)する男の見ている前で光の粒となって消滅した。これに(ひる)んだ白のエルザは、立ち止まって、羽を凝視したまま(あと)退(ずさ)る。


「何をしている!? 早く(くわ)えて逃げろ!」

「嫌よ。こんな物騒な物」

「貴様! 言うことを聞け!」


 男の命令に背く白のエルザは、羽に近づこうともしない。


「言うことを聞かないと、消滅させるぞ!!」

「ご主人様が手にすればいいでしょう?」

「人間は触れることが出来ないのだ! 精霊なら触れることが出来る!」

「触れたら消えたじゃない」

「能力が上がる事もあるぞ!」

「それって、どっちよ?」

「知るか!」

「まるで(ばく)()じゃない? とにかく、いくらご主人様の命令でも嫌よ」

「貴様ぁ!!」


 不服従を貫く白のエルザに向かって青筋を立てて怒る男が腕を伸ばしたが、上から(また)がるシュミットが相手の顔をボコボコに殴ったので、男は魔法を発動する前に気絶した。


 その間、羽の回りに破片が独りでに集まって容器が自動修復する。こうやって修復するのかと、レイアは感心しながら、生き物のようなその容器を大切に抱きかかえた。


「白のエルザさん。精霊教会ハイリゲフェーデルンキルヒの場所って、知っている?」

「知っているわよ」

「じゃあ、そこへ案内して」

「…………」


 白のエルザは、冷酷なご主人様と真剣な(まな)()しを向けるレイアを交互に見て彼女の依頼を黙考する。


「それを持ち主の所へ返すのね?」

「そう」

「――いいわよ。その前に行きたいところがあるの。付いてきて」


 白のエルザは、先ほど行きかけた方向へ風のように駆けていった。

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