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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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24.人魂からの卒業

 (どう)(もく)するシュミットは、さらに強烈な光を放つレイアの姿を直視できず、右腕で目を隠して(あと)退(ずさ)る。この身を焦がすほどの白光は、消滅する精霊の断末魔にも思えた。強く光り輝いた後、燃え尽きるように消えていく精霊がいたのを過去に何度も見たから、可能性は高い。


 だとしたら、自分が(そば)にいてあげながら、なんて取り返しの付かないことをしてしまったのだ。後悔するシュミットは、拳を握りしめて唇を()む。


 レイアに対しては、自分で決めたことは自分で責任を持ってやり遂げるべきだという考えから、直接的には手を貸さずになるべく距離を置き、聖遺物の奪回は全て押しつけた。その結果がこれだ。大精霊ヒルデガルト様に何と申し開きをすればいいのか。右肩の上で結界に包まれたフリーダが上下に揺れながら嘆く声に心を()きむしられる。


 堅く目を閉じて後悔の念に(さいな)まれるシュミットは、こちらに近づく複数の足音を背後に聞いて、()ぐさま振り返る。開目した彼の視界には、貧民街の住人二人に先導された守備隊五人が、二十メートル後方の(あば)()の角を次々と曲がって立ち止まる姿が映った。


「何だ!? あの光は!?」

「あれが、落下物か!?」

「人が倒れているぞ!」

「あそこにいるコボルト野郎の仕業か!?」


 口々に叫ぶ隊員だったが、彼らが足を踏み出した瞬間、二名の先導者(もろ)(とも)、ぼろ切れのように吹き飛ばされて宙を舞った。右手を突き出して、邪魔者を風の魔法で排除したシュミットは、こうしている間にレイアが消えてしまったかもと、恐る恐る背後へ振り返る。だが、光はまだ残っていた。シュミットが再び右腕で目を隠すと、光は急速に()()せて、レイアが()つん()いの姿勢になって現れ、頭から倒れ込んだ。


 と、その時、レイアが(まと)う白いローブが光の粒に変化して空気中に溶け込んだ。ギョッとしたシュミットは、さらに彼女がローブの下に着ていた白いドレスまで光の粒になって霧散したのでさらに目を見開く。いよいよ全身が微細な光の粒に分解してしまうのか、と覚悟して凝視するシュミットだったが、彼の視界に映るレイアの裸体には何も変化が起きなかった。


 本当に大丈夫なのだろうか。大丈夫と思わせて、突然、消えたりしないだろうか。微動だにしないレイアを見つめて不安に思っていると――、


「あれ? 聖遺物は?」


 レイアの身体に起きる兆候ばかり気を取られていたシュミットは、いつの間にか聖遺物が消えている事に気付く。彼女の周辺には、割れた容器も羽も影形ないのだ。腰を(かが)め、さらにしゃがみ込んだシュミットは、レイアの身体の下敷きになっているのかと地面に顔を近づけて横から(のぞ)()んだが、それらしい様子もない。


「まさかと思うが、身体の中に取り込まれた?」


 そんな馬鹿なと思って立ち上がるシュミットは、フリーダが「上を見て!」と叫ぶ声に気付いて、顔を上げた。すると、彼は仰天して地面に尻餅をつき、(つち)(ぼこり)を舞い上げる。


「えっ? 嘘だろ……」


 視線の先にあるのは、地面から三メートルの高さで縦方向に浮いている修復済みの容器。その中で真っ直ぐに浮く羽は、(さん)(ぜん)と輝き、畏敬の念を起こさせる。


 聖遺物が自分を保護している容器を自分で修復した。状況から考えて間違いない。


「なんて恐ろしい羽なんだ……」


 大精霊の大鷲が残した羽にこのような力があるのなら、その大精霊は()()なる力の持ち主だったのだろう。羽を見上げながら立ち上がるシュミットは、ただただ感心するばかりであった。


 まずは、レイアの様子から、彼女は羽に触れても消滅から免れて無事のようだ。だとすると、能力が高められたのかも知れないが、今はそれを確かめる(すべ)がない。


「さてと。こうしちゃいられないな」


 さらなる追っ手がやって来るかも知れないので、シュミットはレイアの保護と聖遺物の回収を一人で引き受ける決断をする。(ひと)(だま)の姿に戻ってくれれば楽だったのだが、少女の姿のままなので、やむなく魔法で空中から縄を取り出し、レイアを背負うと、自分と彼女を縄で縛る。そして、跳躍して聖遺物の容器を(つか)んでから、空高く飛び去った。



 □■□◆□■□



 コボルトに吹き飛ばされた隊員達が意識を回復する頃、林に向かって()(しよう)するシュミットは、前方から強い魔力の反応を感じていた。


「何だか、嫌な予感がするなぁ」


 経験上、魔法で大掛かりな戦闘が行われている状況だと、いつもこのような魔力の反応がある。と言うことは、エルザ達が何か騒動に巻き込まれているはずだ。だが、レイアを背負い、聖遺物を抱え、おまけにフリーダも側にいるとなると加勢も難しそうだ。エルザ達には悪いが、傍観するしかないかなと思っていると、背中の上でレイアがもぞもぞと動いた。


「え? えええ!? 何で裸なの!?」

「ちょっと、そんなに動かないでくれるかな?」


 慌てふためく彼女の動きが背中を通して感じるシュミットは、苦笑すると同時に(あん)()した。フリーダも師匠が目覚めて喜んでいる様子だ。


「気を失っていたみたいだけど」

「ええ。マナ不足で意識が(もう)(ろう)となってから、何も覚えていません」

「君は、聖遺物の羽に手を触れてしまったみたいだよ」

「本当ですか!?」

「それも覚えていないんだ……」

「触れても大丈夫だったのですか?」

「大丈夫だったから、今、僕の背中の上にいるんだけど」

「でも、この格好は、あまり大丈夫とは思えませんが……」

「そうかな?」

「恥ずかしいです」


 シュミットは人の裸体を見ても何とも思わないので、レイアの羞恥心が理解できず、小首を(かし)げる。


「君がそう言うなら、服でも出そうか?」

「いえ、自分で出します」

「自分で出すって、マナ不足じゃないの?」

「もう服を着ましたが」

「いつの間に? どうやって?」


 後ろが気になるシュミットは、林の手前の草原に一旦着地し、縄を解いた。振り返ってみると、確かに白いドレスを着たレイアが立っているので、彼は目を見開く。


「あれ? 本当だ。元に戻っている。マナ不足は解消したの?」

「ええ。全然平気です」

「本当に?」

「はい。前より力が(みなぎ)っている感じです」


 レイアの頭の(てつ)(ぺん)から足の爪先まで眺めるシュミットは、大きく(うなず)いた。


「なるほどね。これが聖遺物の効用なんだ」

「効用――ですか?」

「大精霊ヒルデガルト様が(おつしや)っていたとおりだよ。羽に触れた精霊は羽の力で能力が格段に上昇するか、消滅するかのどちらかだって。君は、運良く、能力が格段に上昇した。ついでにマナ不足も解消したってこと。おそらくだけど」


 抱えた容器に目を落としたシュミットが、精霊に反応して光る羽をしげしげと眺めた。


「灰色のシュミットさん。私はどうやってその羽に触れたのでしょうか?」

「え? それも覚えていないの?」

「はい」

「君が容器(これ)を落として割れてしまい、中身が外に出たのさ」

「でも、今は割れていません」

「うん。こいつが自分で勝手に修復したみたい。修復するところは見ていないけどね」


 右手でポンポンと容器を(たた)くシュミットが、背後にある林の方を振り返る。


「ちょっと気になる事があるから、白のエルザ達の所へ行きたいんだけど、君は飛べる?」

「はい。大丈夫です」

「それじゃ」


 膝を曲げて跳躍の体勢に入ったシュミットが、何を思ったのか、立ち上がってレイアの方へ振り返った。


「あのさ」

「はい?」

「その擬態、まさかと思うけど、解除できる?」

「解除? ああ、フリーダと同じ格好に戻ることですね」


 そんな事はお安い御用と、レイアが少女の擬態の解除を試みる。


「あれ?」


 人魂の姿に戻ったと思ったレイアだが、自分の両手も素足も見えるので焦りが募る。


「もしかして、その姿に固定されたとか?」

「――ちょっと待ってください」


 何度も擬態の魔法の解除を繰り返すが、手足はそのままだ。試しに、擬態の魔法で人魂の姿になることは出来た。


「ってことは――」

「姿が固定されちゃったみたいだね」

「まさか、精霊に昇格したのでしょうか!?」

「それは何とも分からないけど、こいつのお陰で能力も上がって姿まで固定されたみたいだね」


 容器を軽く揺らすシュミットが、久しぶりの人魂姿のレイアに向かって(ほほ)()んだ。

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