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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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22.逃走

 フリーダの声に真っ先に反応したのはエルザだった。疾風のように走り、瞬く間に棚の前へ到着すると斜め上へジャンプ。爪を立てて中央の引き出しにしがみつき、猛獣の精霊の爪で(えぐ)られて出来た斜めに走る傷に左目を当てて(のぞ)()む。


「透明な容器に入っているわね。レイア、早く取り出して――って、いつまで姿を消しているの?」


 引き出しにぶら下がったままのエルザが後ろを振り向き、頭に金色の光を浴びながらレイアの手助けを求めるが、当のレイアは階下から聞こえてきた複数の足音に恐怖を覚えて動けない。やって来たのは行員だろうか、それとも警備員か、殺された連中の仲間か。いずれにしても、この部屋に広がる()()(きよう)(かん)の地獄絵を見られたらと思うと、自分がこの場にいたという事実を他人に見られたくない。殺人犯に疑われたくないのだ。だから、姿を消したままで――、


『隠れていないで、早くしなさい!!』


 エルザも足音に気付いたようで、念話で焦り気味に(しつ)()する。観念したレイアは、渋々姿を見せた。


『あんた、その格好で、どうやって取り出すの!?』


 確かにそうだ。(ひと)(だま)の格好では、引き出しを開けるどころか、物を持てない。レイアは、ドラゴンの背中に乗っていたときと同じく、白いドレスを着た少女に擬態し、床に広がっていく血だまりを()(だし)で踏まないように()(かい)して、金庫の中へ駆け込んだ。そうして、床へ静かに着地したエルザが棚から離れるのと交代で、引き出しの前に立つ。


『向こうの扉には結界を張ったわ。急いでいるのに、臆病なあんたのせいで余計な手間がかかったわよ。最悪ね』


 さっさと聖遺物を持ち出して、明かり取りの窓から外へ逃げ出したいエルザは(いら)()ちを隠せない。


『それより、私がこの格好で、どうやって外へ出ればいいの?』

『聖遺物を取り出してから、鳥にでも擬態したら? 足で(つか)めばいいでしょう?』

『容器に入っているんでしょう? 窓を通れる大きさなの?』

『知らないわよ。まずはここを開けてから心配したら?』


 何とも場当たり的なエルザに、レイアは(あき)(がお)を近づけて肩を(すく)める。だが、エルザの視線の圧と、近づく足音の恐怖に負けて、引き出しの取っ手の金具に両手をかけた。


『あれ? 開かない』


 レイアは、腕に力を込めて金具を引っ張ったが、ビクともしない。品がない行為だが、右足で右隣の引き出しを踏み、体重をかけて引いてみたが、駄目だった。まさか、マナ不足かと心配したが、そこまで力が抜けている気がしない。


「おや? 結界が張られているぞ」


 扉の向こうで足音が止まり、聞き覚えのある低い男の声がして、レイアはギョッとして跳び上がる。先ほど、行員に帳簿(かい)(ざん)を迫った禿(とく)(とう)の大男だ。


「結界が? あの三人が張ったとしたら、これはまずい事態が起きたかもしれないですね」


 商会の中年男もいる。二人で、白ローブの三人の様子を見に来たのだろう。会話の感じから、彼らは金庫の中身を心配しているように思える。聖遺物があると知っているのだろうか。だとしたら、話は別の方向に発展しそうだ。


『開かないの? なら、どきなさい』


 意識が扉の向こうにあったレイアは、エルザの念話の割り込みに驚いて、右方向へ避ける。すると、引き出しから二メートル離れたところに金色の魔方陣が出現し、いきなり金色の槍が飛び出した。槍の鋭い穂先が見事に鍵穴を破壊して、槍は光の粒となって消えたが、レイアは聖遺物まで傷つけかねない乱暴なやり方を取るエルザに怒りの目を向けた。しかし、エルザの方は涼しい顔をして、顎を使ってレイアに開けろと指示をする。


「何だ、今の音は?」

「もしかして、金庫の中身を強引に取り出そうとしていますね」

「まずいですぜ」

「確かに」


 結界の外で案ずる二人の声を背中に聞きながら、レイアは引き出しを引っ張ると、()(ばゆ)い光を放つ金色の羽が入った透明な容器が現れた。羽の長さは五十センチメートルくらいで、(ため)(いき)が出るほど美しく、黄金で出来ているのかと錯覚する。レイアは準精霊なので、それに反応して光っているのだろう。


 羽の入った容器はガラス製の直方体で、羽の前後左右に十分余裕があり、長さは七十センチメートルくらい、高さは十センチメートル、幅は二十センチメートルはある。これを足で掴む鳥は、一体どれくらいの大きさならいいのだろう。足の大きさから逆算して体の大きさを考えると、目見当でも、明かり取りの窓から通ることは不可能だ。


『これを足で持つ鳥なんか、あそこの窓から出るのは無理』

『じゃあ、どうするの?』

『これ、抱えたまま、あの扉から強行突破するしかないわ』

『なら、結界を解除するわよ』

『待って!』


 右手を伸ばしてエルザを制止するレイアは、魔法で空中から、殺された男達が着ているのと同じ白ローブを取り出し、それを掴んで素速く着込み、フードを目深に被った。それから聖遺物の入った容器を両腕で抱え、扉の方を向く。


 容器を左に傾けて斜めに抱えたが、羽は滑ることなく、重力を無視して同じ位置にあった。不思議に思ったレイアが、光り輝く羽に目を落とすと、今更ながら宙に浮いていることに気付いた。容器の中で羽が微動だにせず浮いているのである。まさか、アクリルの透明文鎮みたいな物の中に羽が閉じ込められているのかと思っていると、エルザが自分の前に移動して上を見上げた。


『準備はいい?』

『いいわ』

『じゃあ、結界を解除するわよ』


 いよいよ、強行突破だ。喉を鳴らして唾を飲み込む気分のレイアは、右肩へ近づいてきたフリーダの気配を感じて右を向き、互いに見つめて(うなず)く。


「おお。やっと、結界が解除された」

「慎重に頼みますよ」

「合点ですぜ」


 恐る恐る開かれる扉が、(きし)む音を響かせる。まだ、大男の体の一部しか見えないレイアは、足を広げて踏ん張りながら立つも、震えが止まらない。どうやって、あの(きよ)()の横をすり抜けて逃げようか。すり抜けても、中年男が行く手を(ふさ)ぎはしないか。そこをかいくぐっても、階下で行員が待ち受けていやしないか。心配性な彼女は、逃走経路で待ち受けるであろう難題で頭がいっぱいになり、正面を見ているようでまともに見えていない。


「派手にやられたなぁ……」

「全員即死ですね」


 男達の言葉に意識が前へ向いたレイアは、室内へ足を踏み入れた二人が、床に広がる惨状と金庫の中で仁王立ちする人物と白猫を見つめて目を見開くのを視界に捉えた。


「ふん。精霊が近くにいるから、羽がキラキラ光ってやがる。俺まで欲しくなるぜ。でも、お前、それが()(れい)だから奪いたくなった強盗って訳じゃねえだろ? 知っているぜ、お前の正体をな」

「――――」


 レイアの明らかな動揺は、大男にも伝わり、彼はニヤリと笑う。


「お前は精霊教会でその羽を取り戻す一派だろ? だから、羽の持ち出しに賛同する側のこいつらを殺して金庫から持ち出そうとした。そうだろう?」

「――――」


 禿頭の大男が、レイアの正体を勝手に推理して話を進める。そのお陰で、この羽を巡る事件が見えてきそうだ。なので、レイアは返事をしないで、大男の次の言葉を待つ。


「キルヒアイスの人造精霊と手を組んで、手引きしてもらった。そうだろう?」

「――そうよ。羽はあるべき所へ戻すべきよ」


 大きく息を吸ったレイアが、男の推測に乗っかって、取り戻す一派を演じる。実際、精霊教会へ羽を返そうと考えているので、(うそ)ではない。


「やっぱりな。白猫(そいつ)は俺達のことを嗅ぎ回っているから消そうとしたんだが、失敗してよ。挙げ句にこうなった。畜生め!」

「あなた達は、これで何をしようとしているの?」


 言った後で、余計な質問だと思ったが、もう遅い。エルザが見上げて(にら)()けているのが視界に入る。でも、真実に近づきたい気持ちは抑えきれない。


「ん? と言うことは、白猫(そいつ)はまだ知らねえってことだな?」


 これには答えないレイアは、二人の目的を何とかして引き出したい。そこで思いついたのは、次の言葉だ。


「羽を悪用するのは許せないわ」

「俺達が? 悪用なんかしてねえぜ」

「銀行と、世間には言えない取引をしているでしょう? それと関係あるんじゃない?」

「――――」


 これには、大男の目が動いた。動揺したのだろう。レイアは良い感触を得て、心の中でニヤッと笑う。


「お嬢ちゃん、勘がいいな。そうだ――」

「それくらいにしなさい」


 帳簿の改竄と羽の悪用の接点が掴みかけたところで、中年男の割り込みが入り、レイアは大いに残念がる。


「おっと、お(しやべ)りが過ぎたぜ。さてと、その羽は、俺達にとってあるべき所へ戻さないとな」


 大男は、床に転がる遺体を(また)いで、ゆっくりと少女へ近づく。それに合わせて、レイアとエルザは、(あと)退(ずさ)る。何とか、壁のように()(ふさ)がる相手の隙を見つけられないものだろうか。と、思ったその時、立ったままの中年男の後ろで、影が動いた。


『レイア! そこから飛び出して、横に避けろ!』


 念話の声は、シュミットだ。反射的に、エルザを跨いで金庫から飛び出したレイアは、羽の入った容器を抱えたまま左方向へ横っ飛びする。彼女の突然の行動に慌てたエルザとフリーダも、金庫から飛び出して同じ方向へ避けた。


 後方の気配に気付いた中年男が振り返ると、民族衣装を(まと)ったコボルトが宙に浮いた状態で、右手首のスナップを利かせて『あっちへ行け』という仕草をする。その途端、大男と中年男が、万有引力を無視して水平方向に吹き飛んで、金庫の中の棚に激突し、金庫の丸扉が大きな音を立てて閉まった。


「さあ、こっちだよ」


 宙に浮いたままのシュミットは、レイア達を手招きする。彼女達が急いで部屋の外へ出ると、二階へ下りる階段が見えたが、シュミットは天井方向を指差す。その方向を見上げると、天井に一人の大人が余裕で通れるほどの四角い穴が開いていて、曇り空が見えた。いざという時の脱出口なのだろう。辺りに(はし)()が見当たらないが、緊急時にどこかから梯子を持ってきて、屋根の上へ出るのかも知れない。


「上に飛べるよね?」

「はい」


 シュミットがニコッと笑って跳躍し、エルザもジャンプすると、彼らの姿は穴の向こうへ消えた。


「何だか、大きな音がしなかったか?」

「した」

「大丈夫だろうか?」

「行ってみるか?」


 階段の下の方から男達の声がする。一人は、帳簿を書き換えていた男の声だ。階段を上る足音が聞こえてきたので、慌てたレイアは風の魔法を使って垂直に飛ぶ。彼女に遅れまいと、フリーダも全力で追いかけた。


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