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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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21.金庫番の精霊

 ちょうど天気が曇りになったようで、明かり取りの細長い窓から差し込む光の量が減り、部屋は極端に暗くなった。しかし、暗い場所でもはっきりと見える微精霊フリーダには何ら支障はない。目的の鍵穴へ一直線に向かい、体を細長く変形させて滑り込んだ。もし、姿を見せていたら、光る小さな(ひと)(だま)が細長くなって、鍵穴へ吸い込まれたように見えただろう。


 フリーダの気配が消えると、レイアの緊張は一気に高まった。それで、沈黙が不安になり、エルザへ念話で語りかける。


『白のエルザさん。さっきは、どうして気配を消したのですか?』

『大男の姿が見えたからよ』

『精霊使いなのですか?』

『分からない。でも、奴は精霊の気配を感じるの。初めて会った時、姿を消したけど感づかれて、慌てて逃げたわ』

『ここでよく会うのですか?』

『何度も会っているわよ。もう一人いた背の低い男といっつもね』


 と言うことは、帳簿の書き換えが何度も行われていたのだろう。小柄の中年男は商人風の服を着ていたから、商会の関係者に間違いなく、取引金額や振込先等の()()()しを頻繁に行っていたのか。憤りを感じるレイアだったが、今は聖遺物の探索を優先せざるを得ない。


『無事に見つかると思いますか?』

『さあ』

『期待していないのですか?』

『あの微精霊、お任せをって言っていたけど、どうだか……』


 フリーダが期待されていないので、レイアは少しムッとしたものの、気を取り直して質問を続ける。そうでもしないと、緊張感が半端なく、ジッと待っているのが怖いのだ。


『もし見つかったら、どうします?』

『大男に?』

『いや、聖遺物の話です』

『何? あんた、考えていないの?』

『えっ?』

『考えがあるから、ここまで付いて来たんじゃないの? まさか、のんびり見物しているつもりじゃないわよね?』

『――――』

『あの微精霊は、見つけるのが仕事でしょう? 見つかったら、当然、あんたが中から取り出すんじゃないの?』


 何とも他力本願な発言に、レイアは開いた口が(ふさ)がらない。もちろん、人魂の格好なので、口はないが。


『もし、私達がいなかったら、どうしたのですか?』

『いつも通りよ。開くまで待つわよ』


 長い間繰り返してきたシンプルすぎる作戦を変えようとしないエルザには呆れるが、対するノープランのレイアは()が悪い。何しにここへ来たのかと言われると、発見する役目のフリーダの方が、こうして見守るだけで何もしない自分よりも有利な位置にいる。傍観者ですとは言いたくないレイアだが、反論が浮かばず、沈黙せざるを得なくなった。


 幸い、エルザは畳みかけてこないので、この場をどう切り抜けようかと頭の中で忙しく考えていると――、


『ま、思いついたら言いなさい』

『はい!』


 嘆息混じりのエルザの念話に、(あん)()したレイアは声を出しそうなくらいに反応した。



 一方、姿を消しているフリーダは複雑な鍵穴の内部構造をものともせず、隙間へ器用に体を変形させて滑り込ませ、難なく金庫の中へ入り込んだ。もちろん、金庫の中は真っ暗だが、フリーダの視界には中の様子がはっきりと映っていた。


 金庫の中は、幅五メートル、高さ三メートル、奥行き四メートルの空間だった。そこには奥の壁に張り付くように、幅が三メートル、高さ一メートル半、奥行き一メートルの木製の棚が置かれている。棚には引き出しが縦方向に五列、横方向に八段ある。合計四十個の引き出し一つ一つに鍵穴があるので、これを全部調べなければいけないようだ。


 数の多さに(くじ)けそうになったフリーダだが、気を取り直して一メートルほど棚へ近づき、さて、どこから調べようかと考えていると、急に、棚の手前から精霊の気配が圧のように襲ってきた。おそらく、それまで気配を消していた精霊が、何者かの侵入に気付いて、これから姿を見せるのだろう。


 まさか金庫の中で精霊が番をしているとは思っていなかったフリーダは、突然の出来事に体が固まった。今ここで気配を消しても、もう遅い。フリーダのレベルでは、レイアと違って、消すと動けなくなるから、位置がバレているだけに非情に危険だ。


「グルルッ……」


 猛獣のように喉を鳴らしながら、姿を現したのは、体長が二メートル近くある雄のライオンに似た黒い精霊だ。口角を()()げ、(のこぎり)の歯のような牙を()き、蛇を連想させる縦長の瞳孔の金眼で(にら)()け、侵入した精霊へ飛びかかろうと体を低くする。


「ガルルルルッ!」

「キャー!」


 微精霊の気配を追い回す金庫番の動きは素速く、フリーダは鍵穴へ後退できずに金庫内を逃げ回る。鋭い爪の前足を振り回す猛獣から逃れるために、背後へ回るのが精一杯だ。後ろへ逃げる見えない微精霊を捕まえようと、グルグル回る黒い精霊は、闇雲に二本の前足で空を切る。その隙に、引き出しの鍵穴へ突進したフリーダだが、気配に気付かれて背後から飛びかかられる。前足の風圧で吹き飛んだフリーダは、その前足の爪が木製の引き出しに深い傷跡を付けたので仰天した。



『大丈夫かしら!?』

『そうは言っても、私達じゃどうにもならないわよ』

『でも――』

『任せるしかないじゃない。あんたは、あの中へ入れるの?』


 金庫の中から聞こえてくる騒音に気を()むレイアと、平然としているエルザは、階下から駆け上がってくる複数の足音を耳にした。


『誰か来ます!』

『あら? もしかしたら、金庫を開けてくれるかも知れないわね』


 扉の外に足音が迫ったかと思うと、乱暴に開かれた扉を通って、三人の白ローブ姿の男が現れた。エルザが(とつ)()に気配を消したので、レイアは姿からとても行員とは思えない彼らが見張りの精霊使いだろうと判断してエルザを見習う。


「ん? 今、精霊の気配を感じたが、気のせいか?」


 先頭の男が不思議そうな顔をして、エルザとレイアがいる方向へ(へき)(がん)を向ける。やはり、精霊使いで間違いなさそうだ。


「おい。窓の外に結界があるぞ」

「なるほど。侵入者の仕業だな」


 後ろの二人の言葉に先頭の男が振り返って、フッと笑う。


「その侵入者が苦労して鍵穴から金庫の中に入ったのだろうが、中に見張りがいるとは思ってもみなかっただろうよ」


 そう言って、先頭の男がポケットから金色の鍵を取り出して金庫の前へ歩み寄る。まだ、中では猛獣の(ほう)(こう)と騒々しい物音が続いているので、男は小首を(かし)げた。


「あいつとまだ戦っているのか? 相当しぶとい奴だな」

「開けて大丈夫か?」

「お前らの援護を期待しているぜ」


 期待された後ろの二人は、机と椅子を壁際に移動してから、扉まで後退して両手を前に突き出す。いざという時に魔法を発動して攻撃し、部屋から外へは逃がさない作戦のようだ。


「開けるぞ」

「「おう」」


 鍵穴に金の鍵を差し込んだ男が、金庫の丸い扉に両手を突いて何かを念じる。すると、鍵が勝手に九十度時計回りに回転し、カチッと金属音がした。両手を離した男は、大きく後ろへ下がると、丸い扉が左方向へ開いた。


 と、その時、黒い精霊が()(たけ)びを上げながら外へ飛び出し、先頭の男をなぎ倒した。本当は、微精霊を追いかけて金庫の丸扉へ突進したのと同時に扉が開いたので、男と衝突したのだ。


「開いたわよ!」


 叫ぶと同時に姿を現したエルザ。精霊使いと猛獣の精霊がいる状況でそこまでの勇気がないレイアは、姿を消したままだ。


「やっ! 賊がいたぞ!」


 両手を突きだして構えていた二人の男が、エルザに向かって両手を突き出す。しかし、エルザはそれより先に右前足を前に突き出していて、男達の前方に十個の金色に輝く魔方陣を出現させていた。魔方陣の中心から一斉に飛び出した十本の金色の槍は、二人を一瞬で惨殺した。


「畜生! 貴様が親玉か!」


 床に倒れていた男は悔しがり、右手をエルザに向かって突き出したが、天井付近に出現した二十個の魔方陣から飛び出した二十本の金の槍に、猛獣の精霊もろとも串刺しになって絶命する。精霊は黒い霧となって消え、血煙が舞う凄惨な現場を目の当たりにしたレイアは、エルザの非情さに全身が震えた。もし自分しかいなかったら、こんな(さつ)(りく)は実行できただろうか。もちろん、否である。


 騒ぎが収まって部屋の中が静まると、フリーダの声が響いた。


「師匠! 中で光っている物がありました!」


 丸扉の前で姿を現したフリーダが、レイアを呼びながら棚の中央の引き出しに向かって飛んでいく。そこは、爪でかなり(えぐ)られた跡があった。


「ここです!」


 フリーダが、抉られて出来た穴の前で大きく上下に揺れると、中からポウッと金色の光が漏れ出てきた。


「これですよ! これが聖遺物に間違いないですよ!」

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