表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/98

20.潜入開始

 フリーダが金庫の鍵穴から中へ侵入して、聖遺物が格納されているかを確認する案が三匹のエルザに採用されると、手始めにどこから調べるかの検討が始まった。今いる位置から近い場所を選ぶのが順当なのだが、レイアは距離の遠近ではなく銀行から調べることを主張した。


「どうして銀行からかって言うと、銀行はお金を金庫から出し入れするはずなのに、どうして誰も開けようとしないのかしら? それはどう考えてもおかしいと思うの」


 だが、人造精霊達は、レイアの疑問点には理解できない様子で、銘々が首をひねる。レイアは三匹が自分の考えに異を唱えているのではなく、単に自分が頭に描いている銀行のイメージが伝わっていないと判断した。


「白のエルザさん。銀行の人は、お金をどこから出し入れしているか、見たことありますか?」

「そうねぇ……。気にもしなかったから詳しくは覚えていないわ。だって、誰が金庫を開けるかをずっと見ていたから」

「お客さんから金貨とかお金を受け取ったら、それをどうしていましたか?」

「お客さんか知らないけど、受け取ってから下を向いていたわね」


 少し引っかかる答えだが、レイアは質問を続ける。


「下? しゃがんで出し入れしていたとか?」

「そうなんじゃない? 出し入れするところまでは見ていないけど」


 どうやら、足下に小さな金庫があって、そこから貨幣を出し入れしていたのだろう。いくら不思議な習慣が多い異世界とはいえ、足下の小さな金庫で金の管理をしているのはおかしい。それ以外の金庫に聖遺物が隠されている可能性が高いかも知れない。こうして、少しずつ集まる情報から、外堀を埋めていくように自分の推理が本丸へ近づいている。レイアは、そう確信し始めていた。


 銀行は、シュミットが空から見た円形の城壁に囲まれた町――アハトブリュッケンにあるクノル銀行だという。


「では、フリーダに潜入してもらうのは、夜ね」

「はい! 師匠!」

「夜じゃなくて、今でもいいわよ」


 大小の(ひと)(だま)が横回転して、意外なことを口にする白のエルザの方へ向いた。


「昼間は、銀行の人が見張っているから危険なのでは?」

「全然平気よ。結界を張って、姿を消して中に入れば」

「精霊とかを監視している警備員とかは、いないのですか?」

「けいびいんが何か知らないけど、中には精霊使いじゃない人間(ヒユーマン)しかいないわよ。連中は精霊の気配に鈍感でも、客の中には精霊使いがいるかも知れないから、念のために結界を張っているけど」


 つまり、白のエルザは堂々と銀行の中に入って、行員の行動を見張っていたわけだ。それなら、調査は早いほうが良いと意見がまとまり、白のエルザの案内で町へ向かうことになった。尻尾にリボンが付いた猫が三匹も連れだって歩くと人目に付くし、大人数では銀行内で動きにくくなるので、黒のエルザと灰色のエルザは林で待機する事が決まった。


「どうやって城壁の中へ侵入するつもりなの?」

「姿を消して、堂々と門を通ればいいわよ。あそこの門番に精霊使いはいないし」


 それでも不安なレイアに向かって「いつもやっていることよ」と鼻で笑う白のエルザを先頭に、緊張気味のレイアと楽観的なフリーダが後ろを付いていき、大精霊ヒルデガルトの指示でレイアに渋々従っているシュミットは殿(しんがり)を務めた。


「俺、侵入は遠慮するよ。じゃあな」


 シュタルクは、レイア達に別れを告げて、(いず)()ともなく飛び去った。



 一行が林を出ると、少し歩いた所にアハトブリュッケンへ続く街道があり、遠くに町へ向かう竜が引く客車やロバが引く荷車が見えたので、早速全員が姿を消して行動することになった。


「あの荷車に乗るわよ。マナ温存のためにね」

「気付かれませんか?」

「乗っている人間は精霊使いじゃないみたいだし、平気よ」


 キャベツみたいな野菜が満載の荷車に向かって駆けるエルザは、()(づな)を引く人間の左横へ飛び移る。気配を消していないので、姿は見えなくてもどこにいるかは分かるのだが、いくら透明でも大胆すぎる行動に汗を()くレイアは、フリーダと一緒に野菜の山のてっぺんに乗っかると、シュミットは荷台の後方の縁へ飛び移って腰掛けた。


 気持ちの良い日差しと微風を浴びて荷車に揺られる光景は、実に長閑(のどか)だ。精霊達が透明でなければ絵になっていたであろう。途中、町から出てきた竜が引く客車とすれ違った時、窓から顔を出して荷台を凝視する紳士風の精霊使いが一人いたが、彼は荷車にただ乗りする透明な精霊達に気付いたらしく、フッと笑って顔を引っ込めた。



 精霊の乗る荷車が検問を難なく通過し、厚い城壁の下を通るトンネルをくぐり抜けると、(のど)()な田園風景が空気まで一変して、活気に()(あふ)れた街並みに出迎えられた。大通りの両脇に二階建ての木造建築が建ち並び、窓には花が咲き乱れ、道行く人々の目を楽しませる。()(れい)に整備された石畳の歩道も車道も、行き交う人々や車で一杯だ。久々の都会の(けん)(そう)に圧倒されるレイアは、道行く人間と獣人に目を奪われ、一瞬だが任務を忘れそうになった。でも、これだけの人が目撃者となり得る中で、銀行強盗とまではいかないが、銀行に忍び込むのは大胆すぎると思い始め、一気に緊張が高まった。


『本当に大丈夫なのですか?』

『何、()()づいているのよ。嫌なら、後ろのコボルトと降りなさい。そこにいる微精霊を連れて、私だけ行くわよ』


 レイアの不安を念話で笑うエルザは、何の予告もなく車道へ飛び降り、接近する車の間を器用にすり抜けて、周囲の建造物にはない石造りで三階建て建物の前で座った。精霊の気配が移動したことでエルザが荷車から降りたことを気付いたレイア達は、嘆息するシュミットと一緒にエルザの気配を追う。団体行動に全く向いていない案内役に先が思いやられるレイアは『降りるなら、教えてください』と念話で苦情を申し立てたが、無視された。


『ここよ。三階の明かり取りの窓から入るわよ』


 扉の上にある看板の文字が読めないレイアだったが、これが聞いていたクノル銀行だろうと、外観から想像が付いた。一階には窓がなく、二階と三階に小さくて横長の窓があるが、それが明かり取りの窓なのだろう。それにしても、窓がない倉庫を思い起こさせる建物だが、これ自体が金庫みたいな物とも言える。一階の扉が金庫の扉だと思えば良い。人間や獣人のように体が大きい賊の侵入は、扉以外に不可能だ。


 レイアは、銀行と言えば一階に窓口があり、行員が客と応対していて、その奥に金庫があるというイメージを頭に描いていたので、三階から侵入して一階に下りるものだと思っていた。だが、それは間違いだった事が後で分かる。さらに、エルザの発言と自分のイメージが少し食い違っている理由も分かったのであった。


 シュミットは『僕は、屋根にいるよ』とレイアに念話で伝えて、屋根の上までジャンプして腰掛けた。もちろん、姿が消えているので、気配の移動でしか動きを知ることが出来ない。中で彼が護衛してくれると思っていたレイアは、乗り気のないシュミットの気持ちを行動から察して落胆する。


『窓の所まで来て。来たら、追っ手が来ないように結界を張るから』


 今度はエルザの気配が上昇した。レイアとフリーダは、それを追いかけてフワフワと三階の明かり取りの窓へ向かう。


『着きました』

『分かっているわよ。さあ、結界を張ったから、中へ入って』


 エルザが狭い窓から()いつくばるようにして中へ入る。その気配を追って、レイア達も窓から侵入する。きっと、大精霊ヒルデガルト様も私たちの動きを監視していて、結界が張られたから見えなくなっただろうなと思っていると、中は薄暗くて、意外に狭い部屋である事に気付いた。


 湿っぽい無人の部屋の真ん中に木製の粗末な机と椅子があり、(しよく)(だい)が置かれている。椅子の後ろには、一メートルほど離れたところに四角い灰色の石を積み上げて作った壁があって、真ん中に直径二メートルほどの(にび)(いろ)に光る丸い金属製の扉があった。


『見えるでしょう? あれが金庫よ。丸い扉の真ん中に鍵穴があるから、そこから侵入して』


 フリーダに指示を出すエルザの気配は、机の上にあった。そんな所にいて大丈夫なのか不安になったレイアがエルザに忠告しようと思った途端、階下から誰かが上ってくる足音が後ろから聞こえてきた。しかも、足音の間隔の短さから、複数人いるらしい。後ろへ意識を向けたレイアは、机の真正面の位置に木の扉があり、自分がその扉の前にいることに気付いて、慌てて右方向へ移動した。フリーダの気配も同時に移動する。その直後に、(ちよう)(つがい)(きし)む音がして扉が内開きに開いた。


 と、その時、エルザの気配が消えた。気付いたレイアとフリーダも、事情を察して追随した。


「やれやれ。また帳簿の書き換えですか」


 白いシャツに黒いズボンの細身の男が右手で金髪を()(むし)り、左手に書類の束を抱えながら部屋に入ってきて、愚痴をこぼしつつ椅子に腰掛ける。その彼の後ろからやって来たのは、(きよ)()を窮屈な灰色のローブで包んだ禿(とく)(とう)の男と、小柄で商人風の服を(まと)った金髪(へき)(がん)の中年男。後者の二人は、キルヒアイスを殺害しエルザの消滅を謀った連中であるが、当然レイア達はその事を知らない。


「お前にしか出来ないから、仕方ないだろうが」

「そうですがねぇ……」


 机を挟んで顔を近づけ、灰色の眼で(にら)む巨体が低い声で(すご)みを利かせると、ビビる行員は嫌そうな顔を苦笑に変えた。


「いつもの通りにやればいいのです。出来ますね?」

「……はい、もちろん」


 禿頭の男の顔から優しい声で帳簿(かい)(ざん)を促す中年男の顔へ視線を移動させた行員は、顔が青ざめる。体格の大小とは無関係な恐怖を与える存在の中年男は、ニンマリと笑った。


「役所の方は、まだ気付いていないのですか?」

「その言い方、気付いて欲しいとでも?」

「とんでもないです。気付かれたら破滅ですから、心配で――」

「心配には及びません。気付くはずがありませんから」


 中年男の自信は何から来ているのかは不明だが、大男の痛い視線を浴びた行員は理由を確かめる言葉を飲み込んだ。


「なら、安心です」

「報酬は、はずみますよ」


 レイアは、会話の内容から銀行と商会の癒着を疑い、二つの点が一つの線に(つな)がった気がした。今、目の前で起きている事は、聖遺物の話がエルザの口から出る前に疑っていた内容だ。最初、銀行と商会と役所の黒い繋がりを精霊が監視していると思っていたが、精霊は聖遺物が目的と知ってその考えを捨ててしまった。でも、今となっては、これを復活せざるを得なくなる。


 つまり、不正に持ち出されているはずの聖遺物を探していた精霊達は、癒着事件に偶然にも立ち会ってしまっていたのだ。


 それをキルヒアイスとエルザに見られたので、抹殺しようとした。推理として十分に成り立つ。


 さあ、どうする、とレイアは自分に問いかける。


 強欲と言われようが、正義感から両方を解決したい。でも、(あぶ)(はち)()らずという(ことわざ)がある。だから、一方に注力すべきと自分の心が語りかける。なら、どちらにすべきか。考えても考えても、(てん)(びん)は揺れが収まらない。


 行員は燭台の(ろう)(そく)に火を付けて、机の下から筆記用具とインクの壺を取り出し、書類を左右に広げてから、右に左に顔を動かして、サラサラと何かを書き始めた。書き写しながら、所々の数字を書き換えているのだろう。


「これで完了です」

「じゃあ、これを受け取れ」


 大男が()(ぞう)()に懐から金貨を取り出すと、反射的に手を出した行員の(てのひら)に握らせる。すると、行員は素速く机の下に潜り込んで、十数秒後に顔を上げた。


 これを見たレイアは、なるほど、と思った。エルザが、「お客さんか知らないけど、受け取ってから下を向いていたわね」と証言していたのは、この事なのだと。と言うことは、エルザは、度々この現場に居合わせていたのだ。気配を消しているから良かったものの、その場に姿を現していたら、即消滅させられただろう。



 行員は数枚の紙を破って丸め、ポケットにねじ込むと、筆記用具等を元に戻し、書類を脇に抱えて蝋燭の火を吹き消す。それから三人で部屋を出て行くと、静けさが残った。もう邪魔は入らないだろうと思ったらしく、エルザは気配を消すのをやめた。もちろん、姿は見えないままだが。レイアとフリーダもエルザに従う。


『さ、早く』

『お任せを!』


 エルザの念話による指示で、フリーダが鍵穴に向かってフワフワと飛んでいく。レイアは、二匹のやり取りは分からなかったものの、気配の移動の仕方からフリーダが侵入を開始した事を知る。


 いよいよ、自分の推理が正しいかが証明される。中に聖遺物があるのか否か。でも、あったとして、どうやって取り出そう。それに関してはノープランだ。あえて、金庫の中で異変を起こし、行員が駆けつけて金庫を開けた隙に持ち出すか。


 まるで銀行強盗でも始めるかのようだ。ゾクゾクするレイアは、移動するフリーダの気配を感じながら、頭の中では聖遺物の強奪方法の候補が浮かんでは消えを繰り返していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=355503857&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ