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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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19.フリーダの提案

 フリーダもシュミットに結界を解除してもらい、レイアの横へ()(さん)じる。


「師匠の言う通りです! みんな、悪党に狙われていますよ!」


 口を開けたまま目を丸くする三匹のエルザは、そのまま固まっていたが、生じた沈黙を破ったのは黒のエルザだった。


「はあ? 何言ってんの? ってか、あんた達、誰?」

「レイアです」「弟子のフリーダです」

「その格好、精霊じゃないわね?」

「「はい」」

「なら、私達みたいな精霊に口を出す身分じゃないわよ。身の程を知りなさい」


 そう言って黒のエルザが全身の毛を逆立て、威嚇の(うな)(ごえ)を上げると、灰色のエルザが止めに入った。


「まあまあ。その辺にいる野良精霊に怒っても、時間とマナの無駄よ。行きましょう」


 レイアは、仲裁に入らずに無言でそっぽを向いている白のエルザに腹を立てる。なぜなら、こうも無関係を装う神経が理解できないのだ。少しでも一緒に時間を共有した仲なのだから、普通なら「その子は、心配性なのよ」とか「悪気はないのよ」とか(なだ)めそうなものなのに。


「精霊使いが殺された時、狙われなかったのですか?」

「狙われたわよ」


 黒のエルザは毛を逆立てたまま背を丸めた姿勢になり、低い声で言った。


「だったら――」

「そいつを殺したから、今ここにいるのよ」


 灰色のエルザも「私もそうよ」と言葉を続ける。つまり、二匹とも暗殺者を抹殺してしまったのだ。これに対して、黒ずくめの暗殺者を仕留め損なった白のエルザは、ばつ悪そうに後ろを向いた。


「相手から誰の指示だったとか、()かなかったのですか?」

「訊くわけないじゃない。襲ってきたからすぐに殺したわよ。あんたは、襲ってくる相手とお(しやべ)りするの? (あき)れてものが言えないわ」


 魔の手が伸びているという自分の忠告が無駄となり、しかも、暗殺者が殺されて手がかりを(つか)むチャンスが遠のいたので、レイアは意気消沈する。


「白のエルザ。さっきから、あんただけ黙って後ろを向いているけど、言ってやんなさいよ」

「別に、言う必要なんかないわ」

「何で?」

「その子、そういう子なの」

「何? 知り合い?」

「そうよ」


 やっと正面を向いた白のエルザが本当のことを言ってくれたので、レイアはホッとする。ここで「こんな野良精霊、知らない」と嘘を言われたら、シュミットも黙ってはいないだろう。だから、正直に言わざるを得なかったのかと、レイアは(あん)()の直後に合点がいった。


「知ってるなら、紹介しなさいよ」

「する暇なかったじゃない」


 白のエルザの知り合いと分かった黒のエルザは、怒りの視線をレイアからすまし顔の白猫へ向けるが、向けられた方はすかさず弁明に走る。


「なら、何故(なぜ)野良精霊がここにいるのか、説明して」

「勝手に付いてきただけ」

「精霊使いを殺した連中の仲間――じゃないわよね?」

「多分」

「多分?」


 黒のエルザと灰色のエルザが、同時にレイアとフリーダへ疑いの目を向ける。頼りにならない白のエルザに嘆息するレイアは、これまでの経緯を含めて事情を説明する。ノイフェンの町で初めて白のエルザに出会った事、キルヒアイスが目の前で殺されて暗殺者が逃げた事、精霊の森の近くで白のエルザが追っ手を全員殺した事を簡単に述べて、これらは本来なら白のエルザが説明すべき事なのだけど、とレイアは体を横向きに回転させて白のエルザの方を向く。


「なるほどね。なら、あんたらは敵ではないということね」

「はい。……ところで、皆さんは、それぞれの持ち場で金庫を見張っているのでしょうか?」

「そんな事も教えたの、白のエルザ!?」


 レイアの話を聞いている間に逆立った毛が元に戻った黒のエルザは、(せい)(てん)(へき)(れき)と言わんばかりに驚きの顔を白のエルザへ向けた。


「その子、しつこいのよ。だから、金庫の話をする羽目になって……」


 白のエルザの弁明に黒のエルザが呆れて天を仰ぐと、枝の上でしゃがむシュミットと目が合って、「あそこにも変なのがいるけど、あれも連れてきたのね?」と追加で吐息を漏らす。


「あれの事? あれは、レイアがしつこいから渋々付いてきた感じ」


 全責任を背負わされた形のレイアは、黒のエルザに問いかける。


「皆さんが三箇所で金庫を見張ると言うことは、目的の物がどこにあるのか、まだ分かっていないのですね?」

「三箇所じゃないわよ。商会は三つあるから――五箇所ね」

「金庫は開かないのですか?」

「誰も開けようとしないし、近づこうともしないの。しかも、金庫はどこも複数あるし。未だにどこにあるのか、分からないって訳」


 つまり、三匹は聖遺物の保管場所が見つからないまま無為な時間を過ごして、こうして落ち合って情報交換をしているのだ。


「ところで、目的の物が具体的に何か、知っていますか?」


 レイアの言葉に三匹が首を横に振るので「それは――」と言いかけたが、誰が聞いているか分からないので、三匹のエルザへ順繰りに念話で大精霊の羽である事と、その効果を説明する。さらに、本当は、羽が精霊教会ハイリゲフェーデルンキルヒに保管されているはずの物である事も伝えた。


 三匹のエルザは互いに顔を見合わせて、「そんな物を?」「聞かされていなかった」「(ひど)いわね」と口々に漏らす。


「教えてくれてありがとう。……で、あんたは、私達にどうしろと言いたいの?」


 灰色のエルザが、首を軽く(かし)げてレイアに問いかけた。すると、フリーダが「はいはーい!」と言って上下に揺れた。


「金庫への潜入はお任せください!」

「何、あんた? そんな事、出来るの?」


 黒のエルザがフリーダを半眼で見つめる。


「はい。金庫の鍵穴から入るのは得意ですよ」

「あの隙間から入れるなんて、素敵ね」

「ちょっと待って、フリーダ。金庫に鍵穴があるとは限らないわよ」


 レイアは、銀行の金庫と言えば丸くて分厚い鉄の扉があり、そこには帆船の操舵手が握る丸い(かじ)みたいな物があって、それを回すから鍵穴なんかないと思っていた。


「師匠。何言っているんですか? 鍵穴がない金庫なんか、ありませんよ」

「そうなの?」


 レイアは、フリーダの証言が正しいか否か、三匹のエルザへ意見を求めると、三匹とも首を縦に振った。どうやら、この異世界では、銀行の金庫も鍵を使って開閉しているようだ。


 フリーダの発言で三匹のエルザの顔付きが変わり、黒のエルザなどは、これは強力な助っ人が現れたと思ってニヤリとした。


「なら、あんたの力を見せてみて」

「お任せあれ!」


 黒のエルザの言葉に、フリーダは大きく上下に揺れた。

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