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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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14.美少女レイア・マキシマの誕生

 周囲の驚きの声を聞いて、まだ見ぬ自分の姿に期待と恥ずかしさが入り交じるレイアは、両手をゆっくりと持ち上げて、視線を精霊達から手元へ移す。


 すらっとした細い指と小さな(てのひら)


 頭上には照らす光が星明かりしかないが、夜目が利くのではっきりと見える。他はどうなっているかと両腕を横に広げて視線を足下へ移動させると、白のロングドレスを押し上げる小さな胸の膨らみと、()(だし)の両足が見える。


 ついに手に入れた憧れの身体(からだ)


 異世界転生して、(ひと)(だま)から念願の人間(ヒユーマン)の姿になったのだ。しかも、誰かの姿を真似したのではなく、ずっと心に抱いていた()()()()()()()姿()に。


「師匠! やりましたね!」


 フリーダがレイアの周りを飛びながら喜びを表現する。


「もっとよく見たいので、さっきの明るい場所へ移動できませんか?」

「ああ、いいよ。付いてきて」


 自分の声が(うわ)()っているのが分かるレイアは、(うなず)くシュミットが背を向けて空中の波紋の中へ吸い込まれていく後ろを、駆け足で追いかけた。


 波紋を抜けると、一瞬にして広がる(こん)(ぺき)の空と深緑の山と草原。暗い空間から一気に光(あふ)れる空間へ移動したが、(まぶ)しさを()(じん)も感じないのは自分が人の姿を得ても精霊であるからのようだ。


 精霊界で初めて見る光景に目を奪われるレイアだったが、もう一度手元を見て、自分の両手を確認。指を動かしてみる。意図した通りに指が自在に動く。


 (うれ)しさのあまり思わず口元が(ほころ)ぶと、唇を動かしている感覚がある。


 腕を軽く振ってみる。足下を見ながら、動く両足を確認して歩いてみる。ロングドレスを蹴るくらい小走りになってみる。


 ちゃんと動ける。


 これが自分の肉体。


 肩を(すく)めてみたり、拳を堅く握ってみたり、腕を振り回してみたり。全部、思った通りの動きをする。身振り手振りで感情表現が出来るのだ。人魂の姿ではこうもいかない。


 もちろん、擬態の魔法で作っている身体なのは分かっている。偽物だ、と言い切られても反論出来ない。でも、今まで人魂だった姿で、感情表現は振動と回転でしか出来なかったことと比べると雲泥の差なのだから、今の自分に十分満足していることを許して欲しい。


 だが、体を動かしているうちに、不便な事も分かってきた。人魂の姿では三百六十度のパノラマ視界だったのが、人間と同じく後方が見えなくなったことと、移動する際にフワフワと飛んでいけないことだ。それは、多少のハンディキャップだと思って、今は諦めるしかなさそうだ。


「どこかに湖みたいな場所はないですか?」

「何で? 泳ぐの?」

「いえ。自分の姿を映して見たいのです」

「何だ。そんなことか」


 後ろ手になって、ちょっと体を右側へ傾けてお願い事をするレイアを見て、シュミットが自分の背丈ほどある丸鏡を出現させる。すると、鏡には、中央に黒髪の少女の姿、左右で見切れている熊やドラゴンの姿、少女の肩越しに顔を覗かせている群青色の髪の女性が映し出された。レイアは、中央に移る少女をまじまじと見つめていると、熊とドラゴンと女性が左右へ移動して少女だけ映るようになり、これが初めて見る自分の全身の姿だと認識した。


 小柄で痩せ型。雪のように白い肌。輝く青玉色の瞳。桜色の唇。何よりも、今いる異世界では見かけない黒髪が印象的な、あどけない美少女。


 容姿は前世の自分と比較するとかなり美化されていて、当時の(へん)(りん)は何一つ見当たらない。イラストから飛び出したような印象を与えるこの姿は、アニメの記憶の産物か。


 急に、懐かしいあの頃の思い出が浮かんでくる。


 さらには、異世界に転生して、人魂の姿になって経験してきた様々な出来事が一気に脳裏を駆け巡る。


 (ばん)(かん)(こもごも)(いた)るレイアは、視界が(にじ)んできて、(ほお)を伝って流れる涙を指で(ぬぐ)う。人魂の姿の時は、悲しい出来事があっても涙を出すことが出来なかったのだが、今はそういった感情表現が出来ることが嬉しい。それがさらに感動を呼び、胸に込み上げてくるものがあり、(ぼう)()たる涙となる。


「あーあ、泣かせちゃった。灰色のシュミットって悪い奴だなぁ」

「僕のせいじゃないよ」

「お前が鏡を見せるからだろ」

「だから、僕のせいじゃないって。レイアが見たいって言うから――」

「人のせいにするのが得意ね」


 ヘルマンとジークムントとアドルフが順繰りに(つつ)くたびに言い訳で返すシュミットは、原因となった丸鏡を消して困った顔をする。だが、レイアは両手で顔を覆い、左右に首を振った。


「いいえ。灰色のシュミットさんのせいではありません。私が……私が、ちょっと感動して、嬉しくなって涙が流れたのです」


 すると、背後から笑顔のアドルフが右手でレイアの左肩を軽く(たた)いた。


「驚いたわ。精霊って泣くことがないのに、貴方(あなた)は泣いている。成長が早いから他の精霊とは明らかに違うと思っていたけど、貴方って人間に近いのね」

「――――」

「もしかすると、この調子で成長して、準精霊から精霊になるのは早いかも知れないわ」


 褒め言葉が心に刺さり、余計に涙が溢れる。


 と、その時、茶色い()(しよう)体が山の方から一直線に近づいて来た。まだ手で顔を覆うレイア以外はその存在に気付き、接近する何かへ一斉に視線を向ける。徐々に姿が大きくなってきたのは、ミミズクだった。


「何しに来た、亜麻色のシュタルク?」


 シュミットが発した言葉に聞き覚えのある名前があったので、レイアは涙に()れた顔を上げた。すると、少し黄みを帯びた茶色のミミズクが羽ばたくのをやめて宙に浮いているのが見え、それがシュプレンゲルで遭遇した風の魔法を操る精霊であることに気づき、ゾッとした。


「お前らが珍しく集まっているから、何をしているのかと見に来ただけさ。そしたら、人間みたいに泣いている奴がいるじゃないか? そいつは精霊か?」

「ああ、そうだよ。準精霊で、擬態の魔法を使っているけどね」

「ほう。それで人間の姿になり、泣いている練習をしているという訳か?」

「お前には関係ないね。さあ、行った行った」


 シュミットが手を振って追いやる格好をすると、シュタルクは(さか)らってさらに近づいてきた。


「そういや、大精霊ヒルデガルトが苦戦しているぜ」

「誰に?」

「知っているくせに。大精霊グローベ様だよ。いいのか、こんな所で側近達が、泣く練習をしている準精霊なんか見ていて?」

「お前こそ、手助けはしなくていいのか?」

「必要ないね。大精霊グローベ様が優勢だから」

「と言うことは、側近のお前は暇か?」

「痛い所を突かれたぜ。そうだよ、精霊使いが死んで暇だよ」


 レイアは、シュタルクと契約していた精霊使いフリッツ・エーレンシュタインが目の前で殺されたシュプレンゲルでの事件を思い出して震えた。


 擬態の魔法を使って得た体だが、こういう震えのように、どうも人間の感情から来る動作を正確に再現しているようで、違和感がない。もしかして、不安になると胸がドキドキするのだろうかと思って左胸に手を当ててみたが、鼓動を感じない。さすがに、心臓の動きまでは再現していないようだ。


「暇なら、僕らと戦うかい?」

「冗談だろ。側近四体相手に誰が戦いを挑むものか」


 シュタルクは滅相もないとばかり、宙に浮いたまま体をクルッと回して背を向けた。だが、飛び立とうとはせず、頭だけ振り返る。


「最近、人造精霊が多くないか?」

「知らないね」

「清めの泉でよく見かける」

「お前があんな所へ行く理由が分からないけど」

「そこで、気の合う奴がいたんだ」

「それもお前の性格から考えて、理解に苦しむよ」

「ほざけ、コボルト野郎」

「言うね。やるかい?」


 シュミットが腕をまくり上げると、シュタルクが慌てるようにパタパタと羽ばたいて、「おお、怖い怖い」と言いながら去って行った。


「本当に、何しに来たんだろうねぇ」

「暇つぶしじゃねえか?」


 ヘルマンが首を(かし)げると、ジークムントが鼻を鳴らし、小さくなっていくシュタルクの姿を見送った。



 しばらくして気持ちが落ち着いたレイアは、全員に頭を下げて、見苦しい姿を見せたことを謝罪した。


 その後、レイアは人間の姿のままでも魔法がちゃんと使えるのかを確認するため、氷の魔法、風の魔法、土の魔法はもちろんのこと、治癒魔法も試してみたが、いずれも指導者から合格点をもらった。


「もしかして、このまま人間の姿で固定されるのでしょうか?」

「それはないね」


 大いなる期待をシュタルクの即答で否定されたレイアは、少々落ち込んだ。


「だって、元の姿に戻ってごらん。その方が安定する感じがするはずだよ」


 ちょっぴり名残惜しいが、少女の姿から人魂の姿に戻ったレイアは、この方がしっくり来ることに落胆した。


「逆に言うと、人間の姿になった方が安定するなら、固定されるのが近いって事」

「その固定って、急に来るのですか?」

「急ねぇ……。言われてみれば急かもね。あれ? 戻れないぞって感じで、いつかはやって来る」

「もし、動物の姿に擬態していたら、その動物になってしまうのでしょうか?」

「なるよ」

「――――」

「準精霊で動物になれて、精霊で人間になれるのは知っているよね? みんな、なりたい姿になっているうちに、自然に固定化するんだよ」


 どうやら、動物の姿になりたければ、準精霊の段階で動物の姿に擬態し、人間の姿になりたければ、準精霊の段階では動物の姿にならずに精霊の段階で人間の姿に擬態していればなれるようだ。レイアは、これを「準精霊の段階からずっと人間の姿でいれば、精霊に昇格したときにいつかは安定して人間の姿になるのだろう」と拡大解釈した。もちろん、この解釈は正しかった事が後に証明される。



 訓練がなおも続いていると、人魂の姿に戻ったレイアがまた成長していて、直径二十二センチメートルになっていた。短時間でどこまで成長するのだろうと皆が驚いていると、シュミットが急に一点を見つめて、何かに集中している様子になった。それに気付いたレイアが、人魂の姿のままシュミットに近づいて問いかけた。


「どうしたのですか?」

「……ん?」

「もしかして、念話の最中でしたらすみません」

「……あ、ああ。大精霊ヒルデガルト様とちょっとね」

「何かあったのでしょうか?」

「いやー、僕にとってはどうでもいい話で、何をそこまで気にするんだろうって思ったんだけど」

「――――?」


 咳払いをしたシュミットが、苦笑する。


「大精霊ヒルデガルト様がレイアに伝えてくれって」

「何をでしょうか?」

「白のエルザが精霊界から勝手に出て行ったって」

「えっ!?」

「しかも、亜麻色のシュタルクと一緒だってさ」


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