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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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12.土の魔法

 自主練で何度も風の魔法を使って感覚を(つか)もうとしていたレイアに対して、土を被らないように後ろで離れて座っていたシュミットが新たな提案をした。


「ちょっとここに木を生やすから、それを風で輪切りにしてみて」


 そう言って右手を突き出すと、レイアの前に、訓練用の森にあった大木と同じ大きさの木が突如として現れた。


 輪切りにすると言うことは、()(せん)(じよう)の風ではなぎ倒すだけなので、エルザのように風を(やいば)の如く鋭くして何度も切ることになる。いずれ言われるではないかと警戒していたが、ついにその時が来てしまった。嫌な思い出がまた(よみがえ)るが、避けて通れないようだ。


 観念したレイアは、風の威力はそのままに刀身の厚みくらいに圧縮するイメージで風を起こす。だが、切ると言うよりは折る感じになり、木の上半分がゆっくり後ろへ倒れていった。


「刃物を使うようにするんだよ」


 それは分かっている。分かっているけど、初めてだから加減が掴めない。心の中でそんな言い訳の言葉が浮かぶが、根本的な原因が迷いから来ていることは明白だ。レイアは、残酷な場面を心の奥底へ押し込めて心が落ち着くのを待ってから、さらに風を圧縮して鋭く繰り出す。


 今度は、氷の大太刀のように木の幹を切断することが出来た。嫌な思い出も浮かんでこない。(あん)()したレイアは、木が自動修復するのを待って、今度は木を三等分にしてみた。


「いいね、いいね。その調子だよ」

「師匠! 流石(さすが)、自分の物にするのが早いですね!」


 ギャラリーの褒め言葉に調子に乗ったレイアは、十等分にしたり、乱切りにしたり、いろいろ試してから、つくづく自分は褒められて育つタイプだと自覚するようになった。



 順調に進む風の魔法の練習に飽きてきたので、シュミットの許可を得て氷の魔法で木を切り刻んでいると、星空に直線上に動く一個の金色の星が視界に映った。流れ星よりはゆっくりで、人工衛星が飛んでいるように見える星の正体はジークムントのはずだ。魔法の手を休めて、近づいてくる星の軌跡を見ていると、金色の塊が大きくなり、何かを背に乗せて()(しよう)する鳥となり、焦げ茶色の熊を乗せたドラゴンの姿に変わった。


「茶色のヘルマンを連れてきたぞ」


 ジークムントがそう言いながら大きく羽ばたいて減速し、ゆっくり着地するのと同時に、背中にまたがっていた熊が地面へ飛び降りた。ヘルマンは、見た目がヒグマにそっくりで、立ち上がると百七十センチメートルくらいの背丈。でっぷりと太っており、人間が中に入っているのではないかと思うほど器用に二足歩行し、腹の筋肉を揺らしながらレイアの方へ近づいてきた。


「不思議な輝きの準精霊だなぁ」


 ジークムントよりは少し高めの男性の声だが、鼻に掛かった感じで何となく間延びした(しやべ)(かた)なので、レイアは前世の記憶にある黄色い熊を連想した。


「こいつは、なかなか覚えの早い奴だぞ。遠慮なく、土の魔法を教えてやれ」

「わかったぁ」


 ヘルマンがグッと迫ってきたので、レイアは()()されて後退する。声は(あい)(きよう)のある熊だが、顔は(いか)ついし、茶色の瞳は眼光が鋭いからだ。


「レイア・マキシマだっけぇ?」

「は、はい」

「僕は茶色のヘルマン。よろしくねぇ」


 (がん)(ぼう)と声の不一致に戸惑うレイアは、どうしてもヘルマンの()()()の存在が(ふつ)(しよく)出来ない。だが、魔法の教え方はジークムントと同じく懇切丁寧で、彼女は魔法を発動する前からコツが掴めた気がしたほどだ。終始無表情なのを何とかしてくれれば親しみも湧くのだが、無い物ねだりしても仕方なく、そういうキャラなのだろうと理解してヘルマンからの課題を待っていると、


「僕を土の壁で取り囲んで、(つぶ)しちゃってぇ」

「――――」

「早くぅ」


 急に物騒なことを言われて、レイアは目が点の気分になる。この人――いや、この熊さんは、そっちの気があるのかと思ってしまったが、とにかく、ヘルマンの周囲に高さが二メートルを超え、厚みが三十センチメートル以上の土の壁を四枚出現させた。一発で魔法が成功したのでレイアは驚いたが、ジークムントもシュミットも「ほう」と驚きの声を上げ、フリーダは大喜びする。


「どうしたのぉ? 壁を囲んだだけじゃぁ、逃げられるよぉ」


 そうは言われてもと(ちゆう)(ちよ)していると、土壁に囲まれた中からヒョイッとヘルマンが飛び出して、地面にトンと着地した。難なく飛び越える身軽さと、重量感のない着地音に不思議がるレイアは、もう一度ヘルマンを土壁で取り囲む。だが――、


「残念だねぇ。遅いよぉ」


 土壁の右からヘルマンの頭が出て、「ほらねぇ」と全身を見せて両方の前足を上げてみせる。


 おかしい。確実に取り囲んだはずだが、いつの間に抜け出したのだろう。見えない側の土壁を破って出てきたのではないかと疑ったレイアは、壁の厚みを倍にして再挑戦したが、これも失敗した。


「厚みを増すと、遅くなるよぉ」


 理屈は分かるが、薄くすれば破られる。そこでレイアは考えた。ヘルマンを取り囲むために二メートルの土壁を出現させるのだが、それには四秒かかる。これを一秒に短縮できればいいのではないかと。


 だが、目標の時間短縮は達成出来たが、ヘルマンは壁の外に着地して両前足をヒラヒラと振っている。何という素早さ。これに対処するにはどうすべきか。さらに時短で動きを封じるかと考えていると、ヘルマンの「壁を囲んだだけじゃぁ、逃げられるよぉ」という言葉を思い出した。何故(なぜ)逃げることが出来るのか。――それは、天井がないからだ。


 (ひらめ)いたレイアは、高さが二メートル以上のドーム状の土壁を構築して、崩壊させた。辺りに響く振動音が消え去った頃、土の山の(いただき)が盛り上がったかと思うと、ヘルマンの頭が飛び出した。


「合格だよぉ」


 レイアは、フリーダの喝采とジークムントやシュミットの祝福に包まれた。



 その後、土の塊を堅くして木にぶつけると折れるか試したり、土の魔法と水の魔法を使って泥濘(ぬかるみ)(わな)を作ったり、色々と練習を続けていると、フリーダが「誰か来る」と声を上げた。レイアは、また誰かが飛んでくるのかと星空を見上げたがそれらしい物が見当たらない。その時、ヘルマンが振り返ったので、その方向に意識を向けると、地平線に動く影が見えた。


「あれぇ? 群青(ぐんじよう)のアドルフまで呼んだのぉ?」


 ヘルマンが間延びした声を上げると、地平線の影が消え、急に彼の背後で青い影が揺らめいた。


「なんでこんな所に大精霊ヒルデガルト様の側近が集合しているの?」


 銀鈴の声と同時に姿を現したのは、群青色のミディアムヘア、同じ色の瞳、青色で長袖のワンピースを身に(まと)った面長で雪肌の美少女だった。背丈は百四十センチメートルほどのエルリカより少し高く、百五十センチメートルは越えているだろう。()(だし)のエルリカと違って、バレエのトーシューズに似た形の青い靴を履いている。


「え? ここにいる皆さんって、大精霊ヒルデガルト様の側近なのですか?」


 精霊の中でもトップクラスのメンバーが目の前に集まっていると知って(きよう)(がく)するレイアは、大きく上下に揺れた。


「そうよ。金のジークムントから聞いていないの?」

「わりぃ。俺、何も言っていなかった。灰色のシュミットが事前に言っているかと思って」


 (ほこ)(さき)が自分に向いて居心地の悪いシュミットが頭を()いて、レイアの方へ困った顔を向ける。


「ごめん。知り合いって、側近の事だったんだ」

「――――」

「全員集合じゃないけど。一応、主力に集まってもらったのさ。君を鍛えるためにね」


 そう言って、シュミットは照れ隠しに笑い、ウインクした。

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