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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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11.風の魔法

 レイアが波紋の中を通り抜けると、(うつ)(そう)とした森から一転して、満天の星が輝く夜の世界が眼前に広がった。一瞬にして夜の(とばり)が下りると、通常の人間なら目が慣れるまで――瞳孔径を調整するまで実際よりも暗く感じるものだが、たとえ人型精霊でもそのような調整はないので、辺りの光景がジワジワと見えてくるのではなく、彼女達は視界に映る全てを明確に把握出来ていた。


 天空には金銀銅の微細で無量無数の粒を地平線まで満遍なく散らしたように星々が広がり、所々密集した部分は星雲を連想させる。息を()む美しさで感動に震えるレイアは、異世界に来てから雲や月明かりが星を部分的に隠している場面しか見ていなかったので、これが人間界の夜空を()しているものなのかは判別できなかったが、前世の記憶にある夜空と比較して星の数が圧倒的に多く、天の川のような雲状の星の帯はなく、星は(またた)かないので、おそらく精霊界独自の夜空だろうと考えた。


 レイアが(てん)(がい)に描かれた見事な宇宙の姿に見とれていると、シュミットがかなり先を歩いているので、慌てて追いかける。彼の歩く起伏のない大地は芝に似た草で覆われ、行く先には星が落ちる地平線まで遮る物は何もない。誰かがいる様子もない。いったい、どこへ行くのだろう。


 シュミットの行き先を案じる彼女は、背後に意識を向けると、星の塊が地上に降りてきたのかと()(まが)う無数の細かい光の粒が浮遊し、球体のように集まっているのが三つ見えた。あれらは、見習い精霊の群れだろう。精霊の森に最初に入って番人ミノタウロスに遭遇する前に目撃した光景と同じだ。もしここにヒンメルがいたのなら、彼らの数を数えてくれて、何を(ささや)き合っているのか教えてくれたはず。レイアは、数千の群れが三つあるとしか推測できず、きっと彼らは突如として現れた自分達を見て「不思議な輝きの準精霊が来た」と囁いているであろうはずの声が聞こえないので残念がる。


「あのー、誰に会うのでしょうか?」

「ん? 知り合いって言ったよね?」


 シュミットが無言で歩き続けているので不安になったレイアが、彼の背中に声をかけると、当たり前のことを()くなとでも言いたそうな返事が返ってきた。


「ええ、聞きましたが、どういう人――いや、精霊かなぁと思いまして」

「金色のドラゴンだよ」

「ドラゴンですか!?」

「師匠。多分、あそこで光っている精霊じゃないですか?」


 フリーダに言われて前方を見たが、ドラゴンの姿はない。レイアよりも遠くが見えるフリーダにしか見えていないのだろうと思って、方角を訊くのを諦めていると、地平線の近くに一つの金色の星が現れてユラリと動き、徐々に大きくなって()(しよう)する鳥の姿になり、さらにドラゴンの姿に変わった。レイアが、闇に光の軌跡を優雅に描く金色の飛翔体の輝きに見とれていると、ドラゴンが迫ってきて大きく羽ばたいて減速し、草地の上に後ろ足で静かに着地した。その際に、レイアは風をまともに受けて後方へ吹き飛ばされ、両手でフリーダを包み込むシュミットも目を細めて数歩後退した。



 ドラゴンは全身が金色に輝き、背丈は二メートル以上、広げた翼の端から端までは五メートルはある。コモドオオトカゲに二本の短い角が生えたような頭、短い前足と太い後ろ足、尾は一メートル以上ある。恐る恐る近づくレイアは、前世の記憶にある色々なドラゴンの姿と照合し、色は別にして似たような姿は見たことがないと結論づける頃、当のドラゴンは金眼の横長の瞳孔を細めて前足で器用に腕組みをしながら、口を開いて(のこぎり)の歯のような牙を見せる。


「よう、灰色のシュミット」


 猛獣の(ほう)(こう)のような声を連想していたレイアは、ドラゴンが低めの男性の声を発するので拍子抜けした。


「元気か? 金のジークムント」

「こないだ会ったばかりだろ? 変わりはねえよ。それより、微精霊なんか連れて、今度は何の用だ?」

「頼みがある」

「その頼みとやらを当ててやろう。そのデカい方の微精霊の魔法回路を強化して欲しい」

「当たりだ。微精霊じゃないけどな」


 ドラゴンが、重量感のある足音を立てて大きな(ひと)(だま)の方に近づくと、圧を感じたレイアは少し後退した。


「名前は?」

「レイア・マキシマです」


 ジークムントの前方に突き出ている()(こう)が開き、フーッと息を漏らすと、シュミットの方へ振り向いた。


「こいつの魔法回路は、体の大きさに合わない。もっとマナを蓄積して今の倍にしないと、そのうち破裂しちまうぞ」

「白のクルツの半分くらいか?」

「あいつ位の大きさでもいいかもな」

「この形であの大きさだったら、あいつを飲み込むだろうね」


 クルツは()(えん)(けい)で四十センチメートルほどなので、彼を包み込む大きさの球体をイメージしたシュミットが笑うと、同じ状況を頭に描いたジークムントも笑い声を重ねる。


「とりあえず、今の倍を目標にして、鍛えてくれないか?」

「そいつは何が得意だ?」

「氷の魔法。もちろん、水も使える」

「鍛えるのは、その魔法でか?」

「出来るなら――」

「同じ魔法で訓練しても、あまり大きくはならない。別の魔法を覚えると魔法回路が大きくなるから、何を教えればいい?」

「なら、とりあえず、風と炎だ」


 風と聞いて、レイアはエルザを連想し、彼女が繰り出した残忍な魔法を思い出して震えた。また、ミミズクの姿をした亜麻色のシュタルクの強烈な風の魔法に始まり、殺された精霊使いフリッツ・エーレンシュタイン等、シュプレンゲルの町で起きた一連の事件までもが脳裏に浮かび、あまり良いイメージのない魔法を覚えるのかと思うと気が()()った。


「風はいいが、炎……火の系統は向いていないのに訓練させるのか」

「無理かな?」

「適性がないから、訓練しても無駄だと思うが」

「やれば出来るって事は?」

「何? そんなにこいつを買っているのか?」


 適性まで指摘されたレイアは、精霊達が自分の魔法回路を体の外から見ただけで分かることが前々から不思議だったので、二人の会話に割り込んで質問を投げてみた。


「あのー、私の魔法回路って、外から見ただけで分かる物なのでしょうか?」


 ジークムントとシュミットが同時に振り返り、これまた同時にニッと笑うのでレイアはどぎまぎして揺れる。


「その体、俺から見れば裸みたいな物だからな」


 そう言って豪快に笑うジークムントに、シュミットは「高位精霊になれば相手の魔法回路を外からでも認知できて、特性や強さも分かるのさ。特に、金のジークムントの場合はずば抜けているけど」と補足する。彼らの言葉を聞いたレイアは、自分が体の中まで透けて見える草履虫みたいで、魔法回路が丸見えなのだろうかと考えたが、フリーダを見ても体内まで見えずただ光っているだけなので、不思議さが増すだけだった。また、強さが分かると言うことは、ファンタジー小説とかで相手を見ただけでレベルいくつの魔力を持つとか分かるキャラクターが登場するが、そう言った類いなのかと推測した。


 いずれ自分も、シュミットが言う高位精霊になれば、彼らの次元に到達出来るのだろう。早くなりたいものだと彼女が思っていると、


「さて、炎が無理なことを実践で証明してみるか」


 ジークムントがそう言って、火の魔法の使い方をレイアに伝授した。今までにないやり方で難しく、彼女は迷いながらも何度も発動してみたが、空中に(ろう)(そく)の炎が浮いている状態にしかならず、意気消沈する。


「これ以上やると自信をなくしそうだから、風の魔法へ行くぞ」

「うーん……。行けそうな気もするが」

「今は、やめとけ。……まあ、準精霊から精霊になったら分からんけどな」


 ジークムントの最後の言葉で少しは元気づけられたレイアは、いつかは再挑戦しようと決意し、彼の言葉を胸に(しま)う。



 次は、風の魔法を教わる番だ。ジークムントの説明は火の魔法の時よりも実に念入りで、火の魔法は最初から期待していなかったから手抜きだったのだろうと誰もが思ったほどだ。教わる方のレイアも、事細かに教えてくれるので、頭の中に染み込むが如くやり方が理解できた。


「じゃあ、風を地面にぶつけて(えぐ)って見せろ」

「え? 穴を開けてもいいのですか?」

「心配するな」

「でも、(せつ)(かく)の草原が――」

「やってみれば分かる」


 もしかして、シュミットの時の大木のようにこの草原も自動修復するからそう言うのだろうかと思い、遠慮を捨てて()(せん)(じよう)の風をイメージして魔法を発動してみる。だが、エルザの魔法で惨殺された暗殺者の姿が頭を(よぎ)り、()()く出力を制御できず、斜め下へ向かって吹いた風は草を()でる程度の威力になってしまった。


「遠慮しなくていいぞ」


 ジークムントの言葉を聞いて(うなず)くように揺れるレイアは、雑念を捨てて一気に風を放出する。ところが、一メートル程度の高さから放出された突風の威力が(すさ)まじく、地面を抉って(つち)(くれ)を周囲に散乱させ、ジークムントとシュミットは頭から土を被り、フリーダとレイアは後方へ吹き飛んだ。


「おいおい、自爆かよ」


 頭を左右に振って草と泥を落とすジークムントは(あき)れて天を仰ぎ、無言のシュミットは口にまで入った泥を吐き出しながら丁寧に頭と服の汚れを払い落とす。


「ごめんなさい!」


 レイアが慌てて彼らの近くへ飛んできて謝罪をし、自らが開けた直径二メートル以上の大穴に視線を移して仰天する。だが、彼女が驚いたのはそれだけではない。飛び散った土や草が独りでに集まってきて、(たちま)ち穴が修復されて何事もなかったかのように元に戻ったのだ。


「もっと高い位置から風を出せ。また自爆するぞ。巻き添えは御免だからな」

「はい……」


 レイアは五メートルほど上昇し、四十五度見下ろした角度で螺旋状の風を発射する。この高さなら先ほどの風の威力でも大丈夫だろうと考えたのだが、甘かった。今度は直径五メートル深さ一メートルの大穴が空き、油断していたフリーダは勿論のこと、ジークムントもシュミットも盛大に草と泥を被って()()めいた。


 再び、しきりに謝罪するレイアは、二度も被害に遭ったジークムントとシュミットの怒りを恐れたが、二人は風の魔法の初心者にしては上出来の結果に満足そうな顔をしていたので(あん)()する。


「好きなだけ穴を開けな。すぐに修復されるから張り合いないかも知れんが、やればやるほど力が付くから」

「はい!」


 それからレイアは、高さと風の角度を変え、威力を調整しながら二十回ほど魔法を発動した。彼女の活躍ぶりに目を細めるジークムントは、飛び散る土塊を見ながらシュミットへ声をかける。


「見てみろ。魔法回路が鍛えられて体が大きくなっていくぞ」

「ああ。だから、新しい魔法は効果的だな」

「火の魔法も操れれば、目標達成だったかもな」

「だな。残念だよ」

「この後、どうする?」


 シュミットとジークムントが互いに顔を見合わせる。


「治癒魔法を教えたい」

「それは無理だろ」

「適性がないと思うかい?」

「いや、そうは思わんが、あるべき姿に戻す魔法は高度だぞ。覚えられるか?」

「なんか、出来そうな気がするんだよなぁ、見ていると」

「師匠なら出来ますよ!」


 フリーダが大きく揺れて主張すると、シュミットは頷き、ジークムントはフーッと息を吐いた。


群青(ぐんじよう)のアドルフなら、今別の所にいるから会わせるのは無理だ。その前に、土の魔法は教えなくていいか?」

「土? それは考えなかったな」

「茶色のヘルマンは呼べば来るぞ」

「なら頼もうか」

「おう。待ってろ」


 ジークムントは羽を大きく広げて跳躍し、すでに直径十三センチメートルにまで大きくなっていたレイアを左に見ながら、大きく羽ばたいた。

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