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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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9.期待を越えた成長ぶり

「じゃあ、次は、山を壊してみよう」


 恐ろしい課題を口にしたシュミットがフィンガースナップを響かせると、直径二十メートルの円形の(くぼ)みが地鳴りを響かせて大きく揺れ、中心部分の岩盤が徐々に盛り上がってきた。その真上にいたレイアが壁の方に向かって退避すると、先端が(とが)った岩山が姿を現し、どこまで大きくなるのだろうとハラハラするほど山が上昇する。三十秒後にようやく上昇は終わったが、出現した岩山の形は四角錐で、何となくマッターホルンに似ていた。高さは二十メートルほどで、底面の四つ角は岩壁にまで達している。


「壊す前に試したいことがあります」

「え? 何を?」


 レイアがシュミットの合図を待たずにそう言うと、ここで提案があるとは想定外だったシュミットが首を(かし)げた。


「これ全体を氷漬けに出来るか、試させてください」

「おや、積極的だね? もちろん、許可するよ」


 山全体を直方体の氷に閉じ込めるよりも、山の表面を氷で覆う方がマナの消費が少ないはず、と直感で判断したレイアは、反時計回りで山の周囲を浮遊し、全形を確認してから、魔法を発動する。すると、岩山の表面が青白い氷に包まれ、ゴツゴツした部分は光を乱反射させて輝いた。


「何とか出来ました」

「師匠! (すご)いです! 尊敬します!」


 テニスボールにも満たない大きさの人魂が、五百倍の高さの山を氷漬けにしたのだから、感動したフリーダがシュミットの(てのひら)の上で弾むように上下する。しかし、シュミットは苦笑して(かぶり)を振った。


「もしそれが敵だったら、グルッと回っている暇はないよ」

「ええ。確かに、そうですね」

「ちょっと変形してみよう」


 シュミットが指を弾くと、氷結した岩山が氷ごと砕けて崩れ、氷が光の粒となって消える中、岩石が(たちま)ち集積して高さ十メートルの灰色のゴーレムが三体出現した。いずれもデッサン用のモデル人形を(いか)つい姿にしたもので、丸太のような四肢、直方体の胴体、円柱状でのっぺらぼうの頭部を持っている。


「これを、今いる位置から動かないで、表面全体を凍らせて」


 つまり、見えていない部分は想像で補って氷で覆えということだ。難題ではあるが、レイアの位置から見て、三体のゴーレムはどれも同じサイズで正面を向いて横一列に並んでいる。頭部や胴体の後ろが直接見えないが、極端に奥行きがあるとは思えないので、円柱や直方体から奥行きの距離は推測が付く。ならば、一体のサイズと距離が(つか)めれば、残りの二体もサイズと距離がおおよそ分かると思っていると――、


「敵は止まっているとは限らないよ」


 ニヤリと笑ったシュミットが指を鳴らすと、ゴーレムがミシミシと音を立てて、実にゆっくりと前進を開始した。訓練の課題のハードルを勝手に上げてニヤけている意地悪な教官にレイアは腹を立てるも、すぐに冷静さを取り戻し、位置と角度の目測をやり直して魔法を発動した。


 三体のゴーレムは、体の形状に沿って次々と厚い氷に包まれ、動きが停止した。レイアが氷を厚くしたのは、表面を薄くコーティングするような氷では動きを止められないと思ったからだ。


「ほう。動きを止めるとは、良い判断だ。さっきの山みたいに薄く包み込むだけだと思っていたよ」

「師匠をもっと褒めてくださいよ。凄いことをやっているんですから」

「そうだね。戦闘のセンスもある。()(すが)だね」

「それだけじゃなくって、もっともっと」


 フリーダは自分が尊敬する師匠を手放しに褒めてもらいたいのでさらに催促するも、シュミットは笑うだけだったが、レイアは過剰な褒め言葉は不要で、大精霊の側近に感心してもらうだけで十分だった。


 その後、再登場した四角錐の岩山を水の渦で砕いたが、さすがに粉々になるまではいかず、山は三分の一ほど残った。でも、一応はシュミットから合格をもらって、レイアにとって難題に思えた課題はクリアした。



「じゃあ、場所を変えるよ」


 シュミットがそう言い終えると、岩山の残骸も周囲の岩壁も瞬時に消えて、辺りは(うつ)(そう)とした森になった。どの樹木も幹が太く、地面から露出している太い根が()うように伸びて、無数の枝葉が空をほとんど覆い隠し、斜めに差し込む光の筋がいくつも見える。空間的な瞬間移動なのか、訓練の場所を物理的に一瞬で構築しているのかは不明だが、シュミットの魔法は底知れない力を持っているようだ。


 レイアも、シュミットの左の掌に載るフリーダも、辺りをキョロキョロと見渡していると、シュミットがまたニヤリと笑った。


「周りに木があるよね? これを君の剣で出来る限り素速く切り倒して」


 剣と言われて、レイアがいつものように氷の大太刀を一本出現させると、


「駄目。使うのは両刃の剣だよ。それ、片方にしか刃がないじゃないか」


 言われて気付いたが、今まで片刃の日本刀しかイメージしていなかった。違う剣を要求されて考え込んだレイアは、アメリアが持っていた剣――サーベル――をイメージして青白い氷のサーベルを出現させる。


「そんなしょぼい剣だと切れないよ」

「そうですか?」

「疑うなら、やってみたら?」


 確かめないと気が済まないレイアは、氷のサーベルを遠隔操作のように魔法で動かして、近くにある木の幹を(よこ)()ぎに切りつけると、有ろう事か、乾いた音を立てて剣が弾かれた。


「ほらね?」

「この木は、実際の木なのでしょうか?」


 訓練用に岩で出来た樹木に思えてきたレイアがむくれると、シュミットが平然とした顔で答える。


「魔法で出来た木だけど」

「――――」


 それは言われなくても分かると思って腹が立ったレイアだが、よく考えると自分の質問が「実際の木」だったから、シュミットが「魔法で出来た木」と訂正しただけである事に気付き、反省する。


 さて、あれを切り倒せる剣はどのような物だろうと考えていると、前世の記憶が蘇り、アニメやラノベの挿絵で見たことがある、勇者が担いでいそうな刀身の幅の広い剣がイメージとして湧いてきた。レイアは、早速、それを魔法で出現させる。


「おっ? 何それ?」


 シュミットが目を疑ったのも不思議ではない。先ほど切り損ねた大木の横に浮いているのは、青白く輝く長さが二メートルを超える大剣で、幅は三十センチメートル以上あり、刀身の中央には、(つば)に近い所から刃先にかけて古代文字のような物がびっしりと彫られているのである。


「そんな物で切れるのかな?」


 訓練用にシュミットが魔法で用意した大木は、この大剣でも切れないほどの反則的な堅さかも知れないが、レイアは初めての剣に願いを込めて、遠隔から()()()けに大木を切りつける。


「え? 嘘だろ……」

「師匠! やりましたね!」


 剣の(いつ)(せん)の後、哀れな樹木の上半分は斜めにずり落ち、地面に地響きを立てて転がった。まずはホッとしたレイアだが、シュミットを驚かせようと、次々と大木を切り倒していく。たちどころに十本の大木が切り倒されてしまったので、シュミットは目を丸くし、レイアはガッツポーズを取りたくなる気分で大きく上下に揺れ、フリーダは狂喜した。


 シュミットはフリーダを左手に持ったまま、右の肩を(すく)める。


「全く、君には驚かされるよ」

「ありがとうございます」

「さすがにこの木は切れないだろうと思ったんだが、あっさりやってしまったね」

「ええ、何とか出来ました。次は何をすればいいのでしょうか?」

「うーん……」


 そう言ってシュミットが、右手でポリポリと頭を()きながら、レイアを凝視する。じっと見られると恥ずかしいレイアは、上下に揺れると、「ま、いっか」とシュミットが(つぶや)いた。


「え?」

「小屋から出た時の大きさの倍になったら教えようと思ったんだけど、今の大きさでもいいや」

「はい?」

「何とか、擬態の魔法を習得できそうだって事。倍の大きさにならなくても」


 そう言って笑うシュミットの掌の上で、フリーダが大きく上下した。


「師匠は気付かないと思いますが、みるみる大きくなっているんですよ!」

「どれくらいに?」

「前の半分くらい増えましたよ!」

「そんなに!?」


 (ひと)(だま)の姿では、視界に自分の姿が映らないので、サイズが大きくなっていることは他人から教えてもらうしかない。フリーダは増分が「半分くらい」と言うから、五割増しになっているのだろう。


 訓練で派手な魔法を使っただけで、体が大きくなる。それは、ウェイトトレーニングをやっている最中にみるみる筋肉が付いていくようなものか。そう考えると、常識外れな成長ぶりである事が良く分かる。


 実際に、レイアの体は直径八センチメートルにまで増えていた。シュミットは小屋を出たときの倍のサイズ――十センチメートル――を目安にしていたのだが、少々サイズが足りなくても、レイアの成長ぶりから考えて、何とか習得出来るのではないかと期待を寄せていた。


 その期待を裏切らないレイアを、この後、シュミット達は目撃することになる。

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