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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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7.精霊界での急成長

 大精霊ヒルデガルトは、人造精霊エルザが何をしていたのかまで知っている。しかも、無数にいるであろう微精霊の中でフリーダの事まで知っている。一体、どこまで精霊達の動向を把握しているのだろう。


 前世では、人付き合いと言っても同じ趣味で意気投合した数少ない友人と付き合っていた程度だから、そんな自分を基準に考えると、他国の生徒の動向まで知っている事に等しい大精霊の情報収集能力は理解しがたい。きっと、千里眼の能力を持っていて、どんな遠くに離れていても何をしているのか分かるのだろう。


 そう言えば、精霊の森で初めてミノタウロスに遭遇した時、人造精霊カルラに大精霊ヒルデガルトが乗り移って言葉を(しやべ)っていた。千里眼どころか、遠隔での(ひよう)()まで可能らしい。これは、恐るべき能力である。


 自分もいずれ大精霊になったら、精霊界はおろか人間界までくまなく目を配り、精霊達の動向を把握し、時には相手に憑依して自分の言葉を語るのだろうか。


 ――自分には、とてもそんな事が出来るとは思えない。


 などとレイアが考えていると、


「師匠。置いてかれますよー」


 フリーダの声で我に返ったレイアは、周囲の景色が激変していることに気付いた。草原が一転して高木ばかりが生い茂る緑林になり、陽光が真上から差し込んで周囲は明るいが、(そう)(くう)を見上げても太陽らしい物がない。瞬間的な変化に面食らったが、記憶にある風景とようやく一致して、レイアは(あん)()する。


 これは、大精霊ヒルデガルトの転移魔法だ。ほんの少し考え込んだ間に、自分とシュミットとフリーダを連れてこの空間に移動し、みんなと五メートルほど距離を開けられている――自分だけ置いて行かれたのである。


 急いでシュミットの背中を追うレイアは、前方に周囲の高木の十倍はある太さの巨木が見えた。その巨木の極太の根が、小屋の屋根から下に向かって伸びて小屋全体を包み込んでいる。確かこれは、大精霊ヒルデガルトが魔法で出現させる物で、レイアは魔法を使うところが見られなくて残念がる。


 小屋の扉の両側には、最初に見たときと同じく、金髪(しやく)(がん)の女性の兵士二人が槍を持って立っていて、大精霊を前にして槍を銃に見立てて(ささ)(つつ)の姿勢を取る。筒の形状の灰色帽を被り、灰色の短いコートを羽織って灰色のブーツを履いている彼女達の姿は記憶通り。となれば、あの出来事も再現かと思っていると――、


「「灰色のシュミット様。後ろから微精霊が跡をつけて――」」

「客人だよ」


 やはりだった。目だけ動かす衛兵が同時に声を出して、微精霊の存在を警告する。それをシュミットが(さえぎ)ったのは前回と違うが、彼女達がキチンと仕事をしている事は今回も実証された。


 途中からシュミットより大股になって前を歩くヒルデガルトが扉へ近づくと、独りでに内開きになり、一行は小屋の中へ入る。


 中の様子は、最初に見た時と何一つ変わっていない。床は板が何枚も張られ、壁と天井は丸太が積み上がり、木枠の窓から明るい日差しが斜めに差し込み、部屋の真ん中に机と四脚の木の椅子がある。


「あれ? 師匠。外から見た建物の大きさと中の部屋の広さが違いますね。それに()の光が斜めになっている」


 そうだ。レイアも自分がフリーダと同じ疑問を抱いた事を思い出す。ここだけ異空間――ヒルデガルトの好みの空間になっているのだろう。レイアは「そうね」とだけ答えてヒルデガルトの答えを待ったが、無言のまま彼女は出入り口から一番遠い位置の座席に着席した。シュミットはヒルデガルトの向かいの椅子に腰掛け、レイアとフリーダはシュミットの左横の椅子付近で宙に浮いた状態で停止した。


 レイアは、また鏡が床に落ちていないか、移動中にチラッと机の下を確認したが、さすがに落とし物は見えなかった。


「さて、灰色のシュミットは、もちろんあの話をレイアに伝えていますね?」

「はい」

「なら、今のレイアを見てどう思います?」

「精霊の森に来てからずっと見ていますが――」


 レイアはこの時、ヒルデガルトとシュミットの視線が自分の方へ同時に向けられてどぎまぎし、上下に揺れた。何のことを話しているのだろうと思っていると、


「マナが人間界と比べて桁違いに多いからだと思いますが、こんなに吸収が早い精霊――いや準精霊は見たことがないですね」

「なら、いっそのこと?」

「やっちゃいますか?」


 二人の会話が、取りようによっては物騒な話にも聞こえてきたレイアは、左右に揺れながら緊張する。


「な、何のことでしょうか?」

「レイア。君は自分の状態に気付いていないのかい?」

「状態――ですか?」

「森の外にいた時よりも体が大きくなっているってこと」


 シュミットの、肥満にも聞こえる発言に乙女心が傷つきそうになったレイアだったが、マナの吸収で体がまた成長しているという指摘だと思うと気持ちが晴れてきた。


「師匠。一段と大きくなっていますよ」

「どのくらい?」

「一回り」


 レイアは、やっぱり肥満に聞こえる表現が気に入らないが、精霊の森の外からこの小屋へ来るまでの短時間に目に見えるほど体が成長しているとの指摘に驚き、自覚の無さに(あき)れた。実際、レイアの体は、エルリカと最初に会ったときには三センチメートルで、その後の訓練と魔法の行使で成長して、精霊の森の外で行われた血生臭い戦闘では三センチ五ミリメートルだったのだが、戦闘後にこの部屋へ来るまでにまた五ミリ増えて四センチメートルになっていたのだ。これは尋常ならぬ成長だ。


「大精霊ヒルデガルト様。私はどうなってしまうのでしょうか?」

「それをさっき、灰色のシュミットと話をしていたの。いっそのことやってしまおうと」

「何をでしょうか?」

「姿を動物に変えることです」


 動物と聞いてレイアが真っ先に思い出したのは、白猫エルザの姿。ラブリーな殺し屋を連想させるので、やはり遠慮したい。出来ることなら憧れの姿を獲得したい。それは――、


「人の姿がいいです」

「――――」

「例えば、エルリカさんみたいな」


 自分の意見を否定されたヒルデガルトは(どう)(もく)したが、エルリカの名前を聞くと優しい目になった。


「彼女に憧れているのですね?」

「はい。あの姿になりたいです」

「それはまだ無理です」


 ヒルデガルトの瞳にレイアの上下に揺れる姿が映り、困惑の色が浮かぶ。それは、レイアの無知に対しての戸惑いだ。


「人の姿になるのは、準精霊の上の精霊になってからです」

「――――」

「それは知っていますよね?」


 そうだった。無い物ねだりの自分が恥ずかしいレイアは、ゆっくり下降し、椅子の()(もた)れにぶつかって停止した。


「でも、大精霊ヒルデガルト様。擬態の魔法を使えるようになれば、少しでも人間(ヒユーマン)になった気分が味わえるのではないでしょうか?」

「今、教えるのですか?」

「いいえ。もう少し成長してからですが。この大きさでは不安定になりますし」


 どうやら、擬態の魔法を覚えると人間の姿にもなれるらしい。それも良いかなと思ってフリーダと同じ高さにまで上昇すると、


「ただし、人間界には戻らないよ。こんなに成長するのは精霊界だけだと思うから」


 シュミットの補足を聞いたレイアは、反論する。


「人間界へ戻りたいです。白のクルツさんが待っていますし、傷ついたアメリアさんもいますから」

「ああ、二人は帰りましたよ」

「え?」

「もう、森の外にはいません」


 千里眼のヒルデガルトにあっさり言われたレイアは、人間界に戻る口実が消えてしまって(がく)(ぜん)とした。最初はお別れかと思ったが、教育係のシュミットが現れて精霊界へ戻る意味が無くなった。でも、エルザが精霊界へ行きたいと言うから、久しぶりなので一緒に付いていった。あくまで、エルザが精霊界の様子を見終わったら帰るつもりだった。それが、本当にお別れになってしまったのだ。レイアは、悲しくなって少し落ち込んでしまう。


「とりあえず、精霊界(ここ)で修行を積んで、擬態の魔法を覚えなさい」

「人の姿になるのは、いつでしょうか?」

「さっきも言いましたが、精霊になってからです」

「準精霊から精霊になるには、何をすればいいのでしょうか?」


 ヒルデガルトはレイアに感づかれない程度に息を()く。


「保証はしませんが、少なくとも三人の精霊使いと契約して経験を積めば精霊になれるでしょう」

「レイアなら、二人かも知れませんね」


 ヒルデガルトの言葉を訂正してくれたシュミットに、レイアは感謝して上下に揺れた。


「それまでは、この格好でしょうか?」

「だね。でも、擬態の魔法を使えばなんにでもなれる。もやもやした煙のようにもなれる」


 ならば、常にもやもやした人の形でいてもまあいいかと、レイアは妥協することにした。


「では、精霊界で灰色のシュミットさんと修行を積みます」

「じゃあ、話は終わりですね」

「あのー、ちょっとお伺いしたいことがあるのですが」


 立ち上がりかけたヒルデガルトが、笑顔を撤回して着席した。大精霊の機嫌を損ねたと思ったシュミットは青くなったが、そんな気持ちを知らないレイアは、ヒルデガルトへ質問する。


「大精霊ヒルデガルト様は、精霊界から人間界の様子が分かるのでしょうか?」

「ええ、そうです」

「なら、白のエルザさんは何をしていたのか、ご存じだと思いますが、実際に何をしていたのでしょうか?」


 レイアからその言葉を聞くとは思っていなかったヒルデガルトは不思議そうな顔をした。


「それを聞いてどうするのです?」

「実は、アメリアさんが知りたがっているのです」

「知らない方が良いのでは? さっきみたいに、殺されそうになりますよ」


 ヒルデガルトは森の外の戦闘も全部見ていたのだろう。でなければ、殺される話は出てこない。


「アメリアさんは白のクルツさんに守られていますから大丈夫だと思います。もし、白のエルザさんが悪人に狙われる理由が、裏に何か事件とかが絡んでいるなら、アメリアさん経由で警備隊、あるいは軍隊に伝えて解決してもらわないといけないと思うのです」

「白のエルザは、詮索するなと言っていましたよ?」

「そうですが……」

「人間界のゴタゴタに精霊が首を突っ込まないことです」


 レイアが沈黙すると、ヒルデガルトが小さく息を()いた。


「まあ、首を突っ込まないと言っている私が白のエルザを何故(なぜ)監視していたのか、矛盾しますから、少しは言います」

「――――」

「あの人造精霊は、他の人造精霊と(つな)がっているのです」

「繋がっている?」

「情報のやり取りをしているのです。どうもそれが、人造精霊を作っている場所に集まっているみたいなのです」


 レイアは、人造精霊のネットワークを連想した。


「その情報は何なのでしょうか?」

「そこまでは分かりません。ですが、白のエルザがよく行く場所なら分かります」

「どこでしょうか?」

「銀行です」

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