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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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5.新たなレイアの教育係

「もう少し姿を消していた方が、敵を油断させられて良かったのではないか?」

「あんたねぇ。狙われている精霊に一人で戦わせる気?」


 クルツは、まるでアメリアに召還されたかの如く空中に出現して自分の意見を述べると、エルザにすかさず反論を食らった。


「と言うことは、俺が前面で戦う?」

「当たり前でしょう」

「なら待て。先に()()(にん)を森へ運ぶ」

「早くしなさいよ。敵はのんびり待っててくれないから」


 クルツは、(あお)()けに倒れた状態でまだ目が覚めないアメリアを魔法で宙に浮かび上がらせ、レイアにエルザの加勢を託す。緊張するレイアは、アメリアが独りでに森の奥へと飛んでいき、クルツがその後ろを追いかけるのを見送ると、彼が早く戻ってくることを願いつつ、エルザの指示を待つ。


「アメリアさんは大丈夫ですよね?」

「そんな事より、覚悟は出来ているの?」

「覚悟って――」

「相手を殺す事よ」

「――――」

「まさか、殺せないって言わないわよね?」

「それは……」

「あいつらは魔物だと思って殺しなさい。いいわね?」


 その覚悟は、前にも誰かに問われた気がする。でも、出来なかった。人を殺すなんて、とてもじゃないけど、そんなの無理。この(ため)()いが自分を無口にさせ、それがエルザへの回答となった。


「師匠! 頑張って敵を倒してくださいね!」


 そう言って木の陰にそそくさと隠れるフリーダの姿を見ると、彼女の戦闘力の無さが(かえ)って(うらや)ましく思えてくる。


 前世の時もそうだった。怖い出来事はもちろん、面倒事に直面すると誰かの背中に隠れたりその場から逃げたりするのは特技だったし、一人で困難に立ち向かうのは小説や映像の世界で活躍するヒーローやヒロインのやることで、自分には無縁の世界のエンタメでしかなかった。そんな頼りない師匠の姿をフリーダに見せてもいいのかと思うと、それはそれで耐えがたいという矛盾が心の中で渦巻く。


 無慈悲な運命は、異世界転生で分不相応な力を自分に与えただけではなく、常に逃げの一手で済ませていた過去を清算するため、一人で難局に立ち向かわせようとしているのか。


「――せるわよ!」

「え?」

「聞いてる!? 右の男、あんたに任せるわよ! 動きが鈍いから!」


 刹那の時間に浮かんだフリーダへの(せん)(ぼう)の念と非情な運命への悲哀は、こんな危機的状況でも冷静さを保つエルザの言葉で吹き飛んだ。


 すでに三つの大小の黒い影は前傾姿勢になって突進中で、あと十メートルの距離まで迫っている。空から大量に降ってくるかも知れない火矢で一度に全滅することを警戒しているのか、身を隠す樹木がない草原で横の距離を広く取りながら接近する。しかも、風の刃の魔法から逃れるためだろうが、的を絞らせないようにジグザグの進路を取る。


 右の黒い影はやや小太りな(たい)()で、エルザの指摘通り、他の二人よりもワンテンポ遅いし横の振れ幅も小さい。試しに氷漬けの魔法を発動したが、目測の座標がずれて、機敏でもない動きの敵に回避されて悔しさが込み上げる。


 苦戦しているうちに、エルザの魔法が左側の敵を捕らえて、黒ローブの無数の端切れと肉塊が鮮血と共に(はじ)()び、それらを受け止める緑の草原が赤く染まるのを目撃すると、攻撃に手間取る焦りよりも恐怖感が強くなる。


『来ないで!』


 心の叫びを原動力に利用して、青白く輝く氷の大太刀を目標(ターゲツト)の進行方向を(さえぎ)るように出現させる。鼻から上がフードで隠れた敵は唇の形でしか表情を読み取れないが、不意の一手であったことは唇を見れば明白だった。大太刀による()()()けの(いつ)(せん)が黒ローブを斜めに切り裂くも、ダボダボの服の布のみが切断されたようで、急停止した敵は痛がる様子がない。


 左右の仲間に降りかかる災難には目もくれず、エルザ狙いで突進する中央の敵は、精霊の森から突如放たれた火矢の二つの束に動揺した。束の横幅が広く、横っ飛びで逃げ切れない。相手は目測で、二つの束は自分の左右をすれすれに通り過ぎるはずと読んだ。ならば、取りうる手段は一つ。ジグザグの進路ではなく直進するしかない。


 これがクルツとエルザの連携である事にその場で気付いたのは、レイアだけだった。左右の腕を焦がすほどの熱を残して通り過ぎる火矢には振り返らない敵は、やり過ごした直後に風の刃の餌食となり、細かく切断された無数の肉塊と()()(ぶき)が草原を赤く染め、彼から見て右後ろの仲間と同じ運命を辿(たど)る。


「手助けしないのか?」

「最後までやらせるわよ。レイアのためにね」


 氷の大太刀が敵の進路を妨害するも、相手に致命傷を与えないまま振り回しているだけのレイアの攻撃に、クルツはいつもの事と諦め顔で、横にいるエルザへ問いかけるが、厳しい教官役を演じるエルザは、自分を狙っている敵でも助太刀を拒否する。そこへ――、


「捕らえなさい」


 森の方から聞こえてきた弱々しいアメリアの声に、クルツとエルザが同時に振り返った。彼女は左胸を左手で押さえ、右手は(かたわら)にある樹木の幹に当てて体を預けるように立ち、苦しそうな表情で二匹を見る。


「大丈夫か、アメリア?」

「いいから、あいつを捕まえて。自白させるから」


 そんなやり取りをしている最中に、やっとレイアの大太刀が相手の(ふと)(もも)を斬ったらしく、敵は足を手で押さえて倒れ込んだ。人を傷つけて動揺するレイアを置いてきぼりにして、()(しよう)するクルツは男に接近して空中から縄を取り出すと、縄が勝手に捕虜の手足を縛り上げた。


 アメリアがゆっくりした足取りで森を出て、落としたサーベルを拾って杖代わりにし、無残に切り刻まれた二人分の肉塊に目を(そむ)け、捕縛されて横向きに転がる男へ近づいて行く。彼女は、フードの中から見えている相手の唇が黄色い歯を()()しにしてほくそ笑むように見えた。これから尋問されるのは分かっているはずだが、それなのに何を笑っているのだろうと思っていると――、


「危ない!」


 叫ぶクルツが、(とつ)()にアメリアを透明な球体の結界に包み込むと同時に、男の体が(ごう)(おん)を響かせ血煙を上げて爆発した。爆風でクルツもアメリアも五メートル近く吹き飛んだが、なんとか二人は無事だった。


 次々と起こる血生臭くて凄惨な光景に、レイアの心は深く傷つき、恐怖に包まれた。


「こうなる結果を予想しているはずなのに、それでも私を消したいようね。(あき)れてものが言えないわ」

何故(なぜ)予想していても攻撃してくると思いますか?」


 エルザの独り言にレイアが反応したので、エルザが頭だけ振り返った。


「知らないわ。最初に女をバラバラにしたのを見ていれば、こっちの実力を分かったはずよ。なのに、果敢に挑んでくる。それは、馬鹿だからじゃないの?」

「そう命令されている――操られているのではないでしょうか?」

「あいつらが操り人形?」

「かも知れぬな」


 泥を被って薄汚れた毛玉となったクルツがエルザの方へフワフワと飛んできて、エルザに声をかけてから敵の死体を(いち)(べつ)した。


「こうまでして奴らの親玉はお前を消したいらしいが、一体全体、お前は何の情報を(つか)んだのだ? ――おっと、知らないわよは聞き飽きたぞ」

「あんたが飽きても言うわよ。知らないわ」


 そう言ってそっぽを向いたエルザにクルツが次の言葉を考えていると、森の方から少年の声が聞こえてきた。


「おやおや、森の外が騒がしいと思って来てみれば、派手にやったねぇ。手口から察するにそこの白猫かな?」


 声は先ほどアメリアが寄りかかっていた樹木の近くから聞こえて来る。エルザは警戒で顔を(こわ)()らせたが、レイアは知り合いの声が聞こえて(あん)(うつ)な気分に光が差し込み上下に揺れ、クルツは嫌な奴が来たという素振りを見せる。


「その声は、灰色のシュミットさん!」


 レイアが喜びの声を上げると、樹木の横で空気が揺らいで波紋のようになったかと思うと、その中から灰色の毛並みで金色の目を持つ犬顔の()(びと)がひょっこりと飛び出てきた。暖色系の鮮やかな西洋風の民族衣装を(まと)って木靴を履き、背丈が八十センチメートルに満たないこのコボルトは、(まさ)しく灰色のシュミットだ。


「やあ、レイア。久しぶり――でもないか。元気してた?」

「はい。……でも、いろいろドジをやらかして」

「すっかり大きくなったねぇ。急成長って感じだよ。もう準精霊かな?」

「で、いいのですよね、白のクルツさん?」


 レイアに話を振られたクルツは、俺のお陰と言いたそうな素振りで「当然、準精霊だ」と自慢する。


「へー。初めて会ったときは見習いだったのに、あれから何日()った?」

「えっと……」


 あまりに短期間でいろいろなことがあったので、三日しか経っていないのか一週間も経ったのかが分からず考えていると、


「再会の喜びを邪魔して悪いけど、誰、あんた?」

「灰色のシュミット」

「それは分かるわよ。さっき、レイアが言っていたし」

「ああ、そっか。白のクルツの知り合いさ」

「それも何となく分かるわ」


 シュミットは眉をハの字にして微苦笑する。


「君はいちいち口うるさそうな人造精霊だね」

「そのじんぞう精霊の意味が分からないけど」

「そっか。自分じゃ分からないのか。君は、人の手で作られた精霊さ」


 この事を面と向かって言われたことが初めてなのか、宙に浮いてシュミットを見下ろすエルザは(どう)(もく)する。


「人の手で作られた……」

「そうだよ。自覚無いみたいだけど」

「自覚無いって、……ま、いいわ。それで、あんたはここへ何しに来たの?」

「実は、レイアを待っていてね」


 シュミットがウインクしてレイアを見るので、驚いたレイアは脈拍が速くなる気分になった。もちろん、心臓はないので気分だけだが。


「そろそろ来るのかと思ってずーっと門の近くで待っていたら、森の外でワイワイガヤガヤ、シュルシュル、ボッカーンって騒がしくなって、何事かと思ってやって来たのさ。そしたら、レイアがいて、すっかり大きくなって驚いたけど」

「なんでレイアを待っていたの?」

「それはね。大精霊ヒルデガルト様から、レイアを頼むと言われていてね」


 シュミットが左手を背中へ回し、レイアに向かって右手を差し出して頭を下げる。まるで、騎士(ナイト)淑女(レディー)へ手を差し伸べるように上品で優しく穏やかに。


「――――」

「レイア。今日から僕が君を立派な準精霊にしてあげるよ」


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