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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第3章 準精霊

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2.新たなる強敵と人造精霊

 老精霊使いが何一言も声を発しないので、感謝の言葉に対する返礼や質問に対する何らかの答えを期待していた人々は落胆したり不満を抱いたりして、彼を取り囲む輪から一人また一人と離れていった。呼び止める旅館の主人は腕を伸ばしたまま言葉を失い、白猫の背中へ手を伸ばす子供は笑顔が消えて足が止まる。


 こうして、十重二十重の輪が加速度的に小さくなっていくと、しつこくつきまとっていた()()(うま)も古代紫のローブの背中を(にら)んで舌打ちし、無愛想な老人に悪態をつく。


『微精霊が来るようじゃ』

『何の用かしらね?』

『どうする?』

『そのまま先を歩いて。私が軽くあしらっておくから』


 背中を向けたままでも接近するレイアの事が分かる老人は、念話でエルザに対応を委ね、同じ歩調で大通りを歩き続けた。


「あのー。ちょっといいでしょうか?」

「何かしら?」


 レイアがエルザの背中に声をかけると、振り返るどころか、宙に浮いたまま百八十度回転して正面を向いたので、彼女は驚いて上下に揺れて止まった。


「白のエルザさんは、精霊でしょうか?」

「当然よ。これが微精霊に見えて?」


 実は、準精霊になってから、経験値が高くなると動物の姿に変えられる。それまでは(ひと)(だま)の格好のままだ。レイアは、自分は準精霊並みなので、どこまで行けば――どの段階になれば動物の姿になるのかを知りたかったのだが、相手が動物の姿のまま準精霊から精霊へ昇格している可能性もあるので、いきなり「準精霊ですか?」とは()けなかった。言い方を間違えなくて良かったと思っていると、


「あんた、微精霊にしては様子が変ね。なんか大きさが違う。もしかして、準精霊なの?」

「はい。みんなから準精霊並みだと言われています。自分では実感がなくて、微精霊だと思っているのですが。実のところ、微精霊と準精霊の境目が分からないのです」

「ふーん」

「境目とか分かりますでしょうか?」

「知らないわ」

「なら、準精霊で動物の姿になるのは、どの段階なのですか? どのくらい力が付けばとか――」

「さあねぇ」

「エルザさんが準精霊の時、さっきの敵を倒すくらいになってから動物になれたのでしょうか?」

「知らない」

「――――」

「知らないものは知らないの。もういいかしら?」


 そんなはずはない。日々(けん)(さん)を積んだ後に憧れの動物の姿を手に入れたのだろうから、どのくらいの実力があればなれるとかの記憶があるはず。


「いいえ。知らないということはないはずです。エルザさんも見習い精霊から始めたのですから。秘密にしたい気持ちも分からないでもないですが」

「分かるなら訊かないで」

「なぜ隠すのですか?」

「隠すも何も、知らないから知らないの。あんたもしつこいわね」


 レイアは、エルザの主張は明らかな嘘だと確信し、自分を突き放す相手に食い下がる。それに対してエルザも負けていない。レイアに追いついて二人の言い争いを見守るアメリアとクルツとフリーダには目もくれず、エルザが次にぶつける言葉を準備していたその時――、


『来る』

『確かに。背中に魔力の気配がビリビリくるわ。敵はさっきと同じ数くらいかしら?』


 エルザから五メートル離れたところで立ち止まった老精霊使いが、握る杖に力を込めて念話でエルザに語りかけると、ゾロゾロと立ち去る野次馬達の姿を背景に自分へ問い(ただ)す人魂を睨んでいたエルザは、そのままの姿勢で言葉を返した。


『もっと多い。いや、魔力だけの判断だから、数とは限らぬが』

『と言うことは、相当()(ごわ)いのが来そうね』

『ああ。そっちの微精霊に構わず、こちらに来て連携を――』


 老人が念話を終える直前、彼の視界に黒ローブを身に(まと)った大柄な人物が突如として出現した。これが魔力の気配の正体だ。


「おいおい、よくもうちの子供らに手を出してくれたな。容赦しないぞ」


 その人物はフードで顔を鼻の下まで隠し、(わず)かに見える唇を(ゆが)めてドスの利いた声で精霊使いに怒りをぶつける。彼の魔力の尋常ならぬ強さに、さしもの腕利き精霊使いも眉を(しか)めた。平和を(おう)()する町に何の前触れもなく魔人達を出現させ、善良な人々を襲わせておいてこの言い草。老人は彼の懲罰を決意し、振り返ったエルザは戦闘準備に入る精霊使いへ魔力を供給するために宙を飛ぶ。


 一方、アメリアは、空気中から湧いてきた黒ローブ姿の男が厄災をもたらすと直感的に分かったが、非番で出かけたためサーベルを帯刀せず、うっかり護身用の短刀まで部屋に置いてきてしまった事に気付いて心臓が凍った。青ざめた彼女が、ここはクルツに活躍してもらうしかないと思っていると、


「覚悟しろ」


 そう言って男は、右手の先に光の粒を伴って現れた曲刀を握りしめる。得物を握る敵に杖しか持たない精霊使いは、不動の構えのまま、杖を冷たく光る長剣に変化させた。


「ほう。()()うつもりか、老いぼれのくせに」


 フードの中で唇しか見えない男がほくそ笑む。


 精霊使いと男が武器を持って(たい)()している姿に一部の野次馬が気付くと、さざ波のように騒ぎが広がって、再び彼らが集まってきた。放置していた荷車へ戻った人々は、決闘に巻き込まれないように歩道へ逃げたり、荷車の向きを変えたりして避難する。


「みんな、危ないから下がって!」


 アメリアが腕を振って、近づいてくる見物人に向かって叫ぶが、相手がどんなに強敵でも、また老人が派手な魔法でも使って撃退するだろうと思っているから、効果がない。


 宙に浮くレイアとクルツは、エルザの援護に回ろうと動き出すと、エルザが振り返って「来ないで!」と一喝するので、空中で停止した。


 たっぷり三十秒間、男と老人の(にら)()いが続いた後、全員の視界から老人の姿が消えた。だが、男は薄笑いを浮かべたまま、右方向へ横っ跳びして、目にも止まらぬ速さで曲刀を()いだ。


「甘い」


 空中に銀閃が描かれると、何もない空間に、突然、大量の血が噴き上がる。その直後、衆人環視の中で、得物を下段の構えで握る首のない老人が血柱の下に姿を現し、落下する白髪の頭部も全員の視界が捉えた。


 老体は崩れ落ち、目を見開いた首が(わだち)に沿って転がる。凶行に及んだ男は鼻で笑い、それらに(いち)(べつ)を投げた後、悲鳴を上げて散り散りに逃げていく野次馬には目もくれず、白猫の姿を探す。そして、宙に浮いた精霊を見つけると、ポカンと口を開けた。


「おや? 精霊使いが死んだのに、なんでまだいるんだ?」

「知らないわよ。それより、あんた、何者?」


 殺したはずの相手がまさか偽者だったのかと、遺体へ駆け寄って不審がる男をエルザは見下ろしながら問いかける。男は刀の刃先で額を突き、刀を動かして頭部を前後に傾けさせ「間違いなく、この男はキルヒアイスだが」と首をひねる。


「そうよ。彼はキルヒアイスよ。でも、それ、私の質問の答えではないわ」

「畜生、まだ精霊が消えない。……ってことは、こいつの精霊は人造精霊だったのか?」

「じんぞう精霊?」

「そうだよ」


 男は、刀身で老人の(ほお)(たた)いて遠くへ転がし、刃先を振り上げて白猫へ向ける。


「お前は、天然物の精霊ではない。人間が(こしら)えた、ただの兵器だ」


 レイアは、この男の言葉で合点がいった。なぜ、エルザが自分の質問に(ことごと)く「知らない」と()()ねたのか。それは、本当に知らなかったからだ。精霊の森の(そば)に建つ城の中で、あの錬金術師クーノのカオスな部屋で見た大人が入るくらいの透明な容器の中で、培養させて作ったであろう精霊だからだ。


「道理で老いぼれのくせに()(ちや)()(ちや)強かった訳だ。こいつを処分すれば、お前も消えると思ったんだが」

「もしかして、狙いは私?」

「そうだよ。お前に消えて欲しかったのさ」

「ふーん。で、もう一回訊くけど、あんた、何者?」

「ばーか。殺し屋が名乗るかよ」


 男がエルザに意識を向けている間、エルザの後方にいたクルツがレイアに念話で語りかけた。


『レイア。奴を拘束しろ』

『はい』


 レイアは相手の位置を素速く目測し、氷漬けの魔法を発動させる。彼の頭上に青白い魔方陣が出現したかと思うと、一瞬にして全身が氷の柱の中に閉じ込められた。今までの彼女にしては素速くて、氷の厚みも十分にあり、快心の出来に思われたが――。


 ピシピシピシ!


 ひび割れる音がして、男を包む氷全体に亀裂が入り、細かい破片が辺りに飛び散ると、一気に爆発して氷塊は光の粒となって霧散した。これにはレイアも(きよう)(がく)し、クルツも(どう)(もく)する。


「何だ、この手ぬるい魔法は。俺を()めるなよ」

「私じゃないわよ」

「じゃ、誰だ? 後ろにいる毛玉か?」

「知らないわよ。誰かが勝手に加勢しているだけでしょう?」

「それでいいのか、お前さんは?」

「いいえ。私ならこうするけど」


 エルザが右前足を前に突き出すと、男の周囲に十二個の金色に輝く魔方陣が出現し、その中心から金色の槍が一斉に飛び出した。だが、槍の穂先が中心点に集まって停止した時、すでに彼は後方転回で華麗に着地し、土煙を上げていた。


「馬鹿かお前。槍は()()ぐにしか飛ばないだろうが」

「――と思わせておいて」


 今度はエルザが右前足を振り上げると、十二本の槍が一斉に空を向いて()(しよう)し、急旋回して男目がけて雨のように降り注ぐ。しかし、男は、槍の軌道を的確に捉えていて、これも大きく後ろへ跳躍して回避すると、槍は土中に深く突き刺さった。


「おせーよ。そんな長い物を振り回す時間に、いくらでも逃げられ――」


 言いかけた男が後方を素速く振り向くと、そこには、青白く輝く氷の大太刀が(よこ)()ぎに(いつ)(せん)するのが見えた。だが、男は曲刀で簡単に(はじ)(かえ)して光の粒に変えると、刃先をエルザ達へ向けた。


「おい。誰の魔法か知らないが、今のは良い所を突いてきたな。さすがに油断したぜ。でも、人を殺したことがないだろう? 殺す覚悟が出来ていないから、脅かしただけの甘甘だったな」


 魔法を繰り出したレイアは、図星を突かれて意気消沈した。そうなのだ。氷の大太刀で男の首を()ねるのではなく、逃げ場がないことを思い知らせるだけの魔法だった。仮にクルツから「首を狩れ」と言われても、出来なかっただろう。クルツもエルザも人を殺すことに(ちゆう)(ちよ)しない精霊だが、自分はどうしても彼らみたいになれないのである。


「なら、これはどうだ」


 次は、クルツが魔法を発動。男の頭上に彼の行動範囲の限界を超える無数の赤い魔方陣を出現させたかと思うと、大量の火矢が炎の(じゆう)(たん)となって大通り目がけて降ってくる。今度こそ逃げ場がないと誰もが思ったが――、


「これも覚悟が無いな。荷車ごと燃やすという覚悟が」


 男は火矢の塊から横っ飛びに逃げて、近くにあった積み荷満載の荷車の上に飛び移り、衝撃で箱が揺らいで危ないバランスになったが何とか踏みとどまる。


 確かに、クルツは、大通りに捨てられていた荷車を回避して絨毯爆弾の攻撃を行ったのだが、その隙を突かれてしまったのだ。


「あばよ。デタラメな精霊どもよ。後で反省会でもやっておけ」


 男は腹を抱えて(こう)(しよう)し、フッと姿を消した。


「クルツ! 火を消しなさい!」

「おっと、そうだった」


 消えた男の残像を荷車の上に見て口惜しい思いのクルツは、燃え盛る火矢を一瞬に光の粒に変えた。


「エルザさん。貴方(あなた)は人造精霊だったのですね」

「そのじんぞう精霊って何のことかしら?」


 あくまでしらを切っているのではない。覚醒したときには今の姿になっていたのだろうから、知らなくて当然だ。問いかけたレイアは、振り返ったエルザに睨まれて沈黙する。二人の所へ、クルツがスーッと飛んできた。それを見たエルザは、猫なのに、宙に浮きながら器用に腕組みをして胡座(あぐら)()いた。


「何よ?」

「人造精霊の話は後だ。それより――」

「ちょっかい出したのは、あんたね」


 話の腰を折られて、クルツは目に力を入れる。眉がないので表情が分かりにくいが、これが彼の怒りなのだ。


「ちょっかいではない。加勢だ。俺は白のクルツ。火の魔法を使う。そして、こいつがレイア。水の魔法の遣い手。俺達が加勢した」

「ふーん。なるほど。どの魔法が誰のか分かったわ」


 半眼になったエルザが、クルツとレイアを交互に見る。


「私は白のエルザ。得意なのは風の魔法。脅かし程度に槍を使うけど、ここで風の魔法を使ったら町が吹き飛ぶから、あいつには使わなかった」

「なるほど。確かに兵器だな」

「で、そこにいるのが、腰抜けの女精霊使いかしら?」


 エルザの冷たい視線がアメリアへ向けられると、彼女は瞬間湯沸かし器のように憤慨する。


「いきなり初対面で失礼ね!」

「あら。事実なのに、何を怒っているのやら」

「丸腰だから手を出せなかったのよ!」

「言い訳にもほどがあるわ。剣の遣い手で名を()せたキルヒアイスが一瞬で首を刎ねられたのに、あんたは渡り合えたのかしら?」

「――――」

「ま、それはそうと、反省会やるわよ。あの男に言われたからやるんじゃないからね」


 エルザは腕組みしたまま、全員を一人一人睨み、赤いリボンを結った長い尾を揺らした。


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