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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第2章 微精霊

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7.勝利の帰還

「何あれ!? (すご)いじゃない!」

「あの攻撃は、白のクルツさんには『無駄が多い』って怒られるけど」


 白頭鷲の追撃を退けたレイアは林の方角へ旋回し、その跡を追うフリーダは興奮気味に語って上下に揺れる。


 ユルゲンが標的にしたのは、やや遅れて上昇していたフリーダ。金色に輝く眼が()()ぐに光の玉を捉え、黄色の(くちばし)が微精霊を()(くだ)こうと大きく開かれる。上昇中でも背後にいる同僚の危機を察する事が出来るレイアは、森の訓練で邪精霊相手に繰り出した氷の魔法を使い、二メートルもある氷柱(つらら)を出現させて真下にいる敵の脳天を狙い、串刺しにした。彼女がやり過ぎたと後悔したときは、すでに黒い煙が霧散して、兵士に囲まれて地団駄を踏むヨーコの姿が見えていた。


「本当にあんた、微精霊? 信じられないな。でも、助かった、ありがとう!」

「どういたしまして」

「今度から、師匠と呼ばせてもらうね」

「それはちょっと……」

「いいじゃない♪」


 (うれ)し恥ずかしのレイアは、ちょっぴり鼻が高くなった。


「とにかく、ここから逃げて報告しに行かなくちゃ」

「そうだね。派手に敵を蹴散らしたから、追っ手が来るのは間違いないし」

「そう言えば、敵の作戦、何か聞こえた?」

「ばっちり」

「本当に!?」

「うちが降りた天幕が作戦本部だったみたいだよ。こっちの気配に気付かず、べらべら(しやべ)っていて、思わず笑いそうになったよ」

「そうなんだ」

「師匠は、精霊殺しに当たったみたいだね」

「――うん」

「でも、かえって良かったかも。右左が逆だったら、今頃うちはあの鳥にやられて消えていたなぁ」

「ううん、消させない。必ず守るから」

「本当に!? ありがとう、師匠!」


 いつの間にかクルツの『俺はお前をとことん守る』に似た言葉を口にしている自分が何とも恥ずかしいレイアは、ちょうど背後から吹いてきた追い風に乗って、照れ隠しもあってスピードを上げた。


「あ、師匠、待ってよ!」

「急いで。敵はすでに次の手を考えているはずよ」


 風の勢いに乗る二人は、待ち合わせ場所――林の中の山小屋を目指して()(しよう)した。



 □■□◆□■□



 ヨーコは、自慢の使い魔が消滅させられて、狩りを見物していた兵士達の(あつ)()にとられる顔が(ちよう)(しよう)(こら)えている様子に見え、色白の顔を真っ赤に染めて激高し、「テオ! 貴様の使い魔を貸せ!」と怒鳴りながら天幕へ駆け寄り、出入り口の布を乱暴に開いた。


「はあ? いきなり何?」

「とにかくだ! 貸せ!」

「あんたの自慢のユルゲンちゃんは、どうしたの? マナ不足でおねんねとか?」


 組んだ両手を頭の後ろに回して椅子にふんぞり返る痩身の狼人族の兵士が、ニヤニヤと笑いながらヨーコの(そう)(ぼう)(のぞ)()む。彼は、ヨーコと同じ軍服を着ていて、階級章も同じなので同僚のようだ。


「――――」

「で、具体的に何が起きたの?」

「ユルゲンが……一撃でやられた」

「ふーん。忍びの精霊が()()れで、そいつに振り回されたってことね」


 片眉を()()げたテオが、しばらくヨーコの悔しげな顔を見つめ、肩を(すく)めてから爆笑する。


「そのお顔を拝察するに、ご自慢のユルゲンちゃんが()っちゃって、心底腹が立ったご様子で」

「笑っている暇はないぞ! 奴らは天幕の外からこちらの会話を聞いていたのに間違いない! 一刻を争うから、今すぐ使い魔を貸せ!」

「それ、衛兵の失策だと思うけど。奴らに羽を付けて追わせたら?」

「冗談も大概にしろ!」

「……しゃーないか。貸しますよ」

「当然だ」

「いずれ、借りは返してもらいますがね。ちょっとこいつは大きいから外へ出ますよ」


 よっこらしょと立ち上がったテオは、先に天幕の外へ出たヨーコの後ろを(もつ)(たい)()るように歩いて行く。


「急げ!」

「大丈夫。こいつは、矢の速さよりも早いから。()でよ、フリッツ」


 彼の召還に応じて、空中から大きな黒い煙の塊が現れ、(たちま)ち、羽ばたく大鷲の姿に変化した。広げた翼の端から端までは三メートルある尋常ではない大きさの鷲だ。全身が黒で羽に白い斑文があり、黄色い嘴と太い足指は、(どう)(もう)な性格を(によ)(じつ)に現している。使い魔フリッツが漂わせる妖気はユルゲンを(りよう)()するほどで、そばにいるだけで身震いしそうだ。


「林の方へ逃げた精霊がいるらしい。お前にとっては張り合いがないほどちっこいらしいが、褒美はいつものようにやるから狩りに行ってこい」


 大きく羽ばたいたフリッツは、周辺の(つち)(ぼこり)を巻き上げてヨーコ達に浴びせかけ、矢のような速さで林の方へ飛翔する。


「褒美はあんたもちだよ」

「分かってる」


 ヨーコに念押ししたテオは、遠ざかるフリッツに背を向けて、右手の人差し指を立てた。


「軍事機密の(ろう)(えい)防止に手助けしたんだから、褒美は弾んでもらうよ」

「……成功したらな」

「するさ」

「あれで?」

「はあ? 何言って――」


 頭だけ振り返ったテオは、(あき)(がお)のヨーコが指差す先を見上げた。彼の目に映ったのは、一本の氷柱(つらら)の串刺しになり、(もだ)え苦しむフリッツが、三本の氷柱の攻撃を浴びる瞬間だった。大鷲は黒い煙に戻り、大気に溶け込んだ。


「嘘だろ……」

「嘘なもんか。私とここの兵士らもお前と同じ光景を見ているのだから」

「敵襲だ!」

「おいおい……」


 テオの叫びが聞こえる範囲にいた兵士達に緊張が走る。武器を取り敵はどこだと辺りを(うかが)う者もいれば、突然のことに浮き足立つ者もいる。二つの天幕から高官が飛び出し、テオとヨーコの証言から、空を飛ぶ小さな密偵精霊探しに捜索隊が編制されるのは、三分後だった。



 □■□◆□■□



「師匠、凄い凄い! あんな化け物をやっつけちゃうなんて!」

「でも、疲れちゃった」


 ふらつくレイアは、辛うじて風に運ばれているが、無風ならそのまま落下していたかも知れない様子だ。


「来るときずっと起きていたからね」

「うん。失敗しちゃった」

「でも、風のお陰で、ほら、小屋が見えてきた。――あ、お迎えが来たよ」


 微精霊の姿に気付いたシュヴァイツァーの鷲が、山小屋のそばにある木の陰から出てきて、大きく羽ばたいた。フリーダは上下に揺れて、自分達の到着をアピールする。ちょうどその時、風が()んで、レイアは目的地が近くに見えて安心したためか、力尽きたように落下を始めた。


「師匠! 大丈夫!?」

「――――」

「こっちこっち! 師匠が落っこちるから、先に拾って!」


 鷲はフリーダの意図を解して地面すれすれに滑降し、レイアを右足で器用に拾い上げる。それから上昇して、左足でフリーダを回収すると、一路ヴァインベルガーの宿舎へと向かった。



 三時間後。鷲の右足の中で姿を消して養生したレイアは、少し元気を取り戻し、帰還を待っていたシュヴァイツァーへフリーダと一緒に報告した。この時、出陣していたアメリアの代わりに、一人残っていた精霊使いが通訳を務めた。


「ご苦労。レイアの報告からはグリューンブリュン大公国とブラオンバーレン公国の同盟は現時点では無いようだ。お手柄なのは、フリーダだ。国境の三都市を明日朝同時に奇襲する作戦をよくぞ持ち帰ってくれた」

「フリーダは『レイアも褒めてください』と言っています。『敵の大きな使い魔の鷲を二羽も仕留めた』のだそうです」

「それが信じられんのだ。悪いな。微精霊にそんな芸当が出来る奴を見たことがないのでな。ここで実演できるか?」


 すると、シュヴァイツァーの左腕に止まっていた鷲がブルッと震えた。


「お前を倒せとは言わんぞ。安心しろ」

「『ここで実演するのは(もつ)(たい)ないから、師匠の力は実際の戦闘で見て欲しい』と言っています」

「師匠? はははっ! 微精霊にも師弟関係があるのか。愉快愉快! よし。師匠の戦いぶりを明日とくと拝見しよう」

「『防衛戦に参加するのですか?』と()いています」

「当然だ。使い魔を倒す奴なら最前線で戦ってもらうぞ」


 シュヴァイツァーは微精霊達に向かって、ニヤッと笑った。

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