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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第1章 見習い精霊

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13.階級闘争

(くれない)のゾフィー、緋色(ひいろ)のルイーザ、ここへ」


 ヒルデガルトがカルラの方を向いたまま二人の名前を呼ぶと、両脇の人造精霊の近くで草の中から白い煙が立ち上り、白いドレスを着た二人の少女が現れた。金髪ロングヘアで灼眼(しやくがん)を輝かせる彼女達は、顔立ちも背丈も同じで、もし羽が生えていたら双子の天使に見えただろう。名前に色が付いていたので、この精霊界に同じ名前が複数あるのは間違いない。また冠している色は、ぱっと見には灼眼に見えるが実はよく見ると違う、目の色を表していると思われる。


 呼び出された二人はヒルデガルトの方を向いて、ドレスを両手でつまんで優雅なカーテシーを披露する。その動作が完全に同期していたので、ヒルデガルトを中心にして鏡に映したような左右対称の動きになった。


「二人でこの五人を清めの泉へ案内しなさい」

「「かしこまりました」」


 ゾフィーとルイーザはイントネーションも音の長さもそっくりなので、声が立体的に聞こえてくる。


「あなた達はこちらへ」


 ヒルデガルトがそう言って両手を差し伸べると、カルラの(てのひら)からレイアとユミッチが一瞬にしてヒルデガルトの掌へ移動した。


「カルラ、元気でね」

「カルラッチ、また会おうね」


 レイアとユミッチが上下に揺れると、カルラは(わず)かに(ほほ)()んで右手を振った。それから、五人の人造精霊は紅のゾフィーと緋色のルイーザに連れられてヒルデガルトの後方へ数歩進んだ所で七人がフッと消えた。


「僕は知り合いに会いに行きますので、ここで失礼します」

「俺も仲間の所へ行くので、失礼します」


 ヒンメルとグロッスも、空気に溶け込むように姿を消した。


「大精霊ヒルデガルト様。私は清めの泉で彼らの様子を見てきます」

「その必要はありません。あの二人に任せておけば、精霊界にすぐにでも()()むでしょう。灰色のシュミットはグローベ一派の動向を監視して、不穏な動きを見せたら報告しなさい」

「承知いたしました。グローベが、また騒ぎを起こしているのですね?」

「今度はボーテが介入してきたので、厄介です」

「確かに、それは面倒ですね」


 ヒルデガルトとシュミットだけが分かる会話が頭越しに飛び交い、レイアとユミッチが置いてきぼりにされていると、


「さあ、私の部屋へご案内いたしましょう」

「あのー、ちょっといいですか?」


 シュミットとの話を切り上げたヒルデガルトが動こうとしたので、頭が疑問符だらけのレイアが問いかけた。


「グローベ――さんでいいでしょうか? そのグローベさんもボーテさんも、一体どういう方なのでしょうか?」

「ああ、ごめんなさい。詳しくは、お部屋でお話ししますが、精霊の間で派閥抗争が起こっていて、グローベとボーテは徒党を組んで精霊界で我が物顔にのさばっている大精霊なのです」

「邪精霊ですか?」

「それとは違います」

「精霊界に争いがあるのでしょうか?」

「人間界と同じですよ。元々、人間界から転生してきたのが精霊ですから、こちらでもやっていることに変わりはないのです。悲しいことですが」


 と、その時、遠方で眼前に広がる平和そのものの光景に不釣り合いな爆発音が鳴り響いた。精霊界の安寧秩序を乱す争いが現に起こっていることを彷彿(ほうふつ)とさせる轟音(ごうおん)は、ヒルデガルトの形の良い眉を曲げ、シュミットの(ほお)を引きつらせる。


「あいつらの仕業ですよ、きっと。行ってきますね」


 すっくと立ち上がったシュミットが大精霊に軽く一礼してから、フッと消えた。


「こういうことは、よくあるのですか」


 ヒルデガルトはレイアの問いに、眉をハの字にして微苦笑する。


「毎日です」

「毎日? そんなにですか?」

「悲しいことですが、そうなのです」

「争いって、縄張り争いとかでしょうか?」


 短く息を吐いたヒルデガルトが、レイアに目を落とす。


「レイアは、精霊に階級があることを聞きましたか?」

「はい。見習い精霊、微精霊、準精霊、精霊、それに大精霊があると聞いています」

「その階級間の争いがあるのです。さらに、階級の中にも派閥抗争があるのです」


 見習い精霊が微精霊に勝てる気がしない。微精霊も準精霊に歯が立たないだろう。だから、争いは準精霊以上のような気がする。そんな空想中のレイアにヒルデガルトが割り込んだ。


「見習い精霊が束になったかかれば、微精霊だって倒せるのですよ。蜂が自分より大きな蜂を集団の力で撃退するように」

「――――」

「撃退されれば、相手は報復します。その報復が報復を生むのです。このような争いに終わりはありません」

「――――」

「私は、この争いをなくしたいのです。自分の力を、闘争の終結に(ささ)げたいのです」


 そんな彼女の願望を(あざ)(わら)うように、また爆発音が聞こえてきた。


「さあ、あれは灰色のシュミットに任せて、お部屋に行きましょう」

「大丈夫なのでしょうか?」


 心配するレイアに向かって、ヒルデガルトが安心させるように微笑んだ。


「灰色のシュミットは、次期大精霊の候補の一人ですよ。並の精霊に負けるはずがありません」

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