5.逃走
レイアと勇美子は、この異世界に見習い精霊として転生してから、いきなりワンランク上の微精霊の魔法回路を手に入れた喜びで舞い上がっていた。だが、ラウラが「人造精霊の役に立ってもらう、と脅して悪かったのう」と謝罪した途端、透明な容器に入っていたあの人造精霊の姿を思い出し、急に熱が冷めていった。
そう言えば、最初にヴィッセンが「人造精霊の足しになる」とか言っていたのを思い出す。おそらく、ヴィッセンは毎日森の上を旋回して、めぼしい精霊を発見すると好物の餌でも見つけたかのように足で掴んで城へ帰還しているに違いない。
クーノは、なぜ人造精霊を作るのか。精霊の神秘に魅了されているのか、単なる知識欲を満たすためなのか、それとも何か企んでいるのか。高度な魔法をレイア達に見せつけたラウラは、彼にどこまで手を貸しているのか。
この城の中で精霊を人の手で作っていることを、この世界の住人は知っているのだろうか。知っていたとして、この事をどう思っているのだろうか。
疑念が次々と生じてきて、薄ら寒いものを感じたレイアは、問い質して良いものだろうかと戸惑いを覚えた。実は人造精霊の件は極秘であり、秘密が外へ漏れないように幽閉されるかも知れない。
しばらく様子見を決めたレイアは、勇美子と一緒に瓶に入れられて、また光の玉を提灯代わりにして踊るように廊下を歩き階段を駆け上がるクーノに運ばれた。
「おや? 廊下が濡れている?」
立ち止まったクーノの不思議がる声が上から降ってきて、レイア達は瓶の底を見る。光の下にボンヤリと映る石の廊下に、濃くなった部分が点々と浮かび上がる。何となく、それは足形のようだ。しかも、たくさんある。
――複数の濡れた誰かが、ここを歩いた跡だ。
レイアより早く、これが誰の足跡か推理の結果を出したクーノは、「まさか!」という叫び声を廊下に響かせ、瓶を持ったまま後戻りをして、近くの扉を勢いよく開けた。
「やっ! 逃げられた!」
光の玉が浮かび上がらせる部屋の中には、大人が一人入れる大きさの四つの容器があり、そこには液体が詰まっているだけだった。
「お師匠さん! あっちの部屋のは大丈夫ですかね!?」
ヴィッセンの言葉と同時に部屋を飛び出したクーノは、レイア達を最初に瓶詰めした部屋へ大急ぎで戻った。
「やっ! こっちも逃げられた! お前は外を探せ! 僕は婆さんに報告しに行く!」
「かしこまりぃ!」
瓶を机の上に置いたクーノは、空の容器の前に立って唇を歪め、頭を掻きむしる。
「畜生! 未完成の振りをして、本当は完成していたのか!」
羽音が窓の外に消え、足音が部屋の外に消えると、レイアと勇美子が囁き合う。
「姫。人造精霊が逃げたって事?」
「そうみたいね。しかも、複数いて、同時に逃げたみたい」
「そんなに作っていたって訳?」
と、その時、部屋の真ん中で、ボウッと白い影が浮かび上がり、それは白いドレスを纏う銀髪ロングヘアの幼女の姿になった。裸足の彼女がこっちに向かってひたひたと歩いてくるのを見て、レイア達は瓶の中でスーッと後ろへ下がり、カタカタと震えた。
「あなた達も助けてあげる」
可愛らしい声でそう言った彼女は瓶を両手で抱え、窓枠へ手も使わずにひょいと飛び乗ると、大胆にもそこから飛び降りた。




