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unknown ~五百年かけ紡ぐ愛の唄~  作者: サイトウ純蒼
前章 第一節「始まりの国」
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7.絶望、そして・・・

月がとても綺麗な夜だった。

レイはぼんやりと眺めながらこの世界にもこんなに美しい月があるのかとふと思った。

質屋のオヤジがくれた魔物除けのこうの香りがする。このお陰で夜でもモンスターからの襲撃を防げる。とても有難い。



焚火たきびに入れた木がパチンとぜる音がした。

ジャールが木の棒で火をいじりながらレイに話しかける。


「レイ殿、多少気分は落ち着いたか?」


オヤジにジャール、皆に助けて貰って今の自分がある。自分の無力さを情けなく感じるし、またそう思うと様々な感情が湧き出し目元が熱くなる。


「今回の件も、そのリュウとか言うニンゲンの仕業かのう」


ジャールが焚火をいじりながら言う。


「……たぶん」


レイはその名前を聞くと怒りの感情が静かに湧き出すのを感じた。と同時に「もうどうでもいい」と言う厭世えんせい的な気分にもなってくる。


「ものは相談じゃが、レイ殿」


いつになくジャールが真剣な顔を向ける。


「ララちゃんを、、、力づくで救助せんか?」


「力づく?」


「ああ、そうじゃ」


レイは少しだけララの事を忘れていた。急に起こった事件のせいで自分を見失いそうであった。そうだ、まだ自分にはやるべき事がある。

ジャールの推測ではララが捕えられているのは国防軍の施設。そして直接そこに行きララを救助しようと言うのだ。


「救助って、たった2人で行っても無理なんじゃないか?」


「だから力づくで、じゃよ」


「力づくって……」


「壊すんじゃ」


「何を?」


「壁」


「壁っ?」


ジャールの話では国防軍の建物の壁を「【力者りきしゃ】の」を使って壊すらしい。よく意味が分からなかったが彼が使える特別な技らしい。対人はもとより、石や土など自然物に対して特に効果があるとのこと。


「それで壁を壊して、その混乱のうちにララちゃんを見つけて救助するじゃ」


「そんなにうまくいくかな」


「大丈夫じゃろう。国防軍と言っても留置所は小さな建物じゃし」


「で、それからはどうする?」


上手くララを救助できても、そんなことをしたらもうこの街には居られない。一体自分はどれだけの罪を負うのだろうか。


「それからは、この国を出る」


「え?」


「【始まりの国】を出て、隣国の【火の国】へ向かう」


「火の国?」


【始まりの国】と隣接する【火の国】は同じ大陸で陸続きになっており、国境は北東にある洞窟の中にあるとのこと。そこを通れば両国の行き来ができるらしい。



「大変なことになってきたな」


「あはははは、そうじゃのう。まあでもここに居ても捕まるだけじゃからな」


確かにそうである。窃盗罪に殺人罪。多額の保釈金に囚われたララ。もはや自分を拒否するこの国に一抹の未練もない。そしてどうせ捕まるのならこの目の前にいる海千山千うみせんやませんの老人の提案に掛けてみるのもいい。レイは素直に思った。


「分かったよ、ジャール。その計画で行こう」


「そうかい、それじゃあ明日から準備じゃな」


「ああ、でもジャール。ひとつ聞いてもいいかい」


「何じゃ?」


「どうして僕にそこまでしてくれるの? ジャール自身には罪も何もない」


ジャールはしわの入った顔に笑みを浮かべて答える。


「本能、いや直感かな。儂の中の何かがお主を手伝えと言っておる」


「それだけ?」


「いや。最初に草原で助けてもらったじゃろ。恩を返したい」


「あ、あれは……」


「あ、そうそう。一番は、はようララちゃんに会いたいんじゃ」


薄暗闇の中、レイは目頭が熱くなるのを隠すために下を向いた。

作戦が上手くいくかどうかは分からないが、レイはジャールに出会えて本当に良かったと思った。他人である自分の為にここまでしてくれる。

自分は彼に何か返せているだろうか。自身の不甲斐なさ。多少戦闘ができるようになったからって、それ以外何も成長していない。レイは色々なことを考えてしまった。


「さて、寝るぞい。レイ殿」


「ああ」


初めての外での野宿。それが理由なのかそれとも明日から始まる救出作戦に興奮したのか、レイはこの夜なかなか眠ることはできなかった。



翌日からは作戦の為の準備に取り掛かった。

基本、レイは街に入れないので換金や買い出しなどは全てジャールが行う。またそのついでに彼は街での聞き込みも行ってくれた。

代わりにレイはモンスターを倒す。少しでも強く、少しでも稼ぐ為にモンスターを斬りまくる。


ジャールの行動力は凄く、数日でララが捕えられているおおよその場所を調べてきた。また国越えに必要な食料、その他道具類なども買い揃えた。


「レイ殿、いよいよ今宵作戦実行じゃ。気持ちの整理は整ったかい」


「ああ、大丈夫。全力でララを助けるよ」


「うむ」



夜、街への侵入は通常の入り口とは別のところから入った。特に見張りなどはいないのだが可能な限り人目に付きたくない。

レイ達は暗闇に紛れて警戒しながら国防軍の建物付近まで行く。計画では建物に対してジャールが何か技を出すそうだが、一体何をするのかまだ不明であった。


「レイ殿。少し離れておれ。壁を壊したら一気に行くぞ!」


「うん」


レイはジャールから少し離れると、それを確認したジャールが何か言い始めた。


「…力者りきしゃの力を右腕に、、、」


そう言うとジャールの右腕が薄くオレンジ色に光り始める。


「…【力技りきぎ撃破断絶げっぱだんぜつ!!」


ジャールが腕を振りかざすと同時に建物の壁にドンと大きな衝撃が響く。そして丸く大きな亀裂が走る。


「はっ!!」


さらにジャールが声を掛けると、衝撃が壁に起こり亀裂部分が一気に崩れ落ちた。

レイは突然の出来事に一瞬動けなくなった。


「レイ殿、今じゃ!」


ジャールの合図とともに我に返ったレイは穴から建物内に入る。建物内は物凄い粉塵が立ち込めている。無我夢中で走る。


そしてそこからはあまり覚えていなかった。

ジャールの話では粉塵立ち込める建物内で、ララの呼ぶ声が聞こえ無事に発見。近くの壁を再度ジャールが破壊し、脱出。泣いて喜ぶララをレイが抱き抱え一気に建物外、そして街外へ逃れたとのことだった。



街郊外に張った臨時の幕営地まで一気に走り抜けた。途中何名か国防軍の者が追いかけてきたようだが、ジャールので大砂塵を巻き上げ見事に巻く。本当に頼りになる男だ。


「レイー、レイ様あああああ」


レイにしっかりと抱きついたままララが泣く。


「ララ、ごめんね。遅くなって。怖かったかい?」


泣きながらララが答える。


「大丈夫。でもララ寂しくて、寂しくて、またひとりになるかと思って……」


ララがレイの顔を見つめてまた泣き出す。


「レイ殿、上手くいった、良かったですなあ」


まだ息が荒いジャールがレイに言う。


「レイ様、このおじいちゃんは……?」


「おじっ……」


「ああ、ジャールだ。今回ララの救出の計画を立ててくれた人だ。今一緒に旅をしている」


ジャールがぺこりと頭を下げて言う。


「ララちゃん、初めまして。ジャールじゃ。おじいちゃんじゃぞ」


ジャールがにこっと笑う。


「あ、いえ、そのありがとうございます。助けて頂いて……」


「いや、、いいんじゃが、、ララちゃんは、、まだ子供…じゃったか……」


ジャールが少し残念そうな顔をする。レイは思わず苦笑する。

ああ、こんなに気持ちが穏やかになれるのはいつぶりだろう。右も左も分からない世界だが、今はララやジャールが一緒に居てくれる。



「さて、レイ殿。少し休みたいところだが、このまま一気に洞窟まで行くぞ」


レイはララに自身が殺人犯として指名手配されていることや、この国を抜けて【火の国】へ行くことを簡単に説明した。殺人についてはララはひどく驚き、珍しく強い怒りをあらわにした。

そして当然ながらこの国を抜けて【火の国】に行くことについては賛成してくれた。ララ自身もこの国について何の未練もない。


「という事でララ、また僕と一緒に来てくれるかい?」


レイがそう尋ねるとララは満面の笑みで答える。


「はい、ララはレイ様にどこまでも付いてゆきます」


「嬉しそうじゃのう、ララちゃん」


ジャールも嬉しそうにそう言って笑った。


「そりゃレイ様にお姫様のように助けて頂いて。あれで嬉しくない女の子なんていな……」


「ああ!!! そうじゃ!」


ララの話を遮るようにジャールが叫ぶ。


「どうしたんだ? ジャール」


「洞窟の国境の通行証を手に入れたんじゃが、考えてみればお尋ね者のレイ殿が無事通れるかどうか分からんわい……」


「そう…か……」


「まあ、取りあえず行ってみるか。行ってみてまた考えよう」


ジャールが荷物の準備をし始めると、レイが不貞腐れるララに気付いた。


「どうしたんだ、ララ?」


「何でもないです!」


良く分からなかったがレイも黙ってジャールの片づけを手伝うことにした。

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