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unknown ~五百年かけ紡ぐ愛の唄~  作者: サイトウ純蒼
前章 第一節「始まりの国」
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6.ジャール

レイはその日から狂ったように朝から暗くなるまでモンスターを狩った。


後でこの時の自分を見かけた人の話では「鬼の形相で斬りまくっていた」とのことだ。とにかく金貨300枚と言う大金を稼ぐ為に現れるモンスターを片っ端から斬って斬って斬りまくった。

この国やこの国に住む奴ら、そのすべての怒りを剣に込めるようにレイは斬りまくった。


しかしモンスターを斬れども斬れども単身での戦闘は効率が悪く、中々目標金額まで貯めることができなかった。途中からは無心で斬るようになった。

ただただ斬る。現れてくるモンスターを無心で、斬る。出口の見えない目標に向かって。




そんなある日、レイがいつも通り街から少し離れた郊外でモンスター狩りをしていると、誰かがモンスターに囲まれているのが見えた。よく見ると背の低い老人?のようだ。


「うわああ、、やめてくれ!!!」


老人は短剣を振り回し、寄ってくるモンスターを追い払おうとしている。

レイは考えるより前に体が動いた。老人の周りにいるモンスターを一体ずつ的確に仕留める。すべて倒し切った後に老人に声を掛けた。


「大丈夫ですか」


「あああ、助かった。助かった。ありがとのう」


「お怪我は……」


「大丈夫じゃ、これでも昔は名の知れた冒険者。がはははは」


背も低く身なりもそれ相応。今は見る影もないが、怪我をほとんどしていないところを見るに、昔はそれなりに強かったのだろう。



わしはジャールじゃ。ノームのジャール。お主は?」


「ニンゲンのレイです」


ジャールはとある目的の為に旅をしているらしい。目的はあまり話したがらない。悪い人には見えなかったのでララのことを話すと真剣に聞いてくれて、そしてその不憫さに同情もした。


「これも何かの縁。儂も一緒に手伝ってやろう」


突然の提案に少しレイは戸惑ったが、ジャールの優しげな雰囲気に一緒に行くことを決めた。


「で、とても重要な事なのだが、、、そのララちゃんって子は、可愛いのかい?」


「かわ?……まあ、可愛いと言えば可愛い……かな……」


「よし!分かった。頑張るぞい!」


何を頑張るのかと突っ込みを入れたくなったが、酷く打ちひしがれていたレイにはジャールの気さくさが有難かった。何よりひとりでないことが今は嬉しかった。



その日からジャールと一緒に戦う日々が始まった。残念ながらジャールはあまり戦力にはならなかったが、長い年月を生きてきた知識はレイにはとても有難い。


一緒に過ごす中で、ジャールはこの世界のことについても教えてくれた。

30年以上前にトウゲンの父、月下桟山げっかさんざんによる、ニンゲン以外の種族の虐殺「第一次種族殲滅戦(しゅぞくせんめつせん)」が起こった。そこから暗黒の歴史が始まる。


この戦いで世界に7つある国のうち3つが桟山さんざんの支配下に下った。

そして十数年前に起きた第二次種族殲滅戦。この戦いでさらに3つ、合計6つの国が桟山の支配下に。

残った最後の国、ここ【始まりの国】にも桟山の攻撃が及ぶが、時の国王シルジール3世によって防衛される。しかしこの戦いの最中、桟山は謎の死を迎えたとのこと。


「そのシルジール3世って王様は強かったんだね」


「ああ、強かったぞ。桟山相手に互角の戦いをしていた」


「ふーん」


「じゃがその国王も年齢には勝てず数年前に亡くなったと聞く」


「じゃあ今は?」


「息子のシルジール4世が王位に就いたが、、、これはまるでダメじゃ」


「ダメ?」


「父親とは似ても似つかん愚者じゃ」


「そうなんだ」


レイはふと自分が経験したこの国の不当な裁判を思い出した。



「時にレイ殿、この国がなぜ【始まりの国】と呼ばれるか知っておるかい」


「知らない」


「正式名はウェスタリアと言うのだが、先代国王がここを桟山に対抗する始まりの場所としたいと考え、それ以来【始まりの国】と呼ぶようにしたのじゃ」


「そうだったんだ」


ちなみにジャールの種族はノームであり一応「土の精霊」らしいが、この世界ではそれほど珍しい訳ではないらしい。普通に剣を取り、魔法を唱え戦闘もする。一部を除けば精霊といえども特別な存在ではないらしい。

そして性格は明るく真面目なところもあるのだが、何せ女好き。食事中真剣な話をしていても、目は横を通る若い女性を追いかけている。


「で、ジャール。僕に聞きたいことって何だい?」


食事中、先日ジャールに言われたことを聞いてみた。


「ああ、そうじゃ。レイ殿は子供と言う訳ではないのになぜこの世のことをちっとも知らんのじゃ?」


そういえばまだ話していなかったなあ、、と思いつつ答える。


「僕は違う世界から来たんだ」


「違う世界? 異世界のことか?」


「たぶん……」


「なるほど、通りで」


ジャールは続けてどのくらい前にやって来たのか、そして元の世界についてどのくらい覚えているかを尋ねた。


「それが、、、不思議とあまり思い出せなくなっているんだ」


「なるほど」


ジャールは考え込んだ後に続けた。


「異世界からやってくる人は少なからずおる。そしてこの世界の力がそうするのか不明じゃが、ある程度ここにいると元居た世界のことを忘れてしまうそうじゃ」


驚いた。

確かに元の世界のことをどんどん忘れている。頭の中に元の世界の記憶はぼんやりとした輪郭のない浮遊物のようになっている。


「僕は、、、どうなるのか」


「どうって、この世界で暮らすんじゃよ」


「そう、、、か」


正直、前居た世界に戻りたいとかいう気持ちはなくなってきていた。この世界にいることが当たり前すぎて。不条理も多いが自分が生きる為に、言い方は悪いが自分より弱い者を狩って暮らす。生き物としての本能なのか分からないが、それが自分が世界を構成するひとつだと感じることができそれはそれで充実感があった。


「あ、そうだジャール。前から聞きたいと思っていたんだが」


「なんじゃい?」


「その桟山さんざんってニンゲンが死んで、種族殲滅戦ってなくなったんだよね?」


ジャールは無言で聞き続ける。


「で、今はそういった国々も支配から解放されたってこと?」


黙って聞いていたジャールが答える。


「いや、残念じゃがそうではない。桟山亡き後も勢力は衰えてはおらん。もしかしたら息子のトウゲンが統治しているのかもしれん……」


「そうなんだ……」


「かと言って増してきている気配もない。ただ、、、」


「ただ?」


「桟山が支配していた国の中には、彼の直属の部下である【月下七星げっかしちせい】と呼ばれる7人の将が守っている国もある」


「月下七星……」


「その七星しちせいは今も健在じゃ」


「じゃあ、、」


「そうじゃ。トウゲンかどうかはまだ分からんが、もしかしたら桟山の遺志を継ぐ者がおって今はその準備をしているのかもしれん」


「動きは全くないのか」


「儂の知るとこでは、じゃ」



ここしばらくはララと保釈金ことで頭がいっぱいになっていたが、どうやら世界はきな臭い方へと動いているようだ。


ニンゲン以外が虐殺される戦争。

ニンゲンである自分は殺されずに済むのか。

じゃあ、ララは?

ジャールは?

質屋のオヤジは?

みんな殺されるのか?


真っ暗な夜、レイは宿屋の窓から明るく輝く月を見ながら少し恐怖を覚えた。



翌日。早朝からモンスター狩りを行う。

レイは昨夜ジャールから聞いた話が頭の中に残り、何とも言えない気持ちで剣を振る。

大きな戦になったらどうなるのだろうか。世界を救うのは勇者らしいが、あのリュウとか言う男がそんな務めを果たせるとは到底思えなかった。



「レイ殿!横っ!」


気が付くと犬の様なモンスターがレイの横から襲い掛かっていた。


「はっ!」


すかさず身をひねりモンスターに一太刀加える。


「考え事は禁物じゃぞ!」


ジャールに言われ、レイはすまないと答える。先の事を心配しても仕方がない。今は目の前のモンスターを倒しララを救うことが先決だ。この日はジャールと共に日が暮れるまで戦った。



そしてレイ達は十分な宝石やアイテムを入手し街に戻ると、街の入り口にいた質屋のオヤジが駆け寄ってきた。


「兄ちゃん、おめえ一体何やったんだ?」


意味が分からなく、オヤジに聞く。


「殺人罪で、、兄ちゃん、おめえが指名手配されてるぞ!」


「えっ!」


殺人罪?

僕が人を殺したというのか?何だそれ?指名手配されている?また捕まるのか。もうここには居られないのか。指名手配書を見て絶望する。一緒にいたジャールが言う。


「儂はレイ殿とずっと一緒にいるが、決して殺人などしてはおらぬぞ」


「俺もそう思うぜ。兄ちゃんはそんなタマじゃねえ」


2人はそう言ってくれたが既にレイの頭は混乱。目はうつろ、顔も真っ白になったレイにジャールが言う。


「とりあえず街に入るのはよそう。このまま街外で野宿がいい」


質屋のオヤジが続いて言う。


「そうか、それがいいと思う。大したもんじゃねえが、俺達が護身用に持っている携帯線香だ。焚いておけば魔物除けになる。持ってけ」


そう言うとオヤジは丸いケースに入った線香を渡した。


「オヤジ殿、恩に着る」


まだぼうっとしている自分の手をジャールが引き、街の郊外へと向かう。


「落ちぶれたもんじゃ、この国は……」


月明かりの下、そう発したジャールの顔がレイにはとても寂しく見えた。

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