5.勇者リュウ
ララと戦闘をこなすことさらに数日。レイ達は街周辺にいるモンスターはほぼ倒せるようになっていた。連戦が続くと厳しいが回復魔法が使えるララとの戦闘は有難い。レベルも幾分上がり資金も少しだけだが貯まった。
そんなある日、レイ達は戦闘で得たアイテムや宝石を換金するために質屋に向かっていると、前方から男の声が聞こえてきた。
「なあ、、いいだろう、少しだけ」
身なりはしっかりとした冒険者。ニンゲン?なのだろうか、若いエルフの女性に話しかけている。女性はあからさまに嫌がっている。
「ちょっとだけだよ、お茶飲むだけ。そんなセクシーな格好していたら誘わない方が失礼じゃん」
確かにエルフの女性は短いスカートに胸元を強調した服、多くの男の視線を浴びる格好だ。
「あなたには関係ないです!」
そう言うとこちらを見たエルフの女性と目が合ってしまった。厄介ごとには巻き込まれたくないと思い、レイはすぐに立ち去ろうとしたが男が大きな声で呼び止めた。
「何だ? お前ら」
関係ないですと言おうと思ったが、エルフの女性はレイの方に向かって走って来てしまった。まずいぞ、これは。レイは思った。
「どういうつもりだ、お前」
男はゆっくりとレイの方に向かってくる。
「どうしました、リュウ様」
近くの道具屋から出てきた2名と1匹、エルフっぽい女性に黒い装束に身を包んだ男、そして青毛の狼がレイの方に近付いてくる。
「いやイリア、そこの男が絡んできてよ」
「いや、何を言って……」
レイはすぐに否定するが全く伝わる気配がない。
気が付くと先ほどの絡まれていたエルフの女性はもういなくなっていた。ララがレイの背中に隠れる。
「あなた、この方をどなたかご存じで?」
イリアと呼ばれたエルフが言う。
「いや、、知らないですが」
「勇者リュウ様よ、覚えておきなさい。下級ニンゲンが」
――勇者リュウ様? 下級? 何だそりゃ。良く分からないが、勇者なのか。
「そちらのあなた、ハーフエルフね。あなたもよく覚えておきなさい。あなたみたいのが勇者様のお顔を拝めるだけとても有難いことなのよ」
レイの後ろに隠れていたララが縮こまるのを感じた。
「何を言ってるんだ。勇者だか何だか知らないが、なんだその言い方は!」
ララの事を言われレイは思わず強く言ってしまった。リュウと呼ばれた男の顔がみるみる赤くなった。
「お前! 勇者を馬鹿にするのか! 許さんぞ!!」
同時に黒装束の男とオオカミから殺気が放たれる。
「やめなさい、二人とも」
イリアが黒装束とオオカミに言う。殺気が消える。
「リュウ様、行きましょう。街中での乱闘はご法度です。いずれこの愚か者達には今日の非礼を後悔する日が訪れるでしょう」
「イリア、、、分かった。お前たち後悔するぞ」
そう言うとリュウ達一行は去って行った。
「…レイ様、何でしょうかあの人達」
「さあ、分からないがあまり関わらない方がいいかもな」
しかしこの日以降、街でのレイ達に対する環境が変わって行った。
食堂で食事をしていると突如見知らぬ男がぶつかって来て「リュウ様の邪魔をするな」と言ってきたり、大通りを歩いていると子供から「勇者様の敵だー」と罵られることもあった。宿屋でも一部の客からあまりいい顔をされなくなってきた。
レイは居てもたってもいられなくなり質屋のオヤジに相談した。
「勇者様だよ、あの男は」
「勇者様?何だよ、それは?」
本当に何も知らないのか?と呆れたような顔をしながら話してくれた。
驚いたことにこの国はトウゲンと言うニンゲンにこの先攻められ、国中皆殺しにされるかもしれないとの事であった。そのトウゲンに対抗できるのが「勇者様」とのこと。時代が求めた男、なのだそうだ。
「そんな凄いやつなのか、あの男は」
「兄ちゃんもあまり勇者様には盾突かない方がいい。一応国の希望なんだからよ」
「分かった」
それよりもトウゲンと言う男。皆殺しとは尋常じゃない。
「そのトウゲンって男、一体何者なんだ?」
「さあねえ。良く分からないが、ニンゲン以外の種族を殺しまくるらしい」
「ニンゲン以外?」
「ああ、そうだ」
「あ、それで僕もニンゲンだからみんなから……」
「その通りだ」
だから忌み嫌われるのか、ニンゲンというだけで。レイはこれまでのことを理解した。それにしてもトウゲンと言う男、一体何を考えているのか。レイは更に話を聞こうと思ったが別客が来たので店を後にした。
「ララは知っているかい? トウゲンって男のこと」
「知らないです…」
そういえばララの生い立ちとか過去の事とかほとんど何も知らなかった。幼いと言うほど子供でもないのだが、この世界の住人にしては知らないことが多過ぎる。
何か訳があるのかな?とりあえずは本人が話してくれるまでこちらから聞くことは良そうとレイは思った。
リュウの嫌がらせはまだ続く。
街中に自分達の悪い噂を流し、ばったり街中で会った時には装備を貶され、ララを薄汚いハーフエルフだと侮辱した。勇者だか何だか知らないが、一体何故こんなことばかりする? ララも日に日に元気がなくなっていった。
そしてその日がやって来た。
レイはララと宿屋で身支度をしていると突如部屋の扉が開かれ、鎧をまとった男達が乱入してきた。
「レイ・ヒナタだな。そっちはハーフエルフのララ」
「はい、そうですが、何か……」
突然のことだが嫌な予感しかしない。
「我々は国防軍所属の警備隊だ。レイ・ヒナタ、お前を窃盗罪で連行する」
「え?」
話を聞こうとするレイ達を抑え込み、手に縄をかけ無理やり連行しようとした。
「いや、一体何だ! 窃盗なんてやってないぞ!!」
「レイ様ーー!」
「ララ!!」
どれだけ騒いでも聞く耳持たず。結局ララも城にある国防軍警備所まで連れて行かれた。そして所持物は一切奪われ、ララとは別に牢に投獄された。
「なんで、なんでこんな。全く身に覚えがないのに」
レイは独り真っ暗な牢で夜を過ごす。
涙が溢れてくる。どうしてこの国のやつらはこんなことばかりする。自分は何もしていない。何もしていない。窃盗ってなんなんだ?
これもリュウの仕業か。ララは、ララは無事かな。レイはひとり冷たく硬い石の床に身を縮めて夜を過ごした。
翌日午後より簡易裁判が開かれた。
レイが犯した罪は3件、道具屋でのアイテム並びに金貨の窃盗、民家に入って盗みもしたらしい。
全く訳が分からない。そんなことはしていないし、そもそも証拠がないはず。
しかし証人として呼ばれた人物を見て愕然とした。
「証人、勇者リュウ、ここへ」
リュウが現れると見物人から歓声が起こる。
「私は見ました。あのレイとか言う男が道具屋で金貨などを盗むところを。あいにく逃げられてしまったのですが、はっきりと覚えています」
その後もリュウはありもしない作り話を次から次へと話した。
「嘘だ!嘘だ、嘘だ!! そんなことはしていない!」
レイの話など誰も聞いてはくれなかった。リュウの話だけが重要な証言として取り上げられた。証言だけの裁判。証拠も何もない出鱈目な裁判。そしてそれだけを聞いて既に終わりそうな雰囲気である。無茶苦茶だ。
「判決。レイ・ヒナタに罰金として金貨300枚の支払いを命じる」
「き、金貨300枚!?」
「準備ができ次第すぐに納めること。それまで共犯の可能性があるハーフエルフの女はこちらで預かる」
「な、何を言って! 僕らは無罪だ! 何もしていない! あの男の狂言だ」
リュウを指さすも裁判官から怒声が飛ぶ。
「犯罪者が何を! 勇者様を侮辱するとは。それだけで重罪だぞ!」
もう何もできなかった。ララと引き裂かれ、ひとり野に出された。惨めだ。すべてが憎い。この国のすべてが。自分が何をした、許さない、許さないぞ。
レイは怒りにかまけて地面を殴る、殴る。すぐに拳の皮が破け、血が滲む。痛みと血を見て涙が流れる。
その時、頭の中で声がした。
――レイ様、お怪我はありませんか?
ララの声だった。自分が負傷するとすぐに心配して治療してくれる。
――ララ……
そうだ怪我なんてしたらララが心配する。金貨300枚。やれるだけやるしかない。どれだけ時間が掛かっても。死に物狂いで集めてやる。
待ってろ、ララ。必ず助け出してやるから。レイは返された剣をぐっと握りしめ街の外へと駆け出した。