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unknown ~五百年かけ紡ぐ愛の唄~  作者: サイトウ純蒼
前章 第一節「始まりの国」
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3.ララ

街の大通りから少し離れた街外れ。数名の男達が集まっている。

尻尾の生えた男、耳の長い男にオオカミの様な顔をした男。共通しているのは一見して善人ではない悪人面である。


その中央に震えながらひたすら謝り続ける小さな女の子がいた。少しだけ耳が尖っている、エルフだろうか。服は破れ、顔も汚れている。理性より先に声が出た。



「なっ、何をしているんですか!!」


レイの声にそこにいたほぼ全員がこちらを見る。そのうちの一人、体格のいい男が寄って来て太く低い声で言う。


「何だ、おめえ?」


そこからは何が起きたのは分からなかった。

言葉を聞き終えた瞬間、腹部に強烈な痛みを感じた。倒れ込んだのだろうか、目の前には地面の映像がゆっくり流れる。その後は蹴られたり殴られたりするのを必死に両手で頭や首を守っていた。


聞こえてくるのは自分が殴られる音、そしてエルフの女の子の泣く声。しまった、取り返しのつかないことをしたのかもしれない。

やがて聞こえてくる音に交じって別の声が聞こえた。



「何やってるんだ、お前達! 街中での乱闘はご法度だぞ!」


「ちっ、行くぞ。お前ら」


その声を境に体への痛みが止んだ。

酷い目に遭った。酷い目に遭ったが初日のウサギの恐ろしさに比べれば死への恐怖がない分まだましだった。

痛む体に力を入れて立ち上がり、エルフの女の子のもとへ行く。


「大丈夫かい?」


レイは優しく声を掛けた。相当泣いたのだろう、目を真っ赤にしてこちらを見上げている。彼女は自分の顔を見てまた泣き出した。


「おい、お前達」


助けに来てくれた数名の男達。軽鎧を着ている。


「何をやってたんだ?」


「いえ、何も。この子が囲まれていたので……」


そこまで言うとレイとエルフの女の子の顔を見て男が言う。


「ニンゲンと、、、ハーフエルフか」


ハーフエルフ? ハーフ? 改めて女の子を見ると同時に男が言う。


「まあいい、おれたちは自警団だ」


「はい、ありがとうございました」


「礼はいい……」


しばらくの沈黙。男が口を開く。


「分からんのか?護衛費だよ、護衛費を払えよ!」


「護衛費……?」


「当たり前だろ、ただで助けてもらおうってのか、お前」


「幾ら、、、なんですか」


「2人だから金貨10枚」


当然ながらレイはそんな大金持っていなかった。あったとしても法外過ぎる。



「…そ、そんなお金、ありません」


そう言うと男達の表情が変わる。


「ふざける、な!!」


顔面に鈍痛が走った。痛いと感じると同時に、腹部と背中にも痛みが走る。


ドン!


「きゃああーーー!!」


エルフの女の子の悲鳴が上がる。

どうして、どうして、自分がこんな目に……

もういい、もうどうでもいい。すべてを、すべてを許さんぞ、許さん、許さん、許さん!


レイは一瞬、自身の中に大きく膨らむ何かを感じた。レイの右手がうっすらと白い光を灯す。だが、絶え間なしに発生する痛みに吐血し倒れ込んだ。



「何だ、こいつ。金持ってるじゃん!!」


自警団のひとりがそういうと、レイの懐から落ちた財布を持って叫んでいる。


「金貨3枚?まあいいか、これで勘弁してやる」


そう言うと空になった財布をレイに投げつけた。


「やめろ、それは……」


自警団の男達は聞く耳も持たず笑いながら去って行った。

涙が溢れてきた。

一体自分が何をしたと言うのか。何故こんな目に遭うのか。必死に貯めたお金も奪われた。体もボロボロ、もう嫌だ。もう嫌だ……



「ありがとう、、ございます……」


目を閉じて必死に涙をこらえるレイにエルフの女の子が声を掛けてきた。

忘れていた。お金は取られてしまったけど、取りあえずこの子は助けられたようだ。レイは少しだけ救われた気持ちになった。


「ごめんなさい。ごめんなさい……」


レイは涙を流しながら謝る女の子にもういいよと声を掛け立ち上がった。周りにはこれまで幾人か野次馬らしき人達がいたようだが、レイが立ち上がるとその多くが去って行った。


「これからは気を付けて」


女の子に向けてそう言った。

すぐにでもモンスター狩りに行かなくては。所持金ゼロになってしまった。不条理だと思ってもここでは力が正義、それがここのルールなら弱い自分を呪うしかない。力が必要だ。もっと強くなりたい。生きる為の力が。



街の外へ向かおうとすると服を引っ張られた。エルフの女の子が服を掴んでいる。


「私も、、、一緒に……」


連れて行けと言うのか?

今は危険なモンスター狩りをしているし、正直弱いので何かあっても守ることはできない。お金もない。

どれだけ説明してもエルフの女の子は首を横に振り、じっとレイの目を見つめる。悲しい目、ただ決意の強さは伝わってくる。結局、レイが折れた。


「名前は?」


「……ララ、ララです」


「僕はレイ、日向(ひなた)レイ」


「レイ様…、よろしくお願いします……」


これがレイとララの偶然であり、そして必然的な出会いであった。



ララは少しだが魔法の能力があった。

ほとんど戦闘経験はないので当初実践的な魔法は使えなかったが、早々に怪我や体力を回復するヒールを覚えてくれた。これは大いに助かったところである。

レイが攻撃をし、怪我をしたらララが回復。薬草や時間の節約になり、ひとりで戦っていた時よりも随分と効率が上がった。


少しずつだがレイの戦闘レベルも上がり、ララの助けもあって少し強いモンスターとも戦えるようになった。そしてララにもちゃんとした装備を買ってあげることができ、とても喜んでくれた。ララの表情も少しずつ明るくなってきている。そして戦闘経験を積む日々がしばらく続いた。



そんなある日、レイ達はその女性と出会うことになる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 人間とハーフエルフだから法外な金を巻き上げたんですね。 その女性がレイ達の助けになりそうですね。
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