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unknown ~五百年かけ紡ぐ愛の唄~  作者: サイトウ純蒼
前章 第一節「始まりの国」
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2.出会い

質屋を出て次に向かったのは武器屋。

少し歩くとたくさんの剣や槍などが置かれた店があった。ここが武器屋のようだ。


早速中に入った。店内は先ほどの質屋とは違って広く、たくさんの武器が整然と並べられている。身なりをしっかりと整えた上級冒険者らしい人達が武器を眺めている。



「何をお探しで……」


1人の店員らしき男が話しかけてきた。口調は丁寧だが雰囲気は明らかにニンゲンである自分を歓迎していないようだ。


「剣、かな。剣を探しているんですが……」


「どのような剣をご所望で?」


「初心者でも使える剣とかありますか?」


「これなんてどうでしょう」


店員は自分に50㎝ほどの短剣を手渡した。短いがしっかりと手入れがされており見た感じよく斬れそうだ。


「幾らですか」


「銀貨5枚です」


少し予算オーバーだが初めて買う剣に興奮を覚えて、これを購入することにした。


「ありがとうございます」



鞘と腰に取り付ける皮具はサービスしてくれた。取りあえずこれで最低限の装備は整えた。早速だがモンスターで試してみることにした。

すぐにその足で街の出口付近までやって来る。街には特に門や柵などはないのだがモンスターが入ってくることはないのだろうか。結界でも張っているのかな、と思いつつ街の外に出る。




青く晴れた空。果てなく続く草原。

モンスターが出るまではピクニックでもしたいと思うほど気持ちの良い日であった。


すぐにモンスターは現れた。

見た目はウサギ。ただ眼は鋭く、比較的大きな前歯のような牙が外側に出ている。

弱そう? 気を付ければ倒せそうだ。早速買ったばかりの剣を抜き、ウサギに斬りかかる。


カッキーン


信じられなかった。最初の一太刀で剣が真っ二つに折れた。


「え!?」


そう言うや否やウサギが飛び掛かってガブリと肩に嚙みつく。


「うっ!」


幸い胸当てのバックル部分ではあったが、予想以上の出血と痛みが肩を襲う。さらにウサギの前足からは鋭い爪が伸びてきて腕に斬りかかってくる。



「痛い痛い!!」


経験したことのない痛さに驚きウサギごと倒れ込んでしまった。そして近くに来て初めて分かった。モンスターの殺意とは生半可なものではない。


――やられるのか? 殺されるのか?


必死にウサギを体から離そうとしたが、牙がしっかりと肩に食い込み離れない。その間にも牙はどんどん食い込み激しい痛みとなって肩全体に広がる。



−―死にたくない、死にたくない。死にたくない!


必死にもがくと手に大きめの石が当たった。無我夢中で石を取り思い切りウサギの頭に叩きつける。ウサギの頭からは真っ赤な血が飛び散る。

それでも離れないウサギ。更に力を込めて噛んでくる。死の恐怖と激痛に耐えながら何度も何度も石でウサギの頭を叩き続けると、バキッと鈍い音がしてウサギは動かなくなった。



死んだようだ。

はあはあ、と全身で息をする。肩からは血がドクドクと流れる。ウサギの顔は原形をとどめないほど潰れている。体が痛い。

これが現実。これが現実だ。綺麗に斬れてモンスターが消滅するなんて空想の世界。血の匂い、死臭。痛み。すべて自分が抱え込むべきもの。



現実……、これが。

仰向けになったまま溢れ出した涙が止まらなかった。




痛みに耐えながら街へ戻った。

ニンゲンであり全身血まみれの姿は嫌でも目立つ。意識朦朧となりながら質屋へ向かった。


店に入るとオヤジが止血と回復効果のある薬草を塗ってくれた。もちろん代金は取られた。

少し休憩すると痛みも治まってきたのでオヤジに尋ねてみたところ、戦ったモンスターは「ウサギン」と言う攻撃力はあるが比較的弱いモンスターだった。ある程度の者なら剣や槍で一突きらしい。


剣が折れたことを話すとまがい物を掴まされたのでは、とオヤジ。心底礼を言い、今日は疲れたので宿屋に行って休むことにした。




意外にも宿屋は最初に目が覚めた場所であった。


「ヒナタ・レイねえ。あんた、ちゃんと金はあるのかい?」


大部屋で銀貨1枚。宿屋の女主人は自分の姿を見て不審に思ったのだろうが、宿泊費を聞き直ぐに払うと宿の説明をしてくれた。

宿屋入り口には水場があり、そこで汚れた防具や体を洗うことができる。隣の棚には洗った鎧や武器が乾燥の為に置かれている。


食事は宿の食堂で別料金で食べられた。

安いもので味の薄いスープに堅いパン。空腹だったので何でも食べられたが、落ち着くと涙がまた流れてきた。




翌朝、折れた剣を持って武器屋に向かった。だが案の定門前払いである。店の評判を落とすようなことを言うなと、最後には門番に棒で殴られた。悔しくて悔しくて涙をぐっと我慢していると体が震えてくる。


それでも行かなければ、モンスターを倒しに。

生きる為に、食べる為に。怖くて体が震えるが行かなければならない。




武器を買い直すお金もなかったので、街で拾った大きめの石と木の棒をツルで結び手製の石斧を作った。叩くだけの武器だが素手よりかは遥かにましだ。石での打撃が効くのは昨日の戦闘で経験済みである。


その日からひたすら石斧でウサギやネズミ、スライム状のモンスターなどを叩き殺す日が続いた。慣れてくると一撃で仕留めることもできる。

また最初は気付かなかったが、死んだモンスターの横にアイテムや宝石が転がっていることがある。銅貨数枚と言うレベルだがこれが貴重な資金源となった。


1週間もすると少しお金も貯まり、質屋で安いが「ちゃんとした」剣を購入することもできた。フード付きのコートも購入し、街中では「ニンゲン」であることをあまり目立たないよう生活した。ようやく少しだが、ここの生活にも慣れて来ていた。




そんなある日、事件は起きた。


「ごめんなさい、ごめんなさい。許してください……」


レイが街を歩いていると道の片隅で、数名の男に囲まれながら必死に謝り続ける女の子を見かけた。


まだやや幼さが残る、少しだけ耳の尖ったエルフの女の子であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] エルフの女の子も迫害対象に思えます。 ヒロインの予感。
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