似た人
前回の続き。
ある国の警察本部。
若い刑事は、まさかとは思ったが、戦没者墓地に隣接している森林に行ってみた。
ここには歩道があり、市民の散歩道として親しまれている。
刑事は歩いている人たちに聞いた。
「ここで、大統領に似た人がスズメに餌をやっているのを見たことがありますか?」
すべて空振りだった。
10余人に聞いたが、知っている人は誰もいない。
「この時間ではなく早朝だと、手がかりがつかめるかもしれない」
翌朝。
日の出の前に、刑事は家を出た。
再び森林に着いたのは、ちょうど日が出た頃だった。
散歩しているおばあちゃんに、昨日と同じことを聞いてみた。
「さあ、そんな人を見たことはないですね」
若い刑事はそれでもあきらめずに、散歩している人たちに聞き込みを続けた。
数人に聞いたみたが、大統領のそっくりさんを知る人はいなかった。
「この森林は墓地より広い。あの人に聞いてダメなら、あきらめたほうがいいかな」
犬といっしょに歩いているおじいちゃんに聞いてみた。
何と・・
「そう言われると、そういう人を見たことがある」
「どこで、いつ頃ですか?」
「墓地の近くだ。大統領が急に亡くなった1か月近く前だったかな」
「見たのは一度だけですか?」
「いや、何回か見た。変な感じだったけど」
「変なって、どういうことでしょうか?」
「お面をかぶってたみたいな感じだった。大統領のお面。髪もそっくりだったけど、もしかしてカツラだったのかな?
すぐ近くで見たわけじゃないんで、詳しいことまでは言えないが、お面をかぶってたのは間違いない。
ふつう、散歩というか、外に出るときにお面をかぶる人はいるのか?
変なやつだと思ってた」
「スズメに餌をやっていた?」
「そう。何回も見ていたけど、スズメが寄ってくるようになってた。
スズメは人間の顔を覚えるのかね、刑事さん」
「そういうほうは専門じゃないので。これから調べてみます」
「私の話は役に立ったか?雨の日以外は、日の出の時間に散歩してるんだ。
何かあったら、また聞いてくれ」
「ありがとうございます。ご協力に感謝します」
刑事はかなりの衝撃を受けた。
「まさかが現実だったとは!」