表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
アステリア学園中等部一年
88/391

腐令嬢、憂さ晴らす


「な、なるほどー!」



 リコの言う通り、相手がリゲルやステファニなら、自制心が働いて少しは落ち着いてプレイができるかもしれない。イリオスなら間違いなく余裕で蹴倒すけど。ついでに踏んづけるけど。おまけにゴールと間違ったとか言いながら、全力でボール叩き付けるけど。



「リコ、いい案をありがとー! リゲル、ステファニ、もしかしたらのもしかしたら、ほんのちょっとだけ怖い思いをさせるかもしれないけど、私に協力してくれる?」



 神様仏様リコ様に手を合わせてから、私はそのままの姿勢で二人の友に向き直った。するとリゲルもステファニも、迷うことなく頷き、笑顔で了承してくれた。



「いいですよ! 張り倒されたら張り倒し返しますので、体で覚えてくださいねっ!」


「私も構いません。むしろこの私を倒せるものなら、倒してみせてほしいくらいですから」



 返事はとてつもなく不穏だったけれど、これでひとまず活路が見えた。リフィノンとアエトもほっとしたようで、素晴らしきアイディアを出してくださったリコに感謝していた。


 そのリコであるが、心なしか頬が火照って見える。


 これは、もしや……?



「リコ、もしかして調子悪い? 何か、顔が赤い気がするんだけど」


「えっ……なっ!? そ、そんなことないわよ!? 元気いっぱいフルスロットルよ!? 顔も赤くなんてないし、むしろ青いくらいよ!?」



 心配して声をかけると、リコは綺麗に切り揃えた前下がりボブを跳ね散らすほど飛び上がって、必死に首を横に振った。



「青いって、赤いより危険度高いじゃない。そうだ、ステファニに作ってもらった滋養薬を分けてあげる。アステリエンザに罹ったせいでかなり体力が落ちてたんだけど、それを飲んだらみるみる内に元気になったの。本当は今月いっぱい登校は無理って言われてたのに、効果はこの通りよ。ねえステファニ、あの激マズいけどよく効くけど激マズくて逆に具合悪くなりそうになるけどそれでもよく効く激マズい薬、まだ残ってたわよね?」


「はい、家にありますので明日持ってきます。足りないようであればまた作りますので、問題ありません」



 ステファニが即座に答える。


 この阿吽の呼吸って感じも、大分板についてきたなぁ。それに彼女がレヴァンタ家のことを、さらっと『家』って言ってくれるようになったのも嬉しい。



「リコのおかげで、私にもできることがあるかもしれないって思えたの。だから私も、リコのためにできることがあるなら何でもするわ。球技大会、一緒に頑張ろうね!」



 ステファニとの間に築かれた信頼関係を密かに喜びつつ、私は笑顔でリコに告げた。まだあまり打ち解けられていない彼女とも、この機会に仲良くなれたらいいな、と思ったので。



「あっ……ありがとう……。そ、それじゃ、そろそろ解散して、今日のところは帰りましょう! お先にさよならまた明日っ!」



 しどろもどろに答えると、リコはものすごい勢いで体育館から走り去っていった。



 あらら、行っちゃった。やっぱり皆に気を遣わせないように我慢してたのかな? 具合が悪いなら、ウチの車で家まで送ってあげようと思ったのに。


 リコはリゲルと同じく、庶民が暮らす第二居住区住み。貴族の暮らす第一居住区に比べると第二居住区はとても広いので、家が遠いと帰るのも大変なんじゃないかと不安だったんだけれど。



「リコの家は商都の噴水広場のすぐ側だから、そこまで遠くないよ」


「心配しなくて大丈夫。俺ら、自主練がてらランニングして帰るから、途中で見付けたら送ってくよ」



 とリフィノンとアエトが言うので、二人にお任せした。


 彼らの話によると、リコとは小学校からの付き合いなんだそうな。あまり接点がなさそうな雰囲気の三人だけど、スポーツでも強豪校であるアステリア学園を目指していた二人が、学年で一番頭の良いリコも同校を目標にしていると知り、必死にお願いして勉強を教わり始めたのをきっかけに仲良くなったんだって。


 帰る方向が同じなのだから、私はリフィノンとアエトにリゲルも送ってくれないかと申し出た。外はもう暗い。こんな可愛い娘が一人で歩いていたら、変な奴に目を付けられかねないと思ったので。


 二人は笑顔で了承してくれた……が、しかし当のリゲルが、寄りたいところがあるからと告げ、苦笑いでそれを辞去した。



「クラティラスさん……あなた、本当に恋愛事が不得手なんですねぇ……」



 着替えを終えて昇降口で靴を履き替えていると、隣からイリオスがそっと呟き、通り過ぎていった。トドメとばかりに、残念なものを見るような一瞥を寄越して。



 はああああ!?

 何でわざわざそんなこと言われなきゃなんないの!?


 BLの恋愛フラグはソッコーで見抜けるし、攻めにも受けにも揺れる恋心へのわかりみが深すぎて感情移入するあまり、ハピエンだろうがバドエンだろうが号泣必至だし、何ならスピンオフカップルの予想もほとんど外したことありませんが!?



 ところが何故か、リゲルとステファニまでイリオスと同じように私に向けて生温かい眼差しを注いでいるではないか。


 ちょっとちょっと、何なの、この空気。二人共、私の描いたBLイラストとかBL漫画とかに激しく萌えてたでしょ? 私の語るラは最高だって褒めてたでしょ? なのに何でそんな目で見るの!?


 イリオスめ……何か意味わからんけど余計なこと言いやがって!


 文句を叩き付けたい相手は、しかし既に立ち去った後だったため――――その日は帰ってすぐクローゼットに仕舞ってあった殴リオス人形を久々に取り出し、ボコり踏んづけぶん投げして、ギッタギタのメッタメタにすることで何とか溜飲を下げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ