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悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
アステリア学園中等部一年
87/391

腐令嬢、ファウる


「クラティラスさん、押しちゃダメ! それプッシングですよー!」


「クラティラス様、今度は腕を掴んで引き倒しましたね。あれはホールディングです」


「ついに体当たりでぶっ飛ばしましたぞ。チャージング、いやブロッキングですなー。ついでにトラベリングしまくりですねー」



 ああ、もう! うるせーな、わかってるよ!!



「信じられない……ほんの数分でここまでファウルを連発するなんて。これじゃファウルの詰め合わせ爆弾じゃない。とても試合にならないわ……」



 三人と一緒に観戦していたリコまでもが、恐れの滲んだ声で私のプレイを揶揄する。


 だから言ったんだよ、バスケは苦手だって!



 既に午後七時近いというのに、中等部第ニ体育館には多くの生徒達の姿がある。試合を間近に控えた部活が残っているのもあるが、半分以上が球技大会に向けて自主練する一年生達だ。


 バスケコートは第一体育館と合わせてもフルでは二つ、ハーフでも四つしかなく、そのため八クラスもあるとなれば場所取りの倍率は高くなる。しかしそこはリフィノンとアエトが部長にいち早くお願いしてくれたそうで、本日は男子バスケ部が使っていたコートの半分をお借りすることができた。


 そんな中、反則技のオンパレードをかます私は、悪い意味で注目の的になっていた。



 加えて、ゴールを狙うシュートスタイルにも難ありで。



「だから、何で……ジャンプして打ち下ろすの……」


「ゴールは上だよ……ゴールリング、狙わないと……」



 ラフプレーに散々付き合わされたせいで、リフィノンとアエトは息も絶え絶えに、もう何度訴え続けたかしれない注意を口にした。


 二人共、揃って涙目である。


 きっと心の中では、バスケのバの字も知らない初心者に教える方がよほど楽だったと悔やんでいることだろう。私だってそう思うよ……。


 前世では、体育教師だったお母さんの勧めで幼稚園からハンドボールを始めた。中学では強豪の部でLBのエースを務めた私だが、このように超攻撃特化型で、おまけに微妙にルールが異なるのもあり、バスケとは非常に相性が悪いのである。


 バスケより先にハンドを知った私には、バスケの『着地は一歩とカウントする』ってのも、『上にある小さいカゴにボールを入れて得点する』ってゴール形式も、『攻撃の意思が見られないプレイをすると反則』って規定がないのも、『五回ファウルで退場』ってルールも、体張って攻撃を食い止めても『ナイスファウル!』って掛け声がないのも、慣れられないんだってば!



「ええと……どうしようか?」

「ううん……どうしようかな?」



 取り敢えず全員のプレイスタイルを確認し終えたものの、リフィノンとアエトは渋い顔をして項垂れた。はいはい、私のせいですよね。


 一番のポイントガードはリフィノンくん、五番センターはアエトくんと決まっている。ディフェンス力が欲しい四番のパワーフォワードがイリオス、冷静な判断が必要とされるオールラウンダーの三番スモールフォワードにはリコかリゲル。オフェンスの要となる二番のシューティングガードには、ステファニを置くのが適切だろう。


 問題は、私。


 退場覚悟でパワーフォワード辺りに就かせて相手チームの戦力を削るか、試合には出さずマスコットのシックスマンとして放置しとくか……二択なら、後者が良いと思うなぁ。うっかり相手に怪我させでもしたら大変だし。



「でもクラティラスさん、ファウルとシュートとトラベリングを除けば、すごく上手いんですよね。戦力外にするには、もったいない気がします」



 ポジションに悩めるクラスメイトの姿を申し訳なさいっぱいで見つめていると、リゲルがそっとフォローの言葉をかけてくれた。



「確かにクラティラス様は、突破力といい判断力といい、瞬発力といい持久力といい、卓越したテクニックと見た目以上のフィジカルの強さには目を瞠るものがあります。ファウルとシュートとトラベリングさえ除けば」



 ステファニもリゲルの意見に頷いたものの、語尾はやはりため息で流した。



「その三点が難問なんですよねぇ。ちょっと力量を測るだけでこの有様ですから、試合ともなればさらに熱くなって、本当に死人を出しかねませんよ。クラティラスさん、超絶バカ……いえ、情熱家ですからなー」



 イリオスは慰める気もないようで、哀れみに満ちた目をこちらに向けた。


 韻を踏んで誤魔化したつもりか? ちっとも誤魔化されてねーよ、クソが。オッケー任せて了解、死人第一号はお前に決定な。ステファニがうまく片付けてくれるらしいし。



「考えたんだけど……それならクラティラスさんは別メニューで練習したらどうかしら?」



 負の空気に沈みかけたチームを救ったのは、リコが恐る恐るといったふうに口にした提案だった。



「一気に直そうとすると大変だから、まずは一番危険なファウルをしないようにするの。仲良しのリゲルさんかステファニさん、もしくは婚約者でいらっしゃるイリオス様を相手に練習すれば、相手を思いやる気持ちが勝って乱暴なプレイがおさえられるようになるんじゃないかしら?」


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