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悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
アステリア学園中等部一年
85/391

腐令嬢、大敗す


 ステファニにバッチンバッチンと主に頬肉をシバかれ続けた甲斐あって、宿題は無事全て完了した。


 おかげで私は、初等部の頃のように夏休み終了間際になって焦り狂うことなく、余裕綽々で胸を張って二学期の開始を迎えられた。



 しかしさあ……夏休みボケを抜くための調整期も必要だと思うんだよね。いっそのこと、九月もまるまる休み疲れを取る休みにするべきだ。


 そんなことを考えていたせいで、ならば望み通り休ませてやろうと神が罰を与えたのだろう。


 流行はまだ先と言われていたにも関わらず、二学期が始まって数日後、私はアステリエンザなるウィルス性の風邪に罹った。しかも症状が重かったものだから二週間も寝込み、入学からずっと狙っていた皆勤賞を早くも逃した。


 おかげで楽しみにしてた運動会にも出られなかったの……悲しい。


 夏の終わりに感じた風邪っぽさは、この兆候だったのかな? 何故かイリオスには伝染らなかったみたいけど、良かったのか腹立つのか、複雑な気分だ。



 しかし、悲しみと苦しみの後には福来るもの。


 月末になり残暑の残り香が薄れ始めた頃、やっと登校できるようになった私に朗報が届いた。来月の半ば、中等部一年全クラス対抗の球技大会を開催する旨が発表されたのである!


 種目はソフトボール、バスケットボール、卓球の三種。チームは男女混合で、全種目トーナメント形式で試合をするんだそうな。


 球技大会なんて、特に珍しいイベントではない。

 しかし私だけでなく、クラスの皆までも盛り上がり色めき立っているのには大きな理由があった。


 優勝したクラスには何と、豪華景品がもらえるの! それが何と何と、学食の限定オリジナルランチプレゼント券なのよ!


 ご存知のように、アステリア学園には貴族から庶民まで様々な生徒が集まっている。なので学食職員は、そこらのシェフやパティシエより双方の舌を唸らせる技術に長けているのだ。


 食に関しては腹が膨れりゃ何でも構わない派のステファニまでもがウキウキしているところを見れば、アステリア学園の学食のレベルの高さが理解いただけるだろう。ま、イリオスだけは、興味ありませーんといった感じでスカした面してやがったけど。



 ところが。



「ウソやん……」



 グーを出した手と共に、私は声を震わせた。周りは、全員がパー。申し合わせたように開いた十一の掌が、たった一つ固く握った私の拳を包み込まんとしている。


 事前にやりたい種目をそれぞれ記入して提出したところ、私が希望するソフトボールは人数が多かったため、ジャンケンで移動する人間を決めることになったのだ。



 なのに信じられない…………こんな圧倒的な大敗、ありえる?


 しかも『二度続けて』って!



「では、クラティラスさんがバスケに移動ということで、全員の種目が決定ですね」



 クラス委員長のリコ・クレマティが、冷徹な声で最後通告する。



「待って待って待って! 私、バスケだけはダメなんだってば! 私をバスケのメンバーに加えたら死人が出るよ!?」


「公平に決めたことです。文句は受け付けません」



 必死に訴えるも、リコは几帳面な性格を表すかのようにピシッと揃った前髪の下から鋭く尖った視線で私を刺し、冷ややかに一蹴した。泣き落としなんて、彼女には通用しない。何たってリコのモットーは、他人に厳しく自分にはさらに厳しくなのでありますから。



「これから各チームに分かれて、ポジションや自主練のスケジュールについて話し合ってください。死人を出さないためにも、皆さんしっかり練習するように」



 さらっと嫌味を寄越してから、教壇を下りたリコは私の腕を引いて他のバスケメンバーの元へと連行した。そう、リコも同じくバスケチームなのだ。



「クラティラスさん、残念でしたねー。さすがは婚約者同士というか……こうも続けて運が悪すぎる人を見ると、気の毒を通り越して笑っ……いえ、泣きそうになりましたよぅ〜」



 リゲルが哀れみを込めた目で、私を迎え入れる。おい、泣きそうになったなんて大嘘ついてんじゃねーぞ。可愛い顔が歪んでるのは、明らかに笑いを堪えてるからだよね? それでも可愛いとか、ヒロインのくせに生意気だぞ! ……って、ヒロインだからか。



「しかも、どちらも一発のジャンケンで決まりましたからね。クラティラス様もやはり、こちらに来るべき人材だったのです。ご安心ください、死人は私が裏で始末いたします。ですからクラティラス様は、伸び伸びとプレイなさってください」



 無表情のまま、ステファニが物騒極まりないことを抜かす。


 ちょっと、皆が本気にするから真顔で言うのやめてくれない!? 死人は比喩であって、本当に殺したことはないから!



「誰かさんに限っては間違いなく、日頃の行いが悪いせいですなー。人のこと散々笑い者にした報いですよー。ウケますぞー、いい気味ですぞー、ザマミロですぞー」



 イリオスはというと、罵詈雑言を叩きながらも死んだような目をしていた。



 やっぱり、罰が当たったんだろうか?


 卓球を選んだのにジャンケンで負け、ソフトボールでもジャンケンで一撃死して結局一番触れ合いの多いバスケに流されたイリオスを、腹筋崩壊するかってくらいバカにして笑い倒したせいで。


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