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悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
聖アリス女学院初等部
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腐令嬢、特訓す


「ひいいいい、嫌です無理です気持ち悪いですっ!」



 私の部屋に、リゲルの悲鳴が響き渡る。



「ゴルァ、逃げんな! 目を逸らさずしっかり直視しろおおお!」


「うう……うええええ、吐きそうーー!」



 女の子らしい可愛い装飾が施された室内には、それに全く似合わない五人の筋肉ムキムキなる男達が並んでいる。全員が、パンツ一枚というほぼ裸体だ。


 デッサンの練習をしたいと言って募ったのだが、いやはや、ここまですげーのが揃うとは。一爵家の力すごい、超すごい。実に壮観ですわ。



「クラティラス様、そろそろポーズを変えましょうか?」


「そうね、今度は全員で大胸筋を……」


「黙れーー! ヘドロみたいな声で人語を喋るな、クソ野郎ーー! 気持ち悪さが増すーー!」



 私の声を吹き飛ばす勢いで、リゲルが叫ぶ。



「すごいじゃない、リゲル! 自分から男に声をかけられたわよ!」


「あぅ……そ、そう、ですか。あはは、やったー……」


「リゲル? リゲル!? あらやだ、また気を失っちゃったわ」



 マッチョの一人に彼女を奥のベッドへ運ばせると、私はマッチョ達のスケッチに勤しんだ。



 リゲルは『類稀なる繊細な感性を教えてもらうために呼んだ、こっちから行くと危ないし』という大義名分が立つとして、家人以外の殿方が令嬢の私室に出入りするなんて本来ならばとんでもないことだ。


 しかしそれを『今度の芸術絵画展に是非とも参加したいんです!』と言って両親を必死に説き伏せ、やっとのことでお許しをいただいたのである。


 おかげで休日返上で、この秋に国内で開催される芸術絵画展とやらに向けてマッチョの油絵を描かなくてはならなくなったが、これはこれで楽しい。

 だって、絵を描くのは大好きだもん。

 それに今まではお耽美寄りな絵ばかりだったけど、筋肉質な男の体をうまく描けるようになったら作風の幅が広がりそうだし。


 何気にマッチョBLも好きだったんだ〜、もちろんマッチョは受けに限るっ!



 ノリに乗っていた私の筆を止めたのは、軽いノックの音だった。



「クラティラス様、そろそろお時間です」



 扉の向こうから、ネフェロが終了の合図を伝える。



「わかったわ。では皆様、お疲れ様。また明日よろしくね」



 慌ただしく服を着る彼らに、私は手早くチップを握らせた。リゲルの暴言に関するごめんなさい料金だ。

 事情を知った皆は『お気遣いなく』と言って辞退しようとしたけれど、彼らの肉体を自分のために利用しているのだから、ここは私も譲らず、無理矢理捩じ込ませていただいた。



「おや、リゲルさんは?」



 マッチョファイブを見送った後に部屋に入ってきたネフェロが、辺りを見渡して首を傾げる。



「疲れたみたいだから、奥の寝室で休ませているわ。彼女を送るのは、もう少し後にしてあげて」


「リゲルさんは、お体が弱いのでしょうか? 頻繁に具合が悪くなっている気がしますが」


「さあ? 生理なんじゃない?」



 スケッチブックとペンを仕舞いながら、私は適当に返した。



「ちょ……またあなたはそういうことを平気で! 少しは口を慎んでくださいっ!」



 麗しいラインを描く眦を釣り上げて怒ると、ネフェロはプリプリしながら部屋から出て行ってしまった。


 あいつこそ生理なんじゃね? 801妊娠でお兄様の子を産んでおくれよ。叔母さん、めいっぱい可愛がっちゃうよ?



「ぎゃー! ここにいるってことは、またあのキモいのに抱きかかえられたーー!? うわーん、死にたいーー!!」



 おっと、そうこうしてる間に聖女様が覚醒なされたようだ。


 私は急ぎ足で奥の寝室に駆け込んだ。



「リゲル、落ち着いて。もう皆帰ったわ」


「うぅ……クラティラス様ぁぁぁ!!」



 泣きながらリゲルが私に飛び付いてくる。控えめに言って可愛い。


 何ぞ、これ……百合属性じゃねーのに目覚めてしまいそうですわ!



「今日も、よく頑張ったわね」



 湧き上がる萌えを堪えながら、私は肩口に顔を押し付けて泣きじゃくるリゲルの髪を撫でた。



「で、でもあたし、まだ全然……」

「少しずつだけど、確実に進歩しているわ。あなたなら、きっと克服できる。男の人と普通に……いいえ、男女の区別なく、笑顔で話せるようになるはずよ」



 これは本音である。


 最初はマッチョファイブと同じ空間に閉じ込められただけで泡吹いてたのに、半月足らずで彼らに向けて言葉を発することができるようになったのだ。罵詈雑言だったけれど、それでも立派に成長したと言える。



 すると不意に、リゲルは私から離れ、こちらを見上げた。



 眼鏡はもうしていない。もう顔を隠す必要がないから。


 ボサボサたった髪は、私がいつも指名しているカリスマ美容師――そういうのもこの世界にはおるんや――の華麗なテクニックで、綺麗なボブヘアに整えさせた。彼女の可愛らしさを引き出さないなんてもったいないと思ったから。



 今目の前にいるのは、自分の弱さを誤魔化すために外見と心を偽ってきた彼女ではない。私もよく知るヒロイン――いずれ世界を救うことになる大聖女の面影がしっかりと感じられる、正真正銘のリゲル・トゥリアンだ。



 ゲーム開始となる高等部時の姿を顕著に現したリゲルは、真っ直ぐに大きな金の瞳を私に向けた。



「お、男の人が怖くなくなったら、もしあたしがそうなったら……お、お別れ、なのですか? もう、クラティラス様と、会えなくなるのですか?」



 ズッギュゥゥゥゥウン!!



 はい、クラティラス、アウトーー!

 クラティラス、萌え死ーー! クラティラス、陥落昇天そして百合の楽園へゴーーーー!!



 いやぁ、一番はBLだけど百合も堪らんですな。あら、そういえばここ、ベッドじゃん? やっちゃえってこと?


 未熟なる果実を美味しくいただいちゃいますーー!?


 って、バカバカ! 落ち着け、私!


 リゲルに百合萌えして、肝心なことを忘れてどうするんだ!!



「あ、あなた、私がただの善意でこんなことをしてると思ってるの? だったら、買い被りもいいところよ」



 押し倒しイチャつき回したい欲を必死に押さえ込み、私はわざと意地悪く答えた。



「私はあなたの詩で、素晴らしい世界を知った。だから私も、あなたに新たな世界を伝えたいの。それができて初めて、私達は対等になれる。互いに教え合い学び合う、『友』という仲になれるのよ」


「と、友……? あたしと、クラティラス様が、ですか?」



 リゲルが呆然と呟く。



「そうよ。あなたと友達になりたい、そう思ったからこんな面倒なことに手を貸しているの。嫌だと言っても、もう逃さないわよ? 私、こうすると決めたら絶対に譲らない頑固者なんですからね」



 フン、と悪役令嬢らしく鼻を鳴らして長い黒髪をファッサーとかき上げて流してみる。お、なかなかサマになってるんじゃないか?



「う、嬉しい……嬉しいですっ!」

「のわぁっ!」



 しかしカッコつけられたのも束の間、再び飛び付いてきたリゲルのせいで、私は盛大にひっくり返ってしまった。



「クラティラス様とお友達になれるなんて夢みたい! あたし、頑張りますっ! クラティラス様にたくさんたくさん学びたいです! いっぱいいっぱい、新しい世界を教え合いましょうっ!」



 私の顔の真上で、リゲルの可憐な笑顔が咲く。



「あ、うん……やる気になってくれて私も嬉しいよー。でもこの状況でその発言は、ちょっと……シャレにならないんじゃないかなー?」


「あ、あなた方……い、いいい一体、何をしているのですか……?」



 弱々しい震え声に、リゲルがはっとして身を起こす。私も起きあがり、引き攣った笑いを浮かべてみせた。



 寝室の戸口から真っ青になった顔を覗かせている、ネフェロに向けて。




 この後、リゲルを自宅近くまで送っていったのだけれど、同乗したネフェロによって二人してこんこんと説教された。


 ちなみにリゲルは、ネフェロに対してだけはそれほど嫌悪感を抱かないらしい。顔面が中性的で線が細い上に、口やかましくてオカン感があるせいか『男』を感じなくて気楽なのだとか。


 では更に美形で、肉体的にも未成熟なヴァリティタお兄様はどうかと尋ねたらば。



「ヴァリティタ様は、キャラが掴めないというか……よくわからない方なので苦手です。お屋敷に初めて伺った日は虫をプレゼントしてくださったんですけれど、お返しに家の近くの川で捕まえたザリガニをまとめて二十匹ほど紙袋に入れてお贈りしたら、目も合わせてくれなくなってしまって」



 気に入らなかったのかと思い、今度はプレゼントしてくれたのと同じ虫を五十匹くらい、前よりも豪華な包装を施したプレゼントボックスに入れてこっそりお部屋の前に置いておいたそうな。


 虫とは、前例から考えるに間違いなくコードネームG、所謂ゴキである。


 よくやるんだよ、あの兄貴……私が誰かを家に招くと、そういう意地悪すんの。最愛の妹を誰にも取られたくなくて、友達相手にも嫉妬して邪魔ばかりしてくるんだよね。



 なのにリゲルの訪問に限っては、何故か部屋に引っ込んで出てこなかったのだ。ずっと不思議だったけど、おかげで謎が解けた。



 リゲルは嫌がらせにも気付かず、好意を見せただけ。しかし、いくら悪ガキで名高いお兄様でもザリガニ地獄からの大量ゴキ・アタックはキツかったろうに……。


 こりゃ二度と関わりたくないと思われても仕方ないわな。


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