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悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
アステリア学園中等部一年
79/391

腐令嬢、奮起す


 咄嗟に私は二人を小脇に抱え、奴に背を向けて逃げた。


 しかしモンスター、追ってくる!

 足が早いんだか足のリーチがパネェんだかその両方なのかわからないけど、どんどん距離を詰めてくる!



「ジェミィ、ディディ、叫べっ! とにかく大声出して喚きまくれ!」



 必死に走りながら、私は恐怖で固まっている両脇の二人に命じた。



「やだああああ!」

「怖いいいいい!」

「ですよねーー! マジないわーー!!」



 二人に合わせて自分も吠える。すると飛び込んだキモ木の群れが激しくうねり、体の大きなモンスターの侵入を妨害した。よし、これで少しは時間を稼げそうだ!


 ぎゃーぎゃー雄叫びを上げながら、どれだけ走ったのか。モンスターはやっと諦めてくれたようで、背後から追ってくる気配が消えた。



 それでもまだ安心はできない。なので辺りを散策し、身を隠せそうな場所を探したところ、大きな木の根元にぽかりと空いた樹洞を見付けた。


 三人で入れるほどのサイズではなかったから、とにかく抱えていた二人をそこに押し込める。そこで私は、やっと安堵の息を吐いた。



「ふ、二人共、無事? 怪我はない?」


「う、うん……平気だよ」

「お姉ちゃんこそ、大丈夫?」



 火事場のクソ力効果でここまで突っ走って来られたが、正直腕も足もガクガク、心臓も肺もバクバクのヒイヒイだ。おまけに無我夢中で逃げてきたから、ここがどこだかもわからない。


 だけど、彼女達に弱気なところを見せてはいけない。今この子達を守れるのは、私しかいないんだから。



「私のことは心配いらないわ。すぐに皆が探しに来てくれるから、少しの間だけ我慢してね。ここにいれば、安全……」



 言葉は、そこで途切れた。



 大樹の向こう側に、とんでもねー奴がいたのだ!



 サイズもヤバみも、追いかけてきたモンスターの比じゃない。


 小山のように聳える逞しい巨体に土色の肌、最大の特徴は顔面の半分にも達する大きな一つ目――あれは、私も知ってる。サイクロプスとかいうモンスターだ!



 幸いにも、私達の存在はまだ察知していないらしい。けれど異変は感じ取っているようで、首を巡らせては巨大な単眼をギョロギョロと動かし、辺りを探っていた。



 二人があれを見たら、間違いなくパニックに陥る。


 そう考えた私は、双子達を閉じ込めた木の穴を背中で塞ぎ、息を潜めてサイクロプスの動きを注視しながら――心の中で自問自答した。



 このまま、やり過ごせると思う?


 …………ううん、無理だ。きっと見付かる。



 恐らく、ここは奴の巣。私達を追ってきたモンスターがやけにあっさり諦めたのは、あいつの領域に侵入することを恐れたからだという可能性が高い。


 事前授業で、ムキムキ髭イケメンの部隊長が言っていたのだ――――モンスターは、自分より強い者の縄張りには決して立ち入らない、と。そして、自分が巣と決めた場所には他者の侵入を決して許さない、と。



 となれば……私がやるべきことは、一つ。



「ジェミィ、ディディ、よく聞いて」



 私はうろの中の双子に向き直り、小声で告げた。



「私がいいって言うまで、何があってもここから出ちゃダメよ。声を出すのも禁止。目を閉じて、耳を塞いで、じっと大人しくしてて。かくれんぼと同じよ、何も心配いらないわ」



 不思議そうに目を瞬かせつつも、二人は素直に頷いた。それから私はディディの方を向き、ボールを指差した。



「ディディ、それ貸してくれる? 必ず返すから。約束する。だから、ね、お願い」



 とても大切なもののようで少し渋ったものの、ジェミィが説得してくれたおかげでディディはボールを手渡してくれた。片手で掴んでみると、それは思った通り、ハンドボールで慣れ親しんだ二号球に近いサイズ感だった。


 子どもの玩具だからと期待していなかったけれど、意外にも重量がある。これなら、使える。



「それじゃ……私との約束、絶対に守ってね」



 念を押しつつ、ボールを返すという約束は守れないかもしれないな……と申し訳なく思いながら、二人がぎゅっと目を閉じて両手で耳を塞いだのを確認すると、私は立ち上がった。


 ――――あのサイクロプスを、彼女達から引き離すために。


 所詮は、一時しのぎ。

 けれど救助が来るまでは、私が持ち堪えるしかないのだ。



 どうせ死亡エンドしかない身の上。数年しか猶予のない一つの命と引き換えに二つの幼い命を守れるのなら、上等じゃないか。そっちの方がよっぽど、暗殺されるより有意義に人生を終えられる。


 もしかしたら、よくやったと神様も褒めてくれて、今度こそBLワールドに転生させてくれるかもしれない。



 武器はボール一つ。


 とにかくサイクロプスの注意を引いて、かつなるべく捕まらないように逃げながら、シュートを急所に打つ絶好の機会を窺わなくてはならない。


 ディディのボールを抱き、私は深呼吸して意識を集中した。



 落ち着け、私。


 あのサイクロプスは胸が平たいし、腰ミノみたいなので股間をカバーしてたし、多分男だ。


 男なら、何でもいけるはずだろう?


 ミアの妄想を思い出せ。モンスター✕モンスターの人外BL……そうだ、最初に出会った青黒くん。あいつとカップリングしてみるか。



 青黒くんは、サイクロプスくんと仲良くなりたい。けれどサイクロプスくんは頑なに心を閉ざし、近付けば傷付けようとする。それは、サイクロプスくんがとても繊細だから。


 過去にとある男を全力で愛したのに、やることやったらポイされたトラウマで、サイクロプスくんは誰も受け入れられなくなってしまった。けれど青黒くんはそんな彼を心配して、いつも遠くから見守っている。サイクロプスくんもそれを知っていて、少しずつ彼が気になり始めている。


 そう、今日こそ勇気を出して青黒くんに自ら会いに行くのだ。でも恥ずかしいから『人間を追いかけていたらここに来ちゃって……』って偶然を装うの。

 すると青黒くんも『奇遇だね、俺もそいつを追いかけ回してたんだ』って微笑むの。

 その笑顔に、サイクロプスくんの心がじわりと解けるの。心の雪解け水は青黒くんによってさらに温められて、恋心の熱湯になるの。



 …………いよっしゃあ、盛り上がってきたぜええええええ!


 二人の恋が始まるきっかけのためにも、ここは私が一肌脱いだろうやんけ!!


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