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悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
アステリア学園中等部一年
52/391

腐令嬢、許されず


 この場にネフェロがいたら、半狂乱で『私はそんなことをしておりません!』と涙ながらに訴えただろう。


 泣き乱れるネフェロ、見たかったなぁ。きっと萌える表情してくれたよなぁ。入学式の保護者席なんていいから、今すぐ飛んできてくれねーかなぁ。



 私が現実逃避したのは、机の前に立つ誰かさんから、もんのすんごい殺気を感じたからだ。



「リゲルさん、それは本当なのですか? 私、そのお話にとても興味があります」



 顔面は無表情、しかし明らかに意気揚々といった感じでステファニがリゲルの机に手を付き、ぐっと顔を寄せる。


 しかし、大好物であるはずの美少女✕美少女を前にしても、イリオス殿下から放たれる殺意の波動は少しも収まらなかった。


 あ、これ死ぬかも。


 やっべ、死亡フラグ回避できなかったわー。そっかー、私ここで死んじゃうのかー。こんな死亡ルートもあるなんて、知らなかったなー。こりゃクラちゃん一本取られたわー。



「あ、ごめんなさい。あたしの妄想の話です。でも今思い出したら、なかなか萌えるシチュだな〜って我ながら軽く感動しました!」


「ええ、ドS化したネフェロ様と殿下とのカップリングとは盲点でした……やはりリゲルさんの発想は素晴らしいですね。私もこれからは妄想のバリエーションに加えたいと思います」



 こちらの気も知らず、リゲルとステファニは激しく盛り上がっている。


 お二人共ー、少し黙ってー。イリオス様のお怒りに気付いてー。そろそろ私、奴の冷気で凍え死にしそうよー。



「でしたら、SS書きますよ。書き上がったら皆にもお披露目して、また仲良く楽しみましょう! あ、そうだ、お名前教えていただけます? あたしはリゲル・トゥリアンっていいます。あなたも、クラティラスさんのお友達なんですか?」



 ここでリゲルは漸く、ステファニから視線をイリオスに移し、輝くばかりの笑顔を向けた。



「イリオスです……イリオス・オルフィディ・アステリア。クラティラスさんとは友達、というか婚約しております」



 俯いた状態で、イリオスが低く己の名を告げる。



「わあ、王子様みたいな名前ですね。で、クラティラスさんの友達じゃなくて婚約者…………えっ!?」



 今度は、リゲルが固まる番だった。



「あわわ……ほ、本物? 本物の、イリオス様……!? あたあたあたし、やっちゃった!? やっちゃいましたね!? これもう、取り返しつかないレベルですよね!? ならもうしゃーねーや……って開き直れるかーー! 嘘ダメどうしよう、どう……そうだ、こんな時こそ妄想だーー! じゃなくてえ! それが原因でこんなことになってるんだってばぁぁあぁぁうわああああん!!」



 ……可哀想に、ひどく狼狽しておられる。



 ガンガン机に頭を打ち付けてから、やっと詫びるということに思い至ったらしい。リゲルは椅子を蹴倒して立ち上がり、お次はお辞儀がてら机に頭をガンガンやり始めた。



「ま、まさか、あの時助けてくださった方がイリオス様だなんて思わなくて、あぅ、あの…………すみません! ごめんなさい! お願いだから殺さないでください! 家では、病弱な母がずっと寝込んでいるんです! 私がいなくなったら、母まで死ぬことになります! 少しでも憐れに思われましたら、どうか御慈悲を!!」



 そのお母さん、もう病気はとっくに治って今日も元気に入学式に参戦してるって言ってたよね?

 今頃はきっと、入学式の会場となる体育館で、ネフェロと一緒に保護者席争奪戦やってるよね?



 ステファニに命じてリゲルのガンガンを止めさせると、イリオスは彼女に優しく微笑んでみせた。


 ヒロインが一目でトゥンクトゥクンするイリオスマイルだが、ゲームに比べるとひどく弱々しいし引き攣ってるし、パワーダウンもいいところだ。これで惚れさせるには、残念ながら火力不足だな。



「だ、大丈夫ですよ、リゲルさん。気にしてませんから。ここは『アステリア学園』、王子といえど扱いは皆と同じ。しかしできたら、今後は僕でそのような妄想をするのは控えていただ……」


「大丈夫だってよ、リゲル! セフセフ!」



 私はイリオスの言葉を遮り、床にへたり込むリゲルの肩を叩いた。



「よ……良かったーー! 例の製本を受け取る前に危うく死ぬところでしたーー! ないはずのダブルゴールデンボールが縮み上がりましたよーー!」


「そうでした、製本版がそろそろ完成する頃でしたね。可能であれば、私もほしいです!」



 すかさず、ステファニも食い付いてくる。



「うん、近々届く予定なの。もちろんステファニの分もあるよ! せっかくだから、リゲルにサインを書いてもらって……」



 笑顔で話していた私は、しかし次の瞬間机に沈んだ。イリオスのバッグが脳天を直撃したせいで。




「…………クラティラスさん、後でちょっとお話があります。逃げたら王国軍総動員しても追い詰めますから、そのおつもりでね?」




 絶対零度を具現化したかのような冷たい笑みをぐっと寄せると、イリオスは至近距離から私に囁いた。



 リゲルは許しても、私のことは許してくれないらしい。ひどいや、ヒロイン贔屓だ。


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