表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
アステリア学園高等部一年
313/391

腐令嬢、ジョブチェンジす


 さて、パーティーではギリギリのラインで事なきを得られたけれど、そんなものはほんの序章に過ぎない。


 翌週から留学生としてアステリア学園にやって来たカミノス様は、同時に周囲がドン引きするほどの猛アタック・オン・ザ・イリオスを開始した。



「イリオス、今日のランチはヴォリダから連れてきたシェフに特別に腕を振るわせたの。きっとあなたも気に入ってくれると思うわ。楽しみにしていてね」


「ありがとうございます。カミノス様からお食事に誘っていただけるなんて、身に余る光栄です」


「それと、授業が終わったら、また学園内を案内してくださる? まだどこに何の施設があるのか覚えられなくて、移動教室の時に戸惑ってしまうのよ」


「わかりました。では放課後にお迎えにまいります」



 アステリア学園では、一限目の授業開始前に担任教師が教室に顔を出し、連絡事項などを伝える簡易な朝礼が行われる。それまでの間、カミノス様は数名の護衛を引き連れてウチのクラスを訪れ、ギリギリの時間までイリオスと談笑する。この数週間で、それが毎朝の恒例となりつつあった。毎日毎日、よく飽きないよなぁ。


 懸命に欠伸を噛み殺していたら、足元から軽い衝撃が走った。カミノス様が去り際に、イリオスの前の席にいる私の椅子を蹴っ飛ばしていったのだ。これもまたいつものことである。


 カミノス様をお送りするためイリオスも出て行くと、クラスにやっとほっとした空気が戻った。カミノス様がいらっしゃる時に喋っていると、うるさい耳障りだしばくぞとお怒りになりあそばれるので、皆黙っていなくてはならないのだ。



「……クラティラスさん、今日もお疲れ様です。毎日あんなことをされて、本当は辛いでしょうに……大丈夫ですか? いえ、大丈夫なんかじゃないですよね。ごめんなさい、あたし、全然力になれなくて」



 隣の席から、リゲルが金色の瞳を曇らせて詫びる。愛する婚約者を横取りされかかっている上に、嫌がらせまでされている――彼女はそう思って心配してくれているようだ。


 リゲルだけじゃない。



「クラティラス様、どうかそんな暗い顔をなさらないでください。何があろうと、私がついております。私はいつでもクラティラス様の味方です」



 リゲルの後ろの席にいたステファニも、静かに私に向けて励ましの言葉を送る。

 通常営業の無表情ではあったけれど、その顔には怒りとやるせなさがほのかに滲んでいた。彼女も歯がゆい思いを懸命に堪えているんだろう。



「クラティラス、自信を持て。イリオス殿下のお心はきっと変わらない。殿下は何年もお前一筋でいらっしゃったのだ。いざとなればお兄様のここ、空いているぞ? 今からでも飛び込んでみるか? ん?」



 お兄様はそう言って微笑み、ぽんぽんと広い胸を叩いてみせた。


 冗談ぽく言ってるけど、冗談じゃないよね。割と本気だよね。空いてても飛び込まんわ。ノーサンキューだわ。



「ヴァリティタの言う通りだよ。ミノちゃんとは小さい頃から仲良くしてたけど、イリオスはクラティラスを選んだんだからね。ミノちゃんの好き好きアピは今に始まったことじゃないし、気にしなくていいよ。ほら、飴ちゃんでも食べて元気出しなって!」



 お兄様とステファニの間から、クロノがからからと明るく笑う。そして胸元のポケットから取り出したキャンディを、私の方へと投げ寄越してきた。


 キャッチしてふと周囲を見ると、クラスの皆までもが私に哀れみの目を向けている。



「皆、ありがとう。私は平気よ。カミノス様に失礼があってはいけないもの。ちゃんと理解しているから、心配しないで」



 と笑顔で答えたものの、内心はとても複雑だった。


 だって今までずっと『第三王子殿下の婚約者だからって調子こいてる嫌な女』って扱いに慣れてたのに、ここで急に『嫌な女に婚約者を奪われそうになっている可哀想な令嬢』に強制的にジョブチェンジさせられたんだよ? 反応に困るわ!


 ゲーム開始早々、悪役令嬢の私が悲劇のヒロインポジションになるってどうなっちゃってんの……。


 一応はカミノス様の登場も『ゲームのシナリオにはなかった展開』ではあるけれど、素直に喜べない。むしろこの改変で死亡エンドが遠退くどころか、さらに近付いたような心地すらする。カミノス様はVIP中のVIP、そんな人からあからさまに目の敵にされてるんですもの。



 しかし私が最も恐れているのは、カミノス様のエネミーフォーカスがリゲルに移ることだった。


 イリオスに執心するカミノス様を見ていて、ふと思ったのだ――ゲームのクラティラスに似てるな、と。



 恐らく『世界の力』は、私を殺すという目的達成と戦乱の未来を成就させるために、リゲルを続編のラノベのベースとなる『イリオスルート』に進ませたいと考えているはずだ。だからハニジュエがデスリベになったり、ファルセがアンドリアに恋をしたりしても、大した問題ではないと看過してきたのだと思われる。

 続編のラノベの主人公になるというお兄様に関しては、シスコン拗らせすぎてヤベー方向に行っちゃってる気がするけれど、それも含めて二年遅れて卒業しても影響はないんだろう。


 しかし他の攻略対象者達の変貌については構わないにしても、イリオスは別だ。


 その証拠に、彼に関するイベントは確実に行われている。回想シーンで出てくるまだ幼いリゲルとの出会いはしっかりと叶えられたし、二人して避けようと奮闘したのに私達は婚約させられた。お兄様にキ(自主規制)された事件の時だって彼はラノベ通り、呼ばれたように現場に現れた。


 カミノス様は、ゲームに出てこない人物。だけどサヴラのように途中離脱しない限りは、明らかに『イリオスルート』に大きく干渉する。



 で、思ったんだよね……もしかして、『悪役令嬢』を交代させられたんじゃないかって。



 今はもう『クラティラス・レヴァンタ』がリゲルをいじめるなんてありえない。


 でもゲームでは、悪役令嬢が必要となるイベントもある。クラティラスがヒロインを陥れようとした行為が事件を引き起こして大きな山場を作ったり、逆に裏目に出て攻略対象者達の好感度を上げたりと、私の意地悪必須なシーンは少なくない。


 なのに私にはその役割は果たせそうにない。


 そこで『世界の力』は、クラティラス・レヴァンタを『悪役令嬢』の座から引きずり降ろそうと考えたんじゃないのか?


 カミノス様という新たなキャラは、その役にうってつけだ。ゲームのクラティラスばりに独占欲をむき出しにしてイリオスに迫ってくれるから、リゲルにだってプレイしてた私もドン引きしたようなえげつない嫌がらせを余裕のハナホジおならプゥでできるに違いない。おまけに『婚約者のクラティラスを邪魔者として断罪することも可能』ときた。何という万能選手だ。



 これは、非常に由々しき事態である!



 地道に続けてきたオホホ高笑いの練習が水の泡に……って意味不明な対抗心も芽生えてるし、どうしたもんか。


 イリオスに相談したいけど、奴は隙間時間までびっちり押さえてるし、無理に会おうとしてカミノス様に秘密の旧音楽室の存在がバレちゃさらにマズイ。


 悩みすぎて頭がボムりそうになったので、糖分を補給しようと私はクロノからもらったキャンディを開いた。すると包み紙に、小さな文字で何か書かれている。



 これは、もしや――――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 全て!! [一言] 節トキ様引きが上手すぎです……! 何が書いてあったのか気になる〜w 一応結構酷いことされてるのにポジティブに軽く流してるクラティラス好きです……!!(´;ω;`) 世界…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ