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悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
アステリア学園高等部一年
298/391

腐令嬢、ミッション完了す


 お兄様にしこたま怒られ、半泣きのリゲルに直してもらったスカートを半泣きで履いたところで、やっと担任の先生が教室にやってきた。


 こんなに遅くなったのには、理由があるらしい。



「先程連絡があったのですが、今日からこの学年で共に学ぶ予定だった特待留学生、ペテルゲ・マグノリア・ヴォリダくんの来学が急遽延期になったそうです。入学を中止するのではないとのことなので、クラスは違っても彼が登校してきた際は皆であたたかく迎えて、いろいろ教えてあげてください」



 死にものぐるいで反省文を書いていた私の手が止まる。


 ペテルゲ・マグノリア・ヴォリダ――ペテルゲ様。ヒロインの攻略対象の一人であり、このゲームの私の最推しキャラだ。


 先生達はきっと、彼が登校してくるのを待っていたんだろう。ペテルゲ様は、隣国といってもアステリア王国とは桁違いの大国――このガラクシア大陸の中で最大にして最強なるヴォリダ帝国の第四皇子なのだから。


 目立つ容姿をしているのに見当たらなくて不思議に感じてはいたけれど、一体何があったんだろう?

 ゲームでは彼も他の攻略対象達と同じく、入学式の日にヒロインとの出会いイベントがある。来学延期ってことは、今日は学校にいない……んだよね? これって、出会いイベントそのものがなくなっちゃったってわけ?


 そういえばイリオスは、ペテルゲ様と交流がある。彼なら何か知っているかもしれない。


 そう考えて、私は後ろの席にいるイリオスをそっと振り向いたのだが、彼は静かに首を横に振るのみだった。イリオスの表情を見るに、何かを隠しているんじゃなくて、彼にとっても想定外の出来事だったらしい。


 まさか、ゲームに変化が起こった?


 でも『世界の力』は、頑ななまでにシナリオ通りにイベントを進行させようとしてきた。他の攻略対象達との出会いだってゲームの通りに起こったし、何より『世界の力』の望みは『クラティラス・レヴァンタの死』――私を殺してゲームを終了させ、次のステージとなるラノベの世界に進むことを求めている。


 とはいえロイオンがハニジュエからデスリベに変わったり、お兄様が我々と同じ一年生になった件に関しては、強制的に元に戻そうとはしなかった。それはきっと『世界の力』が向かいたがっているゲームの結末に影響がないからだ。つまりペテルゲ様の不在は、このゲームにとっては些細なこと、なんだろうか?


 だとしたら、残念だなぁ……ぬるぬる動く生のペテルゲ様にお会いしたかった。死ぬかもしれないんだから、ちょっとくらいご褒美くらいくれたっていいじゃんか。


 とにかくペテルゲ様がいらっしゃらないなら、ヒロインとの出会いイベントぶっ潰しミッションはこれにて完了ってことよね?


 ちょっと腑に落ちないものの、無理矢理自分を納得させて私は反省文を書く作業に戻った。が、そこで思い出した。もう一人、攻略対象者がいたことを。


 その人物は、朝のイリオスイベントの次に間髪入れず登場する――のがゲームの流れだったのだけれども。



「ね、ねえ、リゲル……レオは? あの子、この学校に合格したんだよね?」



 ふわふわの金髪にピンクの大きな瞳に華奢で小柄なボディとキャラ造形があまりにも可愛すぎるせいで、男の娘扱いされることが多かったヒロインの幼馴染、レオ・ラテュロス。


 リゲルと一緒にいると確かに百合にしか見えなかったけれど、しかし中身は誰よりも彼女を守りたいという気持ちが強い。なのでいざという時は本当に頼りになる存在……というのがゲームでのイメージだったのに、リアルではキュートな外見を裏切り、リアクション芸人ばりに楽しい反応をしてくれる子だと私はよくよく知っている。



「ほえ?」



 反省文を既に書き終えて妄想の世界に突入していたリゲルは、私に声をかけられると夢見るような瞳を向けた。



「んー、レオですかぁ? あの子にエロを任せるのはまだ早い気が……ああ、でも可愛い顔してテクニシャンな小悪魔受けにしてもいいかもしれませんねぇ……」



 グヒヒと黒い笑みを浮かべるリゲルに、私は頭を抱えた。


 こいつ、もうダメだ。脳内がエロBL妄想満開で薔薇色に染まってやがる。



「そ、そうじゃなくて、一緒に登校しなかったの? 入学式でも見かけなかったけど、学校には来ているのよね?」



 諦めずに再度問いかけると、リゲルは金色の目をぱちくりと瞬かせてやっと正気に戻った。



「あっ……いけない! そうだった、レオと待ち合わせしてたのにあたし、春爛漫な空気に浮かれてうっかり忘れて、いつも通りに一人で学校に来ちゃって……え? まさか」



 リゲルの桜色の頬が青褪める。私はそんな彼女から逸らした目を、再び反省文に落とした。多分というか間違いなく、そのまさかだと確信したので。



『リゲルちゃん、早いよっ! 俺のこと、置いてかないでよねっ!』



 モブを追い払ったイリオスと別れた後、校門を通り抜けたところでヒロインを追って現れるはずだったレオ・ラテュロス。


 残念ながら、彼はその台詞を吐くことはなかった――待ち合わせ場所に置いてけぼりを食らい、下校したリゲルに拾われるまで、律義にずっと一人で待機していたせいで。



 よって欠席者は二名。


 ゲーム初日に起こるヒロインと攻略対象達との出会いイベントは、こうして全員分、何とか改変することができた。


 しかし出会いイベントは、自動で起こる言わば顔見せのムービー。つまりゲームの内容とは全く関係がない。選択肢によって好感度が変化していくゲームの本番は、これからだ。


 江宮(えみや)に教わったんだよね……ええと確か、バタフライ効果とかいうやつ。小さな出来事の変化が後に大きな変化をもたらすことになるかもしれないんだって。それに期待して、思い出せる限りのイベントを潰そうって、二人で決めたんだ。


 今はそのくらいしかできないけれど……だからって世界よ、私を簡単に殺せると思うな。


 ただ死にたくない、生き延びたいっていうだけじゃない。私の命と引き換えに、どうやらこの世界は戦乱の混沌の時代へと進むらしい。だから大切な人達の未来を守るためにも、私は最後まで諦めずに抗う。


 たとえ二度目の死を回避できなかったとしても、未来に一矢報いてみせる。


 クヤシィデス・オジャンダの件については、死んでも許すつもりはない。もし殺されても、あの世で神々をBL沼に落として腐仲間にして()レンズ()ォースで再度生まれ変わらせてもらって、必ず仕返しししてやるんだから。やられたら百倍にしてやり返すのが私の主義だ。


 『世界の力』よ、首を洗って待っとけ! 首があるかどうかは知らないけどな!!


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