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悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
アステリア学園高等部一年
296/391

腐令嬢、パンツ晒す


 彼は退屈そうな表情で、まるで眼鏡をフィルターにしたかのように周囲の喧騒を冷ややかに跳ね返している。その横顔にも、何となく見覚えがあった。


 彼の二つ後ろ、窓際列の最後尾ではイリオスが机に齧りついている。その隣にはステファニが、ステファニの隣にはクロノが、クロノの隣にはお兄様が同じように俯いて必死に何かを書いていた。皆揃って、真剣な顔で集中している。多分、反省文を仕上げているんだろう。私も急いで取り掛からなきゃいけない。


 けれど、その前に。



「クラティラスさんの席はあたしの隣に……ぎゃあん!」



 止める間もなく、リゲルは通路で盛大に転んだ。しかも勢い良くスライディングし、スカートが捲れ上がってパンツ丸見えになったではないか!



 ここまではゲームと同じだ。でもゲームとは、ちょっと違う。



 ねえ……ゲームのリゲルは、普通に白のパンツだったよね? なのに何でこいつ、とんでもなくキモ怖い悪魔顔がデカデカとケツにプリントされたパンツなんか履いてんの?


 お母様もドハマリして、私にもいくつかこの悪魔顔グッズを寄越してきたけどさ……もしかしなくてもこの悪魔顔シリーズ、アステリア王国の流行りなの? アステリア民の感性がわからないよ……!


 あられもなく曝け出されたリゲルのお尻に、ふぁさっとハンカチが落ちる。側の席に座っていた男子生徒が、気遣って趣味ゲロ悪なパンツを隠してくれたのだ――と察した頃にはもう遅かった。



「全く、何をしているんだね、君は……」



 低い呟きに恐る恐る視線を向けてみれば、性格を表すようにきれいに撫で付けたプラチナブロンドの髪を、窓から差し込む光が艷やかに照らす様が目に映った。細いフレームの眼鏡の奥には、ぞくりと背筋が寒くなるほど美しい紫の瞳が鋭い光を放っている。



 …………ヤバイ!


 リゲルのクレイジーイカレパンツから我が国における悪魔顔の流行についての考察までしかけたせいで、うっかりしてた!!



 この眼鏡男子は、ディアヴィティ・フェンダミ二爵令息――実物に会うのは初めてだけれど、『アステリア学園物語〜星花の恋魔法譚〜』の攻略対象の一人だ。


 初登場時に『転んだヒロインにハンカチを投げ寄越す』っていうイベントを起こす……のだが、やってしまった。彼との出会いイベントを避けられなかったよーー!!


 泣きそうな目で救いを求めるようにイリオスを見れば、顔面蒼白となってこちらを見つめ返している。彼もまた、目先の反省文に気を取られてうっかりなさっていたようだ。


 それより、どうしよう?

 出会いイベントを潰せなかったからといって、ディアヴィティルートが確定するわけじゃない。後でいくらでも幻滅させてフラグをバキボキに折れば取り返しはつくだろうけど……何事も最初が肝心。ここで何とかしておいた方が、後々やりやすくなるよね?


 小さな決意を胸に、私はリゲルに駆け寄った。



「アラヤダー、リゲルー、ダイジョーブー!? ……ッ、ソイッヤー!!」



 ヒロインと同じように転んだ……と見せかけて掛け声と共に繰り出したるは、前方宙返りからのブリッジ着地。


 自分のインパクトでリゲルとの出会いを上書き消去しようという、マイ苦肉の策である!



「ひいっ!?」



 逆さまの視界で、ディアヴィティが悲鳴を上げてのけ反る。その拍子に椅子が倒れて、彼の方がすっ転んでしまった。およ、驚かせすぎちゃったかな?


 ブリッジのまま、私はディアヴィティに微笑みかけた。



「まあ、ごめんなさいね。お恥ずかしい姿をお見せしてしまったわ。怪我はない?」


「あ、ああ、大丈夫だ…………は!? クラティラス・レヴァンタ一爵令嬢!?」



 お会いしたことはないけれど、彼もまた私の存在は存じていたらしい。


 これでも一応は第三王子の婚約者、しかもディアヴィティの父であるフェンダミ二爵は前宰相で現在は法務卿だから、長らく外務卿を務める私のお父様とは顔見知りのはずだ。どこかのパーティーでニアミスしていてもおかしくはない。



「私の名前をご存知でしたのね、嬉しいですわ。これからはクラスメイトとしてよろしくお願いしますわね、ディアヴィティ・フェンダミ様」



 にっこりと私は令嬢に相応しい優雅な微笑みを披露してみせた。しかしディアヴィティはさっと目を逸らし、ぼそりと告げた。



「いや、よろしくするどころじゃないだろう……早く起きて、己の現状を把握してくれ。皆が困っている」



 ディアヴィティに促されて、ブリッジのまま首を巡らせてみれば、皆が唖然として固まっている。


 リゲルはいつの間にか立ち上がっていたようで、悲しげな表情でこちらにやってきてディアヴィティのハンカチをそっと私の顔に被せた。



「ちょっと、リゲル!? 何するの!?」


「もうこうするしかないと思って……だってこのハンカチじゃ隠しきれませんもん。クラティラスさん、お腹まで丸出しになってますよ……」


「えっ!?」



 どうやらリゲルよりひどい状態になっていたらしい。


 やたら下半身が涼やかだと思ったら、そんなとこまで披露しちゃってたの!? 慌てて私はブリッジから跳ね起き、乱れた衣類を整えようとした――のだが。


 履いていたスカートは、床に落ちていた。手に取って確認してみたら、宙返りした時にやらかしたようで金具が壊れてた。


 ついでにすっかり忘れてたけど、今日はリゲルを笑えないくらいヤバいパンツだった。オシャレならぬオショレなお母様が海外から仕入れてきた特注品で、カボチャパンツをベースに原色から金銀までいろんなカラーのヒモがわさわさもさもさ垂れ下がってるという、カラフルな腰ミノみたいなやつ。


 ドロワーズの代わりにもなるから何気に気に入ってるんだけどさ……これを入学式に履いてきちゃうくらいの勝負下着にしてるってことは、バレたくなかったなぁぁぁ!



「クラティラス!? おまおまお、お前っ、こんなところでスカートを脱いで何をしているのだ!?」



 反省文を書き終えたらしく、腰ミノパンツ姿になってる私にやっと気付いたようで、お兄様がマッハを超えそうな速度で駆け寄ってきた。


 上着をさっと脱いで隠して庇ってくれるって、こんなにもキュンとするものなのね……はぁ、やっぱりお兄様、超カッコイイ!


 それに比べて、と私はイリオスをチラ見した。婚約者のヤバパンバレ危機だというのに、第三王子殿下は白目を剥いて座ったまま気を失っていた。


 最推しの顔面と謎い下着との落差に、耐え切れなくなったんでしょーね……ゲームでもクラティラスがこんなパンツ履いてたかもしれないと思ったら、悪役感満載なオホホ高笑いも高飛車フルスロットルな台詞も台無しだもん。



「ヴァリティタ・レヴァンタ……」



 お兄様の上着で腰回りをカバーしながら、リゲルにスカートを直してもらっていると――ディアヴィティの小さな声が耳を打った。


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