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悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
アステリア学園中等部三年
269/391

腐令嬢、閉じる


「クラティラスぅぅぅん! ただいまぁぁぁん! んもぉう、ますます可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いなぁぁぁん! とってもとっても大好き大好き大好き大好き大好きぃぃぃん!」



 新年を目前にした年末、四ヶ月ぶりに我が家に帰ってきたお兄様は、地獄のようにウザかった。しかも今回は三日なんて短期間じゃなくて、一週間も滞在するというから迷惑極まりない。


 ダンスやら勉強やらで忙しいと言っているのに、私がどこに行くにも何をするにもお兄様は付いてくる。逃げても巻いても、振り切れない。気付けばいつでも奴がいる。何なの、この移動式ウザインフェルノ……超絶目障り且つ耳障り且つウ(ザわ)りなんだけど。


 ちなみにお兄様には、私がプラニティ公国の学校に行こうとしていることは話していない。両親にも口止めしてある。


 だってそれを知ったら『嫌だあああ! だったら私も留学継続するー! クラティラスと二人でラブラブでプラニティライフを満喫するー! 略してラブラニティライフーー!!』とか何とか抜かして、さらにウザ面倒なことになるのが目に見えてるもの。これ以上ウザくなったら、さすがに耐えられないよ……死亡エンドどころか、ゲーム本編開始前にウザ死しちゃうかも。


 そんなウザティタお兄様だけれど、私の邪魔ばかりしているわけじゃない。ダンスのレッスンでは相手役を務め、勉強も教えてくれた。ダンスにしても勉強にしても、お兄様は人並み以上だ。あまりの優美さにダンスの鬼講師を感涙させたし、勉強についても教え方が上手いから詰まっていた難問もするする解けるようになった。なのに将来の夢は妹と一緒に王子の嫁になることだなんて、ギャップ萎えにも程があるよ。


 その夢を叶えるための一歩として、お兄様は何とお料理までマスターしていた。聞けば、イリオスが手作りお菓子を好むという、当たってるようで外れてる情報を入手したらしい。誰だ、そんな適当なことを教えた奴は。イリオスはクラティラス製のゲテモノイーターだと、ちゃんと教えてやれ!


 そうよ、どうせ私はゲテモノメーカーよ。そこは素直に認めるわ。だってお兄様の作ったパンケーキ、美味しすぎたんだもん! 私が作ったのとは見た目からもう全然違って、ふわっふわだったもん!


 イリオスもあのパンケーキを食べたら、間違いなくゲテモノ好きからグルメに開眼すると思うわ。私も自分が男だったら、お兄様とカプりたいなぁってちょっと思ったくらいだし。料理上手男子って、やっぱり攻撃力高いよね。せっかくだから、お兄様が家に滞在してる間にいろいろ作ってもらおうっと。



 レヴァンタ家の家族が四人揃って、心からの笑顔で新年を迎えられたのは、およそ五年ぶりになる。去年は面子だけは揃っていたけど、すごく余所余所しい空気だった。でも今年は昔と同じ、ううん昔以上に明るく楽しく騒々しく、これまでの時を取り戻すように家族皆で仲良く過ごした。



 なのに――ネフェロがいない。これからも、ネフェロはいない。



 年末に、お父様から告げられたのだ。アズィムを通じて、ネフェロから退職願が届いたと。そしてお父様はそれを受理したと。


 理由はやはり、体調不良とのことだった。もしかしたらあの時の怪我で、後遺症が残ってしまったのかもしれない。


 アズィムが親代わりだったというから、その妻であるイシメリアもネフェロのことはよく知っているはずだ。現在、二人はレヴァンタ家に接する家事使用人スペースにて共に暮らしている。二人にはイシメリアが侍女として復帰する前に暮らしていた持ち家があり、アズィムも休みの度に戻っていた。


 ネフェロはそこにいるんだろうか? そこに行けば、ネフェロに会えるんだろうか?


 イシメリアに場所を聞いて訪問したいという衝動に駆られたけれど、私はぐっと堪えた。


 もしあの怪我のせいで仕事に復帰できなかったのだとしたら、私の責任だ。ネフェロは私を恨んでいるかもしれない。顔を見せたら、ひどい言葉を投げつけられるかもしれない。



『大切で愛おしいからこそ、本気で怒って本音を見せられる。クラティラス様は、私が想像もできなかった成長した弟を見せてくれるのです』



 無意味だと笑われようと、私はネフェロのあの言葉に縋っていたかった。大切で愛おしい、そう思われていると信じていたかった。


 美しい記憶は美しいままで。


 アルバムをそっと閉じるように、私はネフェロとの思い出に蓋をした。そして、いつか彼に会う勇気を持てるまで、深追いするのはやめようと決めた。


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