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悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
アステリア学園中等部三年
235/391

腐令嬢、兄を処す


「ななななな……!」

「どどどどど……!」

「ままままま……!」



 お父様とお母様と私、それぞれが言葉にならない声を漏らす。


 三人がちゃんと言葉を音声として発することができていたら、繋げると『何故』『どうして』『魔法を?』という疑問文になったはずだ。



「先に言っておきますが、断じて誰かを攻撃するために欲したのではありません。むしろその逆で、守るために学ぼうとしたのです」



 さすがはお兄様、我々の言いたかったことをしっかり読み取り、お答えくださりましたよ!



「ま、守る? 何をだ?」



 何とか衝撃から立ち直り、お父様が問い返す。するとお兄様は軽く間を置いてから目を泳がせつつ、たどたどしく説明した。



「え、えーとまあ、あのですね? バリアのようなものを使えるようになれば? その……クラティラスの清らかな純潔を、他の男から守れるのではないか、と思って?」


「はああああ!?」



 私は叫んで、お兄様に向き直った。



「バッカじゃないの!? そんなくだらないことのために、あんな危険なところに行こうとしてたっていうの!? どんだけバカなの、このバカティタ!!」



「たとえお前が嫁いでしまっても、バリアで純潔を守り通せばイリオス殿下だって諦めてくれるだろう!? それにイリオス殿下以外の男からもお前を守れるのだ! バリアは超すごくて便利なのだぞ!?」



 私に怒鳴られながらも、お兄様は懸命に言い訳する。


 いやもうこれは言い訳じゃないよね。ただの開き直りだよね!



「超すごくて便利じゃないわよ! このバカバカバカ息子っ!」



 しかし私以上にブチ切れたのは、お母様だ。



「どうしてお前はそんなにバカなの!? アステリア学園でもプラニティ公国の学校でも成績は良いのに、まさかバカでアホで野獣みたいな妹以上のバカだっただなんて……やはり学校という機関などでは、バカは直せないようね! 私が教育し直して差し上げますわ! だからとっとと家に戻ってらっしゃい!!」



 お兄様のシャツの襟を締め上げんばかりに掴んで、キレ散らかすお母様の恐ろしさといったら……怖すぎて、もうお兄様に文句を言う気も失せてしまったよ。


 お兄様も涙目になってるし。誠にザマミロだわ。



「い、いや……あのお母様、しかしイリオス殿下がまだ帰るなと……」


「イリオス殿下が何だというの! お前はそのイリオス殿下に喧嘩を売る気満々だったのでしょう!? バリアでクラティラスの貞操を守れたとして、その後はどうするつもりだったの!? 下手をするとクラティラスが魔法を使って殿下を拒絶したと勘違いされて、守るどころか危険に晒していたかもしれないのよっ!?」



 お兄様がはっとして私を見る。これは初めて気付いたって顔だなぁ。


 イリオスと貞操争奪戦する可能性はゼロ突き抜けてマイナスだし、イリオス自身も魔法を使えるっている秘密を持ってるから問題ないけど……この国での魔法の行使は危険だってことくらい、私にもわかるよ。未然に防げて本当に良かった。



「…………ダクティリ、そのくらいにしなさい。ヴァリティタも、深く反省しているようだよ?」



 こういう時、こうして救いの手を伸べるのはいつもお父様だとレヴァンタ家では決まっている。


 フーッフーッと冷めやらぬ怒りを露わに荒い息を吐くお母様を優しいハグで宥め、項垂れるお兄様の頭を慈愛たっぷりのナデナデで癒やす一連の流れも手慣れたものだ。



「ヴァリティタ、今後は思い詰める前に私に相談すると約束してくれ。成人したといっても、お前はまだ経験が浅く未熟だ。お前だけじゃない、私自身もまだまだ精進が必要だと思っている。これからは協力し合って、より良い道を模索していこう。何かあれば私もお前を頼るから、お前にも私を頼りにしてほしいのだ」



 そしてトドメの一撃は、柔らかくてあたたかな微笑み。喧嘩を収める時のみ出てくる、お父様の必殺スマイルだ。


 この笑顔には毎度ながら、娘の私も見惚れてしまう。だって普段はヒゲ面のどうってことないオッサンなのに、この時のお父様ったら本当に格好良くて凛々しくて神々しいんだもの。ギャップも重なって萌え不可避よ! ゲームで持て囃されてたイリオスマイルなんか比にも屁にもならないわ! 腐女子の枠を越えて、単体萌えしてしまうに決まってるじゃない!!


 オジ受け好きといったらデルフィンだけど、彼女にもこのお父様のことは内緒にしてるんだ。だって家族で独り占めしたいもん。


 きれいなお父様と密かに名付けたスマイリングでビューティフルなダディには、レヴァンタ家では誰も敵わない。隣でうっとりしてるお母様も、長年側にいるアズィムですらもだ。


 もちろんお兄様も例外ではない。


 すぐにお兄様は素直に頷くと自らお父様に抱き着き、子ども時代に戻ったようにごめんなさいごめんなさいと何度も謝った。


 そんなお兄様の頭と背中をよしよしと撫でながら、お父様は優しく問いかけた。



「ではヴァリティタ、何を決意したか教えてくれるね? 内容によっては、私も力になれるかもしれない」


「本当ですか!?」



 すると今までのしおらしさはどこへやら、お兄様は元気良く顔を上げ、アイスブルーの瞳を期待に輝かせてお父様を見つめた。


 あら、何でしょう? とても嫌な予感がするわ?



「これまで私は、クラティラスをイリオス殿下に嫁がせまいと躍起になっていました。しかし、それは間違っていると気が付いたのです」



 へー、やっとっすか。随分と時間がかかったもんっすねぇ。



「クラティラスは、イリオス殿下を慕っています。クラティラスが一番愛しているのは私だとわかっていますが、純潔を捧げても良いと考える程度には殿下を憎からず想っているようです。まあ一番捧げたい相手は、私に決まっておりますけれどね」



 大事なことなので二度言いましたってか?


 お前のこともイリオスのことも慕ってねーよ。純潔どころか髪の毛一本だって捧げたくねーよ。私の気持ちを尊重してくれるというなら、お前らの存在を抹消する権利を寄越せ。



「クラティラスのためにも、イリオス殿下を傷付けるようなことはしてはならない。イリオス殿下だけではありません。クラティラスを愛するなら、クラティラスが大切に想う存在を私も受け止めるべきだ。なのに私はクラティラスの可愛さに目が眩むあまり、彼女を独占しようとしてしまった……本当に愚かでした」



 え、まともなこと言ってる? 愚かだと認めてくれた?


 じゃあ私のことは諦めて、レヴァンタ家を継ぐ決意をしたのね!




「そこで私は、決めたのです…………クラティラスと共に、イリオス殿下に嫁ごうと!」




 が、それを聞いた瞬間、安心して上げかけた口角ごと私は固まった。


 視界に映るお父様もお母様も、何ならプルトナまで見事に固まっている。



「こういうわけでお父様、私にはレヴァンタ家を継ぐことはできません。しかしご安心ください。クラティラスの子は間違いなく可愛いので、私がペロペロ……いえ、イリオス殿下の世継ぎとなるでしょうが、私の子はレヴァンタ家の養子にしていただくつもりです。まだ見ぬ我が子とはいえ、側に置いておけない未来を思うと私も辛い。けれどクラティラスの子と後継者の座を争って戦うなんてことはさせたくありませんし、殿下もお許しくださるでしょう」



 ここまでくると、固まっていた我々の間に震えが伝播し始めた。もちろん、笑いを堪えての震えではない。



「心配なさらずとも大丈夫です。クラティラスを見初めた殿下なら、この私にも寵愛を注いでくださるに決まっています。私とクラティラスはよく似ていると評判ですからね。なのできっと、この私の下にも可愛い赤子が運ばれてくるはずです。私にお任せください、レヴァンタ家のために立派な跡継ぎを生み育ててみせますよ!」



 力こぶを作ってお兄様が宣言すると、私達三人は同時に叫んだ。




「こんの……バカティターーーー!!!!」




 その怒号を合図に、お父様による拳骨を連打、お母様の往復ビンタ、そして私からは膝蹴りの連発、さらには何故かプルトナまでも噛み付く引っ掻くなどして参戦し、お兄様はフルボッコにされた。



 十六歳の成人を過ぎたというのに、純潔イコール裸で一晩ハグすることだと疑わず、幼い頃に両親から教えられた通り『赤ちゃんは仲良し夫婦が寝ている間に天使が運んでくる』という話をまだ信じているほどのアホだ。私達が何故怒っているのか、全く理解できなかったらしい。



 けれど、何故だ理不尽だと涙目で訴えながらも、お兄様は嬉しそうに見えた。


 家族が本気で自分と向き合い、受け入れてくれているのだと、拳と平手と膝と牙と爪で嫌というくらいに叩き込まれただろうから。



2/22より、FLOS COMIC様にてコミカライズが開始しました。


コミックウォーカー様、ニコニコ静画様で無料で読むことができます。


漫画を担当してくださったGUNP様の描くキャラ達がとてつもなく可愛くて面白くて、感激しております。

皆様にも読んでいただけると嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ヴァリディタ、馬鹿でしょwww [一言] コミカライズおめでとうございます!!読んできました! 表紙が非常に百合百合しくていいなと思いました。尊かったです。 ……( ゜∀ ゜)ハッ!もしや…
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