《書籍発売二ヶ月記念SS》某世話係、愚痴る
【悪役腐令嬢様とお呼び!】の書籍発売から、本日で二ヶ月を迎えました。本当にありがとうございます!
その記念に、書籍となった初等部編を舞台にした記念SSを掲載いたしました。
本編は中等部二年生編の途中ですが、こんなこともあったなぁ、と初等部編の頃を思い出して読んでいただけると嬉しいです。
【悪役腐令嬢様とお呼び!】を応援してくださる皆々様に、心からの感謝を込めて。
私はとあるご貴族のお屋敷にて使用人として働かせていただいております、ネフェ……失礼、この相談は匿名でお願いいたします。
主にご夫妻のお子様でいらっしゃる二つ違いのご兄妹のお世話を任されているのですが、兄上はとても聡明。お顔立ちも美しく凛々しく、まだ子どもながらに将来有望と目されております。
妹君の方も、兄上に負けず劣らず可愛らしいお嬢様です。詳細を明かすことはできませんが、高貴なる御方に一目で見初められ、まだ十歳という年齢で最近ご婚約なされました。
私の悩みというのは、この妹君のことです。
彼女がもう、とんでもないお転婆で。名家のご令嬢とは思えないほどの跳ねっ返りで、困り果てているのですよ!
私が世話係に任命されてから、数ヶ月ほどは令嬢らしく振る舞っていらっしゃったと記憶しております。数々の我が儘で周囲を振り回すことはよくあったものの、新参の私とは殆ど口を聞いてくれず、嫌われているのでは……と落ち込むこともありました。
それが今では、彼女の破天荒ぶりに翻弄される毎日。
しかし古くから仕えている他の使用人達は、この頃の彼女の変化を好意的に受け止めているようです。
曰く、私のような年若い世話係が側についたおかげで、安心して素の自分を晒せるようになったのだろう、と。
確かにこれまでの彼女は、貴族の令嬢ゆえの不自由さを我が儘で発散しているきらいがありました。好き放題に無茶振りをしていたのは、胸に溜まった鬱屈を紛らわせるためだったのかもしれません。それが私という存在に心を許せるようになったことで解消されたというのなら、世話係として嬉しい限りです。
以前に比べると我が儘も減りましたし、癇癪を起こすこともなくなりました。何より、以前に比べると格段に活き活きとして見えます。快活になられてからはご友人にも恵まれ、毎日とても楽しそうです。
ですから、早起きが全くできない点は我慢しましょう。絵画に目覚めたせいで夜更しが増えたことも、何度起こしても目を覚まさず毎朝腹筋を駆使して怒鳴らねばならないことも、閉じた瞼の上にやたらリアルな目の絵を描いて誤魔化そうとしたことも、許します。
暇さえあれば粗末な服で偽装して、庶民の暮らす地区へ遊びに行く――これも諦めております。護衛にお供をさせていますし、そこにいらっしゃる親友の女の子に会いたいというお気持ちは理解できますので。
私をからかったり、悪戯を仕掛けたりするのも我慢しましょう。ひどい時は叱り付けることもありますが、何とか許容範囲内です。
婚約者様からお手紙が届いたと伝えると、毎度あからさまに嫌そうな顔で舌打ちするのも目を瞑ります。私さえ黙って知らないフリをしていれば、お相手に失礼になることはありませんから。
たまに飛び出す、令嬢らしからぬ荒くれ者のような言動。こちらはちょっといただけませんが、まだ矯正の余地はあるはずです。ええ、きっと大丈夫。これ以上悪化するようなら、私がしっかりと教育いたします。
しかしですね…………彼女の寝姿!
これだけはどうにも見過ごせないのです!!
寝相が悪いのは仕方がありません。寝ている間の行動を制御するなんて、大の大人でも難しいでしょう。
問題は、ベッドに至るまでの過程です。事もあろうか、彼女ときたら、寝室に行く前に脱皮の如く服を脱ぎ捨ててしまうのですよ! 男である私がいようとお構いなく!!
もちろん、何度も説得しました。なのに、ちっともやめてくれないのです。挙句の果てには『この寝姿をアステリア王国の正式スタイルにする!』とまで宣う始末。
このままご結婚されてしまったら、どうなることやら。イリオ……いえ、将来伴侶となられるあの御方に愛想を尽かされるのではないかと、想像すると不安で不安で夜も眠れません。
クラティラス様……っとゴホンゴホン、このお嬢様の悪い癖を治す方法はありませんか?
本当に悩んでおります。