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悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
アステリア学園中等部二年
158/391

腐令嬢、喧騒に揉まれる


「ね、ねえ、アンドリア。どうしてその、ファルセという男子のことが気になったの? あなたがお兄様とネフェロ以外の殿方に興味を持つなんて珍しいじゃない」



 必死に平静を装い、私はアンドリアに尋ねた。



「それが……彼から、体育祭で行われるダンスのお誘いをいただいたのよ」



 衝撃で固まる私に、アンドリアは躊躇いがちにバッグから一つの封筒を取り出してみせた。



「昨日、私の下足箱に入っていたの。会ったこともない方からお誘いいただいても、どうしていいかわからなくて……」



 全員がバタバタと席を立ち、アンドリアの元に集まる。




『体育祭で一緒に踊ってください。 ファルセ・ガルデニオ』




 白い紙にはシンプルな字体で、簡潔にそれだけが記されていた。



「イタズラにしたって、わざわざ上級生を狙いませんよねぇ?」



 リゲルが溜息をつく。しかし、黄金の大きな目はキラキラと輝いていた。初めて仲間に湧いた恋バナに浮き立っているようだ。



「本人が書いたものを入手して、筆跡鑑定しましょう。トカナさん、お願いできますか? 無理そうでしたら、私が彼のクラスに侵入し、目的の品を奪取してまいります」



 口調こそ通常通り淡々としているが、ステファニの琥珀の瞳もキラッキラだ。



「大丈夫です、任せてください。合同授業があった時に、彼と同じグループになったことがあるんです。その時に皆で書いたレポートがありますから、それを明日持ってきます。しかし私の見立てでは、これは彼の筆跡で間違いないように思いますね」



 答えたトカナも、ダークネイビーの瞳に爛々と好奇の光を湛え、眼鏡のレンズを突き破らん勢いで白い紙に視線を注いでいる。



「チッ……何で固定厨のこいつが、そんなイケメンに見初められるのよ。私はリフィにもアエトにも誘われてないのに。脳内でヴァリネフェ踊らせて満足しとけっての」



 対してリコは、横長の細い目をさらに細めてギリギリと歯噛みした。BLと夢妄想の両方で愛で倒している二人の男子からは、今年もお誘いがなかったようだ。


 あの二人、そういうのにクソほど疎そうだもんねぇ。



「リフィノンくんはアエトくんを、アエトくんはリフィノンくんを誘ったのよ、きっと。交代で男女パートを踊るだろうから、それをゆっくり眺めたらいいじゃない?」



 そんな彼女に、リバ好きドラスがニヤニヤしながら提案する。


 幼馴染同士の元気っ子な二人が、冗談混じりに『どうせお前も相手いないんだろ? だったら俺と踊る?』と言い合ってから互いに意識していく、か。うん、なかなか悪くない。



「ダンスは体育祭のラストだから、疲れて気を抜くと本当の姿に戻ってしまうことを危惧してリコさんを誘わなかったのかもしれないわ。前から思っていたけれどあの二人、人間らしく擬態している人狼みがあるもの」



 人外萌えのミアが、ほぅっとうっとり溜息を漏らす。


 ふむ、人狼ときたか。個人的には、どちらも正体を隠してモダモダしてるシチュが好みだなー。恥ずかしさのあまり、耳と尻尾だけが飛び出して……ってよりは、ここは思い切ってガッツリ人外✕人外でいってほしい。

 時を忘れて踊っている間に満月が出て、二人揃って狼の姿へと変身してしまうの。そこで互いに同族だと知って、ハッピーエンドになるのよ! あー、王道だけどいいねいいねいいね! 百億万回いいね連打したい!!



「えー、年上の渋み溢れる学年主任をもうお誘いしてるんじゃありません? もしかしたら当日に、オジサマを巡る二人の決闘が見られるかも!」



 オジサマ受け至上主義のデルフィンも妄想に突っ走り、ふっくらとした頬を緩めていた。


 おー、まさかの敵対パターンね。あの仲良しコンビが恋か友情か、選べないけれど選ばなくてはならないっていう心の葛藤、翻弄、鬩ぎ合いに苦悩する姿を見てみたいところだわ!



「そ、そそ、それなら私、ダンスなんか放り出して絵を描いていたいです! 番の人狼コンビがオジサマを巡ってダンスバトルする光景なんて、滅多に見られませんから」



 交通安全を訴えるポスターのコンテストで優勝したことが自信になったのか、様々なジャンル絵に果敢に挑むようになったイェラノが身を乗り出す。


 え、何その案……最高かよ。全私が全同意なんだけど!


 それなら私も一緒に絵を描くわ! 出来上がったらリゲルに詩を書いてもらいましょー! 否、できることならSSをお願いしたい!!



「いい加減にしてよ! リフィとアエトで勝手な妄想を捗らせるとはやめてくれる!? 彼らは天使なのよ! リバでも人外でもジジイ好きでもないの! 二人を愚弄することは、神である私が許さないわ!」


「そっちこそリフィ✕アエ、アエ✕リフィ、どっちも余裕でイケる口のくせしてリバ否定するのやめたら!? あんたは神じゃなくて、ただの高尚様気取りでしょうが!」


「信じたくないのはわかりますけど、彼らは人狼よ!? 結ばれない現実から目を背けてないで、せめて妄想の中でくらい己を解放したらしたらどうなの!?」


「ちょっと、二人は学年主任狙いだと言ってるでしょう!? そうだわ、決闘はやめにして順番に踊ればいいのよ! オジサマは優しいから、平等に愛してくれるはずよ!」


「とととところでリコさんのポジションはどこなんですか!? オジサマヒロインに辛く当たる当て馬ですか!? それとも二人、いえ二頭の相談に乗る良き友人ですか!? それによって、配置が変わるんですけれど!」



 私が萌えの世界に旅立っている間に、気付けば部室内は怒号の嵐となった。まぁ、いつものことだ。



 しかし――普段なら率先して暴れるはずのアンドリアが今日ばかりは戦に混じらず、手紙を見て溜息をついていた。



 彼女の戸惑いに曇った横顔は初めて見るもので、見慣れた喧騒の中に浮いて私の目に強く残った。


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