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悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
アステリア学園中等部二年
156/391

腐令嬢、腐ライハイする


 頭部にダメージを負った上、楽しみにしていた朝食バイキングにもほとんど参加できなかったものの、合宿は無事に終わった。


 最大の目的だった紅薔薇と白百合の交流は、きちんと図れたんじゃないかな? 紅薔薇メンバーも白百合メンバーも、それぞれ名前と顔が一致するレベルにまで打ち解けられたようだし。


 一部、大いに拗れたところもあるけれど、それだって合宿前に比べれば相手をより知ることができたわけで。


 ちなみにロイオン……じゃなくてデスリベリオンは一晩休んで落ち着いたかと思ったら、昨夜の決意をより強固にしたらしい。朝一番に『これからはデスリベリオンと呼びやがれください!』と宣言し、皆をブラックホール・ヘッドばりにドン引きさせたとリゲルから聞いた。



 可愛かったロイオンは、もういない。そして誕生するはずだったナルシストキャラ、ハニージュエルも。



 これで良かったのかどうかは、わからない。

 けどまあ本人が満足しているんだから良かった……んだろうな、うん。



 一日ぶりに家に帰ると、ネフェロとアズィムが変わらぬ姿で出迎えてくれた。


 一晩空けていただけとはいえ、我が家はやはり安心感がある。そう感じたのはステファニも同じだったようで、珍しくアズィムとネフェロに自らハグしていた。本当に可愛いんだから!


 お父様もお母様も不在だったので、使用人達にのみ帰宅の旨を告げて部屋に戻った私は、ドアの前に何かが置かれているのに気付いた。


 それは、白い封筒だった。

 手紙かと思ったけれど中に入っていたのは、ハート型の白い貝。


 心臓が、大きく高鳴る。


 昨日は、お父様がやっと休みを取れたから恒例の海水浴に行くのだと言っていた。けれど私は合宿があったせいで、参加できなかったのだ。家族水入らずで過ごしたかったのだがな、と言いながらお見送りしてくれた、お父様の寂しそうな顔が思い出される。


 てっきりお母様と二人で出かけるものと思っていたけれど――もしかしたら、反抗期真っ只中の息子も無理矢理連れ出したのかもしれない。


 お兄様は私のみならず、両親のことも無視するようになっていた。前はお父様と激しく言い争うこともあったようだったけれど、それもいつのまにかなくなった。この機会に少しでも打ち解けられたら、と考えて、お父様とお母様はお兄様も海水浴に誘ったんじゃないだろうか。



 だって――私も去年、こっそりこうして海水浴で拾った貝を、お兄様の部屋の前に置いたもの。


 だからこれはお返しに、お兄様がプレゼントしてくれたのではないかと思ったのだ。



 一応、夜に帰宅した両親と海水浴に同行したというネフェロに尋ねてみたけれど、貝の送り主はその三人ではなかった。他にも何人かの使用人も同行したというから、その中の誰かが気を利かせてプチサプライズで贈ってくれたという可能性もある。



 けれど、私はそれ以上は確かめなかった。


 バカげた希望だと笑われようと、信じたかったから。お兄様がまだ少しは私のことを気にかけてくれているんだ、って。



 なので私はその夜の内に、部屋の前に置かれていた貝を誰にも見られない場所――エロBL絵が隠してあるクローゼットの床下――にしまった。私だけしか知らない、密かな宝物にしようと決めて。




 残り僅かとなった夏休みは、やっぱり勉強勉強勉強で終わった。


 約束通りデスリベリオンは何度か家に来て、私が前世で使用していた言葉遣いを学んでいった。といっても根が上品だから、へんてこな感じになるばかりだったけど。


 ロイオン改めデスリベが話すところによると、仲の悪かったお姉様達と和解できたんだって。


 合宿から家に戻るや『跡は継がない、格闘家になる』という決意を叩き付け、ロイオンという名と共にルタンシア四爵の位も捨てるつもりだと宣言した彼に、これまで弟を蔑ろにし続けてきた姉達は唖然としたらしい。


 それでも最初は、どうせ口だけだと思われていたようだ。けど高名な格闘家に懇願して弟子入りの権利を勝ち取り、住み込みで心得を学ぶために荷物をまとめて弟が出ていくと、さすがにお姉様達も黙っていられなくなったのか、慌ててロイオンに取り縋ったという。


 これまで冷たくして悪かった、弟ばかり可愛がられているのが妬ましかっただけだ、そこまで追い詰めたのは自分達だ、どうか帰ってきてほしいと、姉達は毎日のように道場に来ては泣きながら詫びたんだと。


 そんな状況を見兼ねて、デスリベリオンの師匠はお姉様達にも格闘技を学んでみては、と勧めたそうな。曰く、人をいじめたり妬んだりするのは心が弱い証、体を鍛えれば自ずと心も研磨される、とのことで。



「それで、姉さん達も道場に通うようになって、今じゃすっかりハマってるんだぜよ。ボクに腹が立てば拳で殴ればいいし、ボクもやり返すし、おかげでわかり合えるようになったんじゃい!」



 旧ロイオン、現デスリベリオンはそう言って嬉しそうに笑っていた。


 ちなみに道場修行は中等部卒業までという約束で、親も了承済なんだと。元々コスメ販売は姉達に任せるつもりだったそうだし、一人息子には自力で道を切り拓いて生きてほしいと考えていたらしいので。




「…………ねえ、私ってそんなに話し方おかしくないよね? そりゃ令嬢にしちゃ多少荒ぶってるかもだけど、日本のJKJD基準では普通レベルだったよね? なのに、何でレクチャーする度にデスリベは狂ってくの? 覚えたての日本語で黒歴史量産するエセサムライ外人みてーに仕上がりつつあるんだが」



 今年も国王陛下の計らいでお城に呼ばれた私は、例の如くバルコニーから花火を眺めながら隣のイリオスに尋ねた。もちろん、今年も揃って浴衣着用である。



「ロイオン……いえ、デスリベの言葉遣いは確かにちょっと大神(おおかみ)さんとは違いますなー。大神さんはもっと、下品で下劣で下衆な性根が滲み溢れてますから。そこまで学ばねば、ウル()言語の習得は難しいんじゃないですかねえ」


「え、何? 私が上品で上級で上等? 知ってる知ってる、わかってるから黙っとけ、ゴミオス・カスフィディ・クソテリア。おおおお、スターマインきたーー! ヒャッハー! クッソアガるぜぇぇぇぇぇ!!」



 邪魔な下駄を脱ぎ捨て、私は連打で打ち上がる絢爛な花火に合わせて浴衣の裾を乱しながらガッツポーズで飛び跳ねた。



「ああもうっ、見た目はこんなに可愛いのに! 浴衣姿もアップスタイルの髪も薄化粧も可愛いのに! 中身が残念通り越して無惨だなんて、この世界は無慈悲にも程がありますぞーー!!」



 イリオスの心からの叫びは、花火のクライマックスを飾る派手なワイドスターマインの爆音にかき消された。



 また例のお兄様の未来についてだけれど――――迷った挙句、聞くのはやめた。


 応援する心が固まる前にロイオンは失恋したし、それにサヴラがお兄様のことを迷惑に思っているのなら彼女の方から早めに婚約を解消してもおかしくはない。


 理由がなくなったのだから、わざわざ言いたくもない兄妹の事情を打ち明ける必要などないだろう。大体、話したところで教えてくれるかは分の悪い賭けみたいなもんだし。



 何より、私自身が知りたくなかった。自分のいない未来のことを。


 ロイオンの件でほんの少し抱いた『未来への期待』に浸っていたかったのだ――たとえそれが、一瞬のまやかしであろうとも。


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