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悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
アステリア学園中等部二年
154/391

腐令嬢、秘密を明かす


「へー、おかしなことを考えてたんだなー。だったらお前は、アホウル()ってバカにし倒してた大神(おおかみ)那央(なお)を最推しに充てたってことになるけど? で、私は自分を死に追い込む役をオタイガーに振ったって? お前はともかく、何で私がそんなクソみてーな配役のクソ劇を演じなきゃなんないんだよ? どうせ夢見るなら、BLワールド転生無双の俺TUEEEチーレム主人公になるっつーの」



 皮肉を交えてせせら笑ってみせると、虚無だった江宮(えみや)の表情が僅かに動いた。それを確認してから、私はベッドを降りて奴の元に駆け寄った。



「それじゃあさ……私が私である証拠に『大神那央』しか知らない秘密、教えてあげようか? それなら納得するんじゃない?」


「大神さんしか、知らない秘密?」



 江宮が軽くたじろぐ。けれどその瞳に、好奇心の光が灯ったのを私は見逃さなかった。


 秘密という単語には、魅惑の吸引力がありますもんねー。



「一年の時にさ、イベント限定販売でやっと手に入れた『リリィユリィ』のシャーペンが壊れたって凹んでたよね?」


「は、はあ……? まあ、そんなこともありましたな。確かいつもの調子で手にした瞬間、パキッと折れて……あれはショックでした」



 そうだろうそうだろう。あの日は丸一日落ち込んで、いくら話しかけても溜息しか返さなかったくらいだったもんな。


 そこで私は釣り上げたくちびるの隙間から、隠されていた真実を声にして告げた。



「あれさー、壊したの私だったんだよねっ。良い構図を思い付いて書き留めようとしたらペンケース忘れてて、ちょうど江宮がトイレ行ったからその隙に勝手に拝借したんだわ。そしたら力入りすぎたのか、ボキッといっちゃって。ヤベッと思って、慌てて弁当からおにぎり取り出して、米を糊代わりにしたんだー」


「は!? 米!? 糊!? って、ボキッてあんた……!」


「いやはや、あの件については本当に申し訳なかった。えっと、あ、謝る気はあったんだよ? でも、そんな貴重なものだとは思わなくて……ね?」



 可愛くペロリと舌を出して誤魔化そうとしたものの、最推しであるクラティラス・レヴァンタの小悪魔ポーズでも江宮の憤怒噴火は阻止できなかった。



「貴重どころの騒ぎじゃありませんよ! あれからどれだけ探してもリリィちゃんモデルのあのペンとは巡り会えず、アニメを再生しながら土下座してリリィちゃんに謝り倒していたのですぞ!?」



 江宮が私の胸倉を引っ掴み、凄まじい形相で怒鳴り散らす。



「ご、ごごごごめんって。でもほら、おかげで変な妄想はなくなったでしょ? 結果オーライですしやすし、リトマス紙〜?」


「全然オーライじゃありませんがな! 何がリトマス紙ですか、使い方も知らないゴミカスクソアホバカのくせに! このバカ! アホ! バカアホバカアホバカアホバカアホウル腐! 今すぐ同じものを買って弁償しろーー!!」



 ――幸いにも、この嘆きの咆哮を聞きつけた護衛達がすぐにやって来てくれたため、江宮からの無謀な損害賠償請求は有耶無耶にできた。


 やっべー、うっかりしてた。

 確か『リリィユリィ』のリリィちゃんって、江宮の最推し中の最推しだっけ。クラティラス・レヴァンタは『乙女ゲーの中の一番』、アニメにゲームにラノベに漫画、それを網羅した中でのナンバーワンにゃとても適わねーよ。


 ああ、うっかり暴露するんじゃなかった…………と、待てよ?



 大きな寝言だと苦しいにも程がある言い訳で護衛達を追い払い、部屋に戻ってきたイリオスは、もう本を読む気力も失せたようで無言のままソファに横になった。


 うむ、これだけ疲弊してるなら、もう怒られる心配はなさそうだな。


 そう考えて、私は今湧いた疑問を尋ねてみることにした。



「ねえ、江宮ってさ、『アステリア学園物語〜星花(せいか)の恋魔法譚〜』以外の乙女ゲームってプレイしてた?」


「…………してませんよ」



 少しの間を置いて、冷ややかな声が返ってくる。



 だよね? 江宮って、ピュア百合以外は全て地雷だったもん。

 パッケージのヒロインに惚れたんだとしても、そのヒロインが男とくっつくためにあれこれ頑張るのが目的の乙女ゲームなんて、こいつならプレイしないよな?


 じゃあ何で、と聞く前に、旧江宮、現イリオスは死ぬほど面倒臭そうに答えた。



「別に、あのゲームを購入したのには、大した理由なんかないですよ。BLにしか興味のないクソウルフ腐が夢中になってプレイするくらいだから、きっと性癖の枠を超えた面白さがあるんだろうと思っただけです。実際、動くリゲルたんもクラティラス嬢も尊かったですし」



 なるほど、私が教室でプレイしてたのを見て買ったってわけか。


 確かに、あの大神那央が乙女ゲームをやるなんて天変地異だって他の皆にも言われてたもんね。そりゃ気になるわな。何だかんだで江宮とは、ゲームの好みに限っては趣味が合いすぎるくらい合ってたし。



「……あれ? じゃあ私、功労者じゃん。麗しのクラティラス嬢と出会わせてあげた、キューピッド様々なんじゃん。なのにお前、ネタバレ聞かせようとしたり、私が選択肢決定する度に震え声で『それを選んでしまいましたか……』とか抜かして絶望させたりして、嫌がらせばっかしてきてさぁ。超感じ悪くね? 今からでも感謝の気持ちを示したらどうなのよ?」



 と、愚痴るも返事がない。代わりに、すやすやと穏やかな寝息が聞こえてきた。



 あんだけ眠れない体質だとか言ってたくせに!

 もしや私の苦情を誤魔化すために、狸寝入りかましてんじゃないだろうな!?



 気になってそっと近付いて覗いてみたけど、イリオスは本当に眠っていた。本でつついても、耳元でえげつないエロBL妄想を語って聞かせても起きなかったから間違いない。


 イリオスの、というか江宮の寝顔を見るのは初めてだ。


 美形は寝顔も美しい。


 けれど私はそれに見惚れるより、江宮もやっぱり睡眠摂るんじゃん、ゾンビみたいだからって不眠不休じゃ活動できないんだなー、といった点に軽く感心していた。


 とにかく、眠れるようにしてあげたんだから感謝されていいはずだし、明日にはシャーペンのことも忘れている……と信じよう。


 そして私もベッドに戻ると、後を追うようにストーンと寝落ちた。ついでに、お兄様のことを聞かなければと思っていたはずなのに、残念ながらそれもスコーンと抜け落ちてしまっていた。


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