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悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
アステリア学園中等部二年
152/391

腐令嬢、忍び込む


 失恋をきっかけに誕生するはずのハニージュエルが、消滅した。


 代わりにデスリベリオンなる謎キャラが生まれたけれど…………これは、前代未聞の展開である!



「あんた、バカですよね? バカじゃなきゃ、こんなことしませんよね? ええ、バカなのは嫌というほど理解してます。なので、わざわざ教えに来なくて結構です。ということで、とっとと帰りやがってください」


「いいから開けてよぅ〜。すっげー話があるんだって。これは聞かなきゃ損だよ? 何でもっと早く聞かせてくれなかったって後悔するよ? しかも今なら期間限定、全話無料視聴!」



 窓の桟に手をかけ、私は必死に懇願した。その甲斐あって、イリオスは心底嫌そうではあったけれど、窓を開けてくれた。


 普通に訪問すればいいと思うでしょ?

 ところが、廊下には護衛がウロチョロしているんだよ。部屋には通してくれるだろうけれど、奴らにバレたら聞き耳を立てられる可能性がある。


 てなわけで、わざわざ三階まで外壁をよじ登ってきたというわけさ。何よりも、二人っきりでイチャラブしてる〜! ……なんて気色悪い妄想されるのが一番嫌だったからね。


 それにしても、さすがは王子に充てがわれた部屋。上官でもトップクラスの者だとか視察にいらっしゃったお偉方さんだとかが不自由なく過ごせるように設計されたのだろう。広さも設備も、我々の部屋とはグレードが違う。


 灯りを点けると護衛に侵入がバレそうなので、暗闇の中、私とイリオスは窓とベッドの隙間でヒソヒソ話すことにした。ここが入口の扉から一番遠いのだ。



「…………まさか、そんなことが」



 イリオスが驚きに大きく目を見開く。


 室内の光源は、静かに落ちる月明かりのみ。その仄かな灯りが、白い寝間着と銀の髪を淡く発光させ輪郭を不鮮明にする。けれどその分、紅の瞳は凛と強く際立って見えた。



「ハニジュエがデスリベになったってことは、『ゲームの設定』が変わった、と思っていいよね? テスリベでキャラを固定したとも限らないから、断言はできないけど」


「うーむ、確かに。やっぱり美を磨く方面で行きます、となる可能性もありますからな。いや、しかしこれは大革命ですぞ!」



 興奮のあまり、イリオスが大きな声を上げる。慌てて息を殺して様子を窺ったものの、護衛達がやって来る気配はなかった。


 放置しておいても問題のない陰キャな第三王子より、何やらかすかわかったもんじゃないパリピな第二王子の方に監視の時間を大きく割いているのかもしれない。今はリゲルのおかげで大人しくしてるけど、これまでがひどかっただけに全く信用ないもんなー。実はなんちゃってヤリチソのDTだけど。



「と、とにかく、明日からのロイオンに注目ですね。暫く様子を見ましょう。彼がハニジュエ化しなければ、あなたの死亡エンド回避も夢ではありません」


「……そだね」



 短く答えて私はふらりと立ち上がり、そのまま仰向けの形でベッドに倒れた。



「クラティラスさん? どうしました?」


「無理。眠い。疲れた。寝る。大丈夫大丈夫、少し寝るだけだから。すぐ起きるから」



 前世で何度も口にした定番の台詞を吐くと、イリオスも慌てて立ち上がり、シーツを掴んで激しく揺らした。



「何すんだよぅ。ちょっとくらい、いーじゃんかー」



 だがしかし、私も負けじと踏ん張る。



「いいわけないでしょーが! 少し寝るとかすぐ起きるとか、全部ウソじゃないですか! どうせ朝まで寝くたれて、ヨダレで枕をビッチャビッチャにするくせに!」


「しないよぅ、ヨダレ癖は治ったもーん……へーきへーき、ビチャらないビチャらない」


「あんたの言うことはあてにならないんですよ! ビチャろうがビチャるまいが、ここで寝るのはダメ絶対! 眠いなら速やかに部屋に戻ってください!」



 懸命に抵抗したものの、イリオスはシーツを引き剥いて、私を床に叩き落とした。言うなれば、テーブルクロス引きの失敗みたいな状態。


 触られないだろうから余裕余裕と油断していたが、こんな手を使ってくるとは。



「いってーな、頭打ったじゃん! これ以上バカになったらどうしてくれるんだ、てめー!」


「へー、今より下のバカレベルがあるんですか! こうなったら、最底辺のバカというのを見せていただきたいですな!」


「誰が最底辺じゃー! とっととくたばりやがれ、百合豚野郎!」


「最底辺といったらあんた以外にいませんよ! さっさと失せやがれください、腐れBL脳が!」



 さあ、戦争を始めよう……といったところで、我々はノックの音に固まった。



「イリオス殿下!? どうなさいましたか!? 大きな物音がしましたが!?」



 焦っているのか、怒鳴り声に近い調子で護衛が言葉をかけてくる。私の落下音で、異変に気付いたらしい。



 ヤババーン! ヤババーン! ヤババババン、バーン!!



 運動会でよく聞いたあの音楽の調子でヤバみを叫ぶと、私は急いでシーツに包まり、存在を消したつもりになってやり過ごそうとした。普通に考えれば、こんなもんでやり過ごせるわけがない。誠にアホである。


 しかし混乱して謎の擬態をした私と違い、イリオスは冷静だった。



「い、いえ、何でもありません。寝ぼけてベッドから落ちてしまっただけです。驚いて、大きな声まで上げてしまったようで……深夜にお騒がせして、申し訳ない」



 細く扉を開けて無事を告げ、普段と変わらない王子らしい落ち着いた表情を見せると、護衛は安心したようだ。怪我はないかと不安げに尋ねるだけでなく、慣れない場所ではなかなか落ち着いて眠れませんからねと気遣いの言葉までかけてくださった。



「お休みのところに失礼いたしました」



 丁寧に挨拶を述べて辞した仕事熱心な護衛を見送り、ドアを閉めて鍵をかけると、イリオスは抜き足差し足忍び足の泥棒歩きで戻ってきた。


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