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悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
アステリア学園中等部二年
131/391

腐令嬢、空笑う


「おや、奇遇ですね。あなた方もこれに用があったのですか?」



 リゲルのバッグを手にしてロッカーから出てきたのは、第一の仕掛け人・ステファニ。


 彼女の姿を見るや、三人組は慌てて逃げようとした。



「お待ちなさい。私はあなた達の味方です」



 ステファニは例の機械音声のような口調でそう告げると、リゲルのバッグを開いて中身を床にぶち撒けた。



「み、味方……?」


「何を言ってるの? だってあなた、クラティラス・レヴァンタの取り巻きでしょ?」


「そうよ、それにあんたもリゲル・トゥリアンと仲良くしてるじゃない!」



 三人がヒステリックな声で叫ぶ。そんな大声出して、大丈夫? 自分達が侵入者だってことを忘れてるのかな?

 うーん、やっぱり下っ端のパシリだけあって頭は良くないみたいだ。



「取り巻き? 仲良く? あなた達は私をそういうふうに見ていたのですか。しかし、誤解されるのも仕方ありませんね。『第二王子殿下、並びに第三王子殿下の命令』で、そのように装っておりましたから」



 さらりと答えてから、ステファニは床に散らばるリゲルの私物――に見せかけたインク切れのペンや最終ページまで私が構図練習で使い切った落書きノートを踏み躙りながら、改めて自己紹介した。



「私はステファニ・リリオン。王国軍から第三王子殿下の側近を経て、現在は彼の婚約者であるクラティラス・レヴァンタを『監視』する役目を担っている者です」


「か、監視? 何故そんなことを」



 一人が、恐る恐るステファニに問う。



「あなた方がそれを知る必要はありません。それより」



 ステファニは軽く身を屈め、足元から分厚い本――と見せかけて、表紙こそ立派だが中身は私がストレスで絵を描く気力すら失った時にひたすらウ○ンチの文字ばかりを書いた、クソ尽くしの自由帳を取り上げた。


 三人が、ヒッと声にならない声を漏らす。五センチもの厚みがあるそれを、ステファニが恐ろしいほどの怪力で真っ二つに引き千切ってみせたからだ。



「いつまでこんな手ぬるいことを続けるおつもりですか? あなた方ならば『リゲル・トゥリアンを限界まで追い詰められる』と期待していたというのに……全く、失望しました」



 うわぁ……ステファニ、超怖い。演技だとわかってても、スタンディング鳥肌不可避だわ。一度命令されたら決して止まらない殺人マッシーンみたいじゃん。


 ん? この設定いいな。冷酷無比な暗殺メカが愛を知って心が芽生えるシチュで、今度リゲルに一本書いてもらお。



「ま、待ってよ。あなたはどうして、リゲル・トゥリアンをそこまで追い詰めたがっているの?」


「あなたがクラティラス・レヴァンタの味方ではないとしても、よ。リゲル・トゥリアンを潰したところで、あなたには何の得にもならないじゃない」


「クロノ様は、彼女を随分と贔屓にしているのでしょう? あの子はイリオス様とも仲が良いようだし、こんなことを推奨してるなんて知れたら、あなたこそただでは済まないのではなくて?」



 口々に問う彼女達に、ステファニは静かに、しかし強く宣告した。



「第二王子殿下、並びに第三王子両殿下が、それをお望みだからです」



 三人が息を飲む気配が、こちらにまで伝わってきた。



「クロノ殿下が、本気であのような娘に肩入れなさるとお思いでしたか? イリオス殿下も、婚約者のために仕方なく友人を演じていただけ。全ては、リゲル・トゥリアンを追い詰めるための策略です。彼らには、あの娘を陥れねばならない理由があるのです」



 その理由を問われる前に、ステファニは手にしていたウン○チ帳を彼女達の足元に投げ付け、無言の拒絶を示した。



「あなた方に命じている者にも知らせなさい。両殿下はリゲル・トゥリアンの破滅を願っている、と。彼女を徹底的に打ちのめすことができれば、彼らは大いに感謝しお喜びになる、と。陰で小細工するなど甘すぎます。王子方の望みを叶えるためには、もっと大きな打撃を与えねばなりません。そこで私に、良い考えがございます」



 慄く三人の元へ、ステファニが近付く。そして彼女達に何事かを囁くと、さっと身を引いた。



「これならば、間違いなくリゲル・トゥリアンを殿下達の望み通りにすることができるでしょう。但し、これを実行するからには『全員参加』でなくてはいけません。一部の少人数では証言に信憑性が足りませんし、あなた方のような身分の低い者だけでは疑われてしまう危険があります。今こそ、リゲル・トゥリアンを排したい者が力を合わせるべきなのです」



 狭いロッカーの隙間から見ても、三人が蒼い顔をしているのがわかった。


 そりゃそうだよね……ステファニの案を実行したら、いじめが『犯罪』にパワーアップするんだもん。



「決意が固まりましたら、私に連絡を。場所のセッティング、そして獲物を運ぶ役目もお任せください。一番の功労者には、もしかすると……誰しもが羨む『第二王子殿下の第一夫人の座』をご用意いただけるかもしれませんよ?」



 ラストの決め台詞は、ばっちり効果があったようだ。三人は顔を見合わせて頷き合うと、足早に更衣室を出て行った。



 ステファニが奴らを見送り、そっと扉を閉めたのを確認すると、私はロッカーから飛び出して彼女に抱き着いた。



「さっすがステファニ! 超凄かった! 台詞もムードもパーフェクトすぎて、本気なんじゃないかと思うほど怖くてシビれた! 心配だから見守ってほしいなんて言ってたけど、私なんか必要なかったじゃーん! 理想の悪役だったよー!!」


「そ、そうですか? お褒めにあずかり、光栄です。しかしこれほどまでにうまくいったのも、クラティラス様が『なりきり』という新たな表現方法を教えてくださったおかげです」



 無表情ながらほんのり頬を染め、ステファニが謙遜の言葉を漏らす。



「なりきり? 誰のなりきりだったの?」



 ちょっと気になり、私は可愛く照れるというレアなステファニに萌え萌えしながらも尋ねてみた。



「クラティラス様の男体化バージョン、クラティオス様です。口調は闇に堕ちた悪イリオス殿下を参考にイメージしてみました。なりきりとは、すごいものなのですね。クラティラス様みとイリオス殿下みが熱く激しく強く深く結ばれ、私の中で結婚式を執り行っているかのような恍惚感で我を忘れかけました。おかげで一瞬であったとはいえ、イリオス殿下の唯一無二のベターハーフ・エミヤ様をないがしろにしてしまった気がします。ああ、今は後悔でいっぱいです……」



 ステファニがしゅんと項垂れる。


 悪役令嬢は男体化しても悪役なのかよとか、闇堕ちも何もイリオスは中身排泄物以下のクソ野郎だぞとか、そんな奴と妄想だろうと結婚させてくれるなとか、絵を見ただけで惚れ込んだ萎江宮(なえみや)を推しにするのはそろそろやめてほしいとか、もういろいろとツッコミどころがありすぎて、私は空笑いするのがやっとだった。



 とにかく、第一段階は成功。あとはアホ共がこの罠に引っ掛かる時を待ち、まとめて捕獲してお尻ペンペンしてやるだけだ。


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