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悪役腐令嬢様とお呼び!  作者: 節トキ
アステリア学園中等部二年
113/391

腐令嬢、おさらいす


 その生粋のバカ、イリオスはクロノ様を全身から放つヲタオーラで押し退け、私に詰め寄ってきた。



「何故、女の子だけでは恋愛に発展しないと決めつけるんです? 女の子同士で恋を育んだって、良いじゃないですか。あなたはリゲルさんが好き、リゲルさんはあなたが好き、そこに仄かに芽吹く淡い想いが全くないと言い切れますか? 言い切れませんよね? なのにそんなピュアでイノセントでセンシティブなガラスの如き美しく繊細な心を、あなたは否定するんですか?」


「ソーダネー……否定するわけじゃナイケドネー……」


「女の子はもっと自由に! 感情を開放しつつ! しかし女の子らしく恥じらい! 甘く切なく! 触れ合うか触れ合わないかの絶妙な距離で! イチャイチャすべきなのです! わかりましたか? わかりましたね? では『恋愛禁止』などというナンセンスなルールは即刻撤廃してください!」



 キモヲタの本性を現して熱く語るイリオスにうんざりし、私は晴れ渡った空を仰いだ。


 説得するだけ無駄だと早々に悟ってくださったようで、イリオスは私から周囲で見守る生徒達に視線を移した。



「皆様も、ご理解いただけましたか? 僕の部では、そういった『女の子同士の友愛』を深く研究することを目的としているのです。なので冷やかしは結構、純粋に活動内容に興味を持たれた方だけお待ちしております」



 第三王子自らが宣告した『自分目当ての奴はもう来るな』という牽制に、彼に熱い眼差しを送っていた女子達は揃って俯いてしまった。


 だが、これでおわかりになられたことだろう。


 こいつから王子の皮を剥いだら、中身はただのキモヲタ。許容範囲は友情以上恋愛未満、天真爛漫に笑い合い天衣無縫に戯れ合う女の子達を見てピュアっピュアな微百合妄想するのが大好物っていう、キモきことこの上ない奴なのだ。



「へー、イリオスの『白百合支部』って、そういうことやってるんだ。クラティラスとおんなじ『花園の宴』なのに、活動は全然違うんだねぇ。そっちもおっもしろそー! ねーねー、俺も混〜ぜてっ!」



 気まずい静寂を打ち破ったのは、クロノ様の底なしに明るい声だった。



「えっ……いや、でも兄上は『紅薔薇支部』に入部なさるのでは」


「そだよー。『紅薔薇支部』と『白百合支部』両方に入るの。ねークラティラス、兼部していいよねっ?」



 クロノ様が笑顔で私に確認を取る。私は迷いなく頷き、ニタリと意地悪く口角を上げた。



「ええ、もちろん。ああ、『白百合支部』は恋愛禁止なんてナンセンスなルールはないみたいから、気に入った紳士がおりましたらお好きに召し上がってどうぞ?」



 綺麗に取って返すとイリオスは言葉に詰まり、薄いくちびるを噛み締めた。


 だが私は知っている。


 奴が震えているのは、悔しさのせいではなく、前世で最推しだった『悪役令嬢クラティラス・レヴァンタ』の最大の特徴ともいえる、極悪で冷酷な笑みに激しく萌え散らかしているのだと。




 ここは、乙女ゲーム『アステリア学園物語〜星花せいかの恋魔法譚〜』の世界。


 前世で立派な腐女子として生き、事故で十九年という短い一生を終えた私――旧名・大神おおかみ那央なおは、妹に押し付けられて渋々クリアしたこのクソみてーな乙女ゲーワールドに転生した。


 しかも与えられた役は、全ルートで死亡確定という可哀想にも程がある『悪役令嬢』。


 他の乙女ゲーはやったことないからよく知らないんだけど、このゲームではまず『メイン攻略対象』によるブリーフィングがある。そいつと一緒にさらっとダイジェスト的に簡易なイベントをこなし、チュートリアル編を終えてから本編が開始するという仕組みだ。ゲームのコンセプトが『乙女にこどももおとなも関係ない! 誰でもキュンキュンできる乙女ゲーム♡』だから、低年齢層に配慮したんだろう。


 なので、世界観もアホみたいに緩い。正月にはお餅食べるし、夏は浴衣で花火大会が風物詩だし、卒業入学シーズンは桜も咲く。スマホだとかテレビだとかはないけど、洗濯機や冷蔵庫、それにトイレも洋式タイプでバッチリ完備。貴族の家では、お尻キレイキレイの洗浄機能まで搭載されているのだ。


 これも貴族階級やらファンタジー用語の知識がなくてもプレイできるように、限りなく現代日本に近い親切設計にしたと思われる。おかげで助かってるけどね……本当の中世だと、おトイレ事情が大変だったみたいし。


 で、最初にゲームの手解きをしてくださるメイン攻略対象というのが、全攻略対象で最も高スペックを誇るアステリア王国第三王子、イリオス・オルフィディ・アステリア。


 そしてチュートリアルで『不本意ながら政略上必要があって婚約させられたが、彼女には一切興味がない』と紹介される悪役令嬢が現在の私、クラティラス・レヴァンタ一爵令嬢ってわけ。


 ゲームのクラティラス・レヴァンタは、ヒロインがどの攻略対象を選んでも死ぬほど意地悪するから、どのエンディングでも漏れなく王子に婚約破棄されて死ぬ。


 これ、意味わかんなくない? ヒロインが王子を狙ってないなら、クラティラスは意地悪する必要ないじゃん。しかもヒロインとくっついた攻略対象とが結婚する日に死ぬんだけど、『クラティラス・レヴァンタは自死したそうだ』って雑すぎるテキストが流れるのみよ?


 悪役令嬢をバカにしてんのか!? 死ぬにしても、せめてもっと華々しく散らしてやれや!!


 でも……今のところ、私がヒロインをいじめることはなさそうだ。だってそのヒロインって、私の超絶仲良しレンドのリゲル・トゥリアンなんだもん。いじめるどころか、逆にいじめられても新たなプレイと勘違いしてニヤニヤしてしまう自信あるわ。



 となると、クラティラス・レヴァンタの大きな死因となる『王子による婚約破棄』を回避すれば、私の死亡フラグは叩き折れる――はずなんだけど。


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