遅刻したら悲劇に巻き込まれた賭博師
多くの人は、常に平和を意識し
生きる
安心、安全、安定、ノーリスクが当たり前。常に安定を望み、自ら進んで危険など犯さない
リスクはあっても最小限。最小限にかわし
平和な日々を生きている
この物語の主人公
ユウキャ。
彼ももちろんそうだ
そういう環境でずっと育ち、生きてきた。リスクなんて好んで背負わない
常に回避
安全第一。
しかしーーーー
彼に、やがて訪れる人生の別れ道。いわば分岐点
彼は今、伝説のギャンブラーへの扉を開けようとしていた
ごく普通の生活、ありふれた人並みの生活
ユウキャはそんな生活を送っていた
そんなユウキャは某大型家電製品店で働く、契約社員である。
この日は朝から仕事で、いつも通り出勤した
そしていつも通りタイムカードを押し
いつも通りのコーヒーを飲み、会社の日課である朝の朝礼へと出向いた
ーーーが。
この日は、なんと数ヶ月に1度の朝のビックイベント。遥々と本社より専務が朝礼の視察に来る日だったのである
ユウキャはもちろん、忘れていた
本社からの視察が来る日には決まって、いつもの時間より10分程早く朝礼を開始する
暗黙の了解的なやつである
もちろん普通の日と思っていたユウキャは遅れた
遅刻・・・!
いや、労働契約上では遅刻ではないが
この状況は遅れたヤツが悪いパターンである
専務の視察の日はいつも通りの朝って訳じゃない
悪く言えば見栄であり、時間さえ盛る
「いつもこの時間から朝礼をやってます」
みたいな顔をするんだ。どいつもこいつも
(おおっ、私が来る日だけは早いね!)
なんて専務は聞くわけがない
だって専務が来る日は毎回、いつもより10分早いんですものこの開始時間が当たり前としか思われていない
ユウキャは朝礼に遅刻して、目立つ
当然、刺さる。同僚の視線。
専務からもチラっと流し目。
おそらく眼で叱られた
浮く存在。まるで仲間外れ・・・
「クソッタレ、忘れてた自分が悪いんだよな。仕方ない。」
今はこの屈辱に耐えるしかない。
しかし、ユウキャをとある悲劇が襲う・・・
(ボフッ!ボフッ…!)
おおっと強烈なボディーブローが炸裂!
くっ・・・!
なんとユウキャのお腹の中のロッキーが暴れ出したのである。
ああ、朝飲んだコーヒーだ
ユウキャが自身で分析するロッキーにはいくつかパターンがある
Aの「暴れても意外と安全な長期タイプ」
Bの「ジャブしか打てない楽勝タイプ」
Cの「暴れ出したら危険だが波さえ読めば攻略しやすいタイプ」
Dの「最強のドランカー。毎回1RでKOされるタイプ」
最悪にも今回はDのタイプだっ・・・!
うっ・・・!
今すぐトイレに行きたい所だが…
遅刻した身分…
正直行きにくい…
しかも今は専務の熱弁の真っ最中だ
どうする…
行くか
行かないか
二者択一・・・!
いや、二者択一ではない
行かないなら
戦わなければならないっ・・・!
大きく言えば…
もれるもれないでの
二者択一・・・!
いやいや、想像できない
この歳でもらすなんて…
泥酔時やアクシデントならまだしも…
朝に…?
ははは。ありえない
でも絶対じゃない・・・!
この世に絶対なんて無い
万が一が無くは無い
そうなれば…
地獄…
しかし
トイレに行けば楽になれることは間違いない
むしろそれが正解、大正解さ。
普通に99%の人達はそうするって、子供じゃあるまいし
ホントはこんなので選択なんて存在しないよ
しかしこの状況。99%では無い残りの1%は、そう、わたしの状況だ
自分で撒いた災難だ。楽にはなるが
自己完結
自己満足
専務からは、遅刻して熱弁の途中で抜ける男でしかない
しかも専務は我が社の人事管理者だ…
給料のアップダウンは専務が握っている…
少しでも遅刻を挽回したい・・・!
しかし我慢することに正解は存在するのか…
今、楽になるか…
可能はゼロではない未来に生きる
オレはっ・・・!!
くっ・・・!
終わらない専務の熱弁。攻撃し続ける腹の中のロッキー。
この状況にユウキャは、動かないっ・・・!
今、楽になる事をあきらめる・・・!
戦う事を選んだ・・・!
すでにこの状況
二者択一なんて存在しない・・・!
すでに
選択なんてモノは存在しない・・・!
一本道・・・!
進むだけだっ・・!!
もうここまで来たら勇気・・・!
進む覚悟を決め
耐えるだけ・・・!
時間さえ過ぎればおのずと出る結果のみ・・・!
勝ちか・・・!
あるいは
負けか・・・!
上手く行けば、朝礼を終え無事にトイレにGO!
理想はオールオッケー
これ以上ない勝ち方…!
リスク…
ハイリスクっ・・・!
人生最大となる
大バクチ・・・!
だが…
勝負と言えども
勝ち負けの確率は、五分五分じゃない・・・
むしろ勝ちの方が高い…!
確率・・・
なぜならユウキャは気付く
ロッキーは最強のDタイプだが…!
過去最大に
どこかしら
甘い・・・
つまりあれだ…
波が…
腹痛時の大波・小波が…
予想よりも弱い・・・!
間違いなく、今日のロッキーは甘い・・・!
断然、有利・・・!
そしてユウキは小さな突破口を見つけた・・・!
それは
店長っ・・・!
専務の熱弁はまだ終わらないが
朝礼時の話しと言うか、流れというか
つまり通常なら
副店長の話→店長の話→朝の発声練習→解散。
となるが
今日は副店長は
休みっ・・・!
おそらく今日は
専務→店長→朝の発声練習→解散
のパターン・・・!
となれば…
これだけ長い専務の熱弁の後だ…
店長は当然気にするであろう、開店までの時間っ・・・
専務の熱弁のあと、自分がダラダラと話してしまっては影響するでしょ、開店の準備に
だから店長は、気を使い。短縮。
ササッと話を終えるに違いない・・・
好機っ・・・
むしろ専務の熱弁が続くほどこっちは好都合…!
これだけ長く熱弁が続けば店長は専務にも気を使っても可笑しくない…!
喋れないっ・・・!
場合によっては専務の機嫌を損ねる
店長は長く喋れない…!
しかし長い
専務の熱弁・・・!
まるでゴールの見えない
マラソン・・・!
ペース配分というか…
精神力配分を乱される…!
あと何キロ走ればゴールなんだ・・・!
しかしこの瞬間…
ユウキ
まさかの油断…!!
突如として
押し寄せた波…!
今日1番の大波・・・!
結構なビックウェーブだっ・・・!
ヤバイっ・・・!
生まれる
足をモジモジする…!
ヤバイヤバイ…!
だがっ・・・!
1つの事が脳裏をよぎる
これはガスじゃないか…?
確信は無いが
生まれようとしてる奴は
少し軽い気がする…!
固体では無いっ・・・!
気体っ・・・!
気体に期待っ・・・!
しかしガスだ…と思う
ここで上手くガス抜き出来れば
当然、楽になるっ・・・!
あとは騙し騙し
ゴールまで完走するだけ・・・!
しかし万が一
くっ・・・!
怖い・・・!
感じる
この土壇場に来ての
恐怖・・・!
不安・・・!
後悔・・・!
くっ・・・!
もう
覚悟を決めろっ・・・!
万が一の時
職場。
同僚。
友情。
人望。
未来。
その他もろもろ。
すべてを絶つ覚悟を…!
断固たる決意を…!
もう
信じろっ・・・!
自分自身を・・・!
いくぜー!!
あっ・・・!!
ああっー・・・!!
クリアー・・・!!
良かったー!!
ガス抜き成功っ・・・!
でもここがゴールじゃない・・・!
むしろここから…!
ラストスパート…!
クライマックス…!
耐えろっ・・・!
(ボフッ!ボフッ…!)
なんで・・・?
ロッキー・・・!
ここでまさかのカウンタークロス・・・!
ぐふっ・・・!
貴様も勝負師だったのか…
『あぁーっと!キレイに入ったー!
ユウキャー!倒れてしまうのかぁー!?』
オレの未来がっ・・・!
しかしリアルタイムで専務の熱弁が終了っ…!
続いては店長っ・・・!
頼むっ・・・!
もう・・・!
「はい。えー、もう時間が無いので終わります!
急いで開店の準備をしてください!」
うおぉぉぉー!!
店長ぉぉー!!
超愛してるー!!
ユウキャは無事
勝利という名のドアを開け
トイレに駆け込んだっ・・・!!
ここにまた1人ギャンブラーが、誕生した・・・!